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生徒会1 

 ジンに自分の状況を説明した後、少し雑談して布団に入った。


 ——明かりを消してから、自分の状態が異常だって強く思う。


 だってな。

 絶対に変だって。


 アイツが同じ部屋に寝てるんだって思っただけで、照れくさくて恥ずかしくて、眠れない。

 心拍数が上昇してきて胸が苦しい。


 ——ゲーム内に転生なんか、してるからだよな。


 乙女ゲームには詳しくないけど、ギャルゲーならやった事はあるし。ああいう、仮想恋愛の話は感情移入しないとつまらないもんだし。わりと簡単に恋愛感情が湧くように作られてるんだよな。


 絶対にそうなんだよ。


 自分も、この世界ではキャラの一人だって自覚しとかないとヤバイかもしれない。この世界の恋愛観はわからないけど、やっぱり同性はハードルが高いだろ。


 あんな良い奴に——気持ち悪いとか思われたら、死ねるかもしれない。


 だから——落ち着け。


 落ち着け、落ち着けって呪文みたいに思ってたら、そのまま寝落ちしてたらしい。


 「リュー、起きろって、あー。起きろ、裕翔!」


 名前を呼ばれて目を開けたら、真ん前にジンの顔があった。


「うっ、うわぁぁぁぁぁ!」


 飛び退いて壁際に逃げたら、ジンが顔を顰めた。


「どういう反応だ? 起こしてやってんのに」

「え? あ……いや。悪い」


 心臓が飛び出すかと思った。

 顔が近いんだよ、顔が!


 拗ねたような目で僕を睨みながら、ジンは軽く首を竦める。


「起きたんなら、早く着替えて顔を洗え。飯を食いに行くぞ」

「………」

「おい、返事はよ?」

「え? あ、はい」


 これは、仕様だから。

 頼むから。


 自分の心臓に手を当てて、収まるの待ってたらジンが——。


「あっ、忘れてた。おはよう」


 そう言って綺麗な顔で笑った。


 くそ——。

 こんな状態で、僕はちゃんと魔王を倒すとこまでいけるのか?


 ☆


 ——ソルティソ学園というのは、一学年が一つのクラスになってる。


 三年制ということで全体でも三つしかクラスがない。

 要するに、新入生は皆んな同じクラスってこと。


 今日も授業の内容はチュートリアル。

 一年をかけて行われる授業内容の進行や、行事の話なんかが主だった。


 授業が終わると——。

 ミザリア・チェミン嬢が声を掛けて来た。


 すごく意外だ。


「クライド様、アイデン様。お二方も生徒会に顔を出すのですよね? 実は私も声を掛けていただいているのです。ご一緒してよろしいでしょうか?」


「え? あぁ、もちろん」


 僕が頷くと、彼女は少しホッとしたように微笑んだ。この娘も綺麗な女の子だよな。色白いし、目は大きいし。黒髪に灰色の目ってミステリアスだ。


 ルドルフ王太子に婚約者がいるのは、姉貴が喚いてたから知ってる。けど、チェミン嬢の役割って今ひとつ分かってない。ラブストーリーメインで考えると、彼女はヒロインの恋敵って感じなのかな。


 王太子ルートは《マルペーゼマルモ〜ラビリンスオブディスティニー〜》のメインルートだったみたいだし。パッケージの中央に王太子が描かれてたからさ。


 僕はヒロインを見つけて、攻略対象との間を後押ししなきゃならない。そのヒロインが王太子ルートを選ぶと、チェミン嬢の恋の邪魔する役目かと思うと……なんか、彼女に気後れするよな。


 ソルティソ学園の生徒会室ってのは、貴賓室かと思うような作りだった。さすがご貴族様の子息、子女が通う学園だ。


 マホガニーの床、重厚な椅子や机、書類棚や応接セットまである。そこにキラキラのイケメン王子が笑いながら立ってる。


 ——ちょっとした悪夢みたいだ光景だ。


「やあ、来てくれると思ってたよ」


 ルドルフ王太子の後ろには、長い足を組んでる男性と、人形みたいに綺麗な少年がソファーに座ってた。


 後ろの男性は、たぶん、上級生。背が高く、手足が長く、焦げ茶の肌に銀の髪と目。


 ——彼らも攻略対象だ。


 僕が上級生を見ると、彼はニコッと笑った。


「二年のアルゲント・パイソンだ」


 なんだ、この人。

 赤面しそうになるくらい、色香の漂う二枚目じゃないか。


 オープニング映像にも出て来てたけど、やっぱ、生きて動いてると存在感が違うな。


 もう一人の美少年も、ニコニコっと笑った。


「僕も二年。マルグランダっていうんだ。よろしく」


 クルクル巻き毛の金髪、薄い茶の瞳に長い睫毛、桜色の唇。下手な貴族子女は裸足で逃げ出す美貌。さすが、乙女ゲーム、顔面偏差値が天井知らずだ。


「まず、生徒会のメンバーを紹介しよう。僕は生徒会長のルドルフ・スヴェルガ。唯一の三年だ。そこの彼は副会長のアルゲント・パイソン。今はここに居ないけど、もう一人、書記のベーダ・グランチェがいる。僕の弟、マルグランダ・スヴェルガは会計をしてる。これが二年のメンバーだよ」


 ルドルフ王太子はニコッと笑って、僕たちを見る。


「新入生の中から勧誘させてもらったのが、君たち。アンドリュー・クライドくんとジン・アイデンくん。それにミザリア・チェミン嬢」


 なるほど。

 あの美少年の名前はマルグランダ。

 王太子の弟なんだな、納得のスペックだ。


 王太子は、にこやかに両手を広げて僕たちを見る。


「ソルティソ学園の教育方針として、生徒会の運営は全て生徒の自主性に任されている。采配の幅が広いということは、それだけ責任も重くなる。それでも、僕たちは是非とも君たちに参加して欲しい。どうだろうか?」


 ジンは生徒会参加に異論がないらしく、躊躇なく答えた。


「よろしくお願いします」


 けど、僕は素直に頷けない。

 とにかく自由に動ける時間が欲しいからさ。


「……辞退したいんですけど」


 ——ん?

 なんだろな。

 答えに困惑の色が広がってる。



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