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狡い

 この世界の破滅とやらを回避する為にも、魔王だけは倒さなきゃな。


「……僕は魔王を倒して、ゲームクリアを目指そうと思う。そしたら、元の世界に戻れるかもしれないし。まあ、ジンからしたら、中の人間が変わるだけだろうけど」


 分かんない事だらけだけど、今の自分にはここが現実——そう思うしかない。足掻いてみるしか、ないんだよな。


 目の前のジンは、飲み込めないモノを飲み込もうとしてるみたいに、喉の辺りに力を入れて俯いた。仕方ないよな、自分がコイツの立場で話を聞いたら妄言扱いするだろうし。


 こうやって、聞いてくれただけでいいさ……投げやりにならないで済む。


「信じなくていいよ」


 なんとか笑顔らしいものを作って言うと、彼は困った顔で首の後ろに片手をやった。


「鵜呑みに出来るかって言えば、無理だけどな。だからって………頭から否定することもできない」


「………」


「魔王の復活ってのは可能性としてあるんだ。前の復活から五百年経ってるからな。それに、お前の言った名前の人間は確かに学園にいる。ルドルフ王太子は勿論だけど、公爵家のアルゲント・パイソンも、侯爵家のベーダ・レオントードもな。それに——ププラ・ファントモの名前まで出てきたし」


 ——ああ。

 やっぱり、攻略対象は揃ってんだ。


「ところで、その人は誰? 僕は名前しか知らないんだけど」

「普通は名前も知らないだろうな。ププラってのは宮廷魔法使いの名前だ。俺も会ったことはないが、親父が魔法使いなんで知ってる」


「……宮廷魔法使い?」


「ああ。変わり者で宮廷仕事が嫌いなんだって親父が言ってた。俺はファントモがソルティソ学園に関わってるのを知ってるけど、普通は知らないはずだ。けど、お前は知ってたからな」


 彼は綺麗な顔でニコッと笑った。

 笑うと思ってなかったから、ドキッとした。


 思わず目を外らせる。

 ——マジ、心臓に悪いって。


「それに、お前は本当に別人みたいだしな。かしわぎ……ゆうと?」

「うん」

「ゆうと。どっちにしろ、魔王が復活するなら、阻止、ないし討伐する。それは俺も同意見で変わらない。だから、まあ、一緒に——魔王を倒そう」


 一緒に?


「……僕と?」


 思わずジンの顔を見ると、なんてことない様子で頷く。


 あ、ヤバイ。

 なんか、泣きそうだ。


「なんていうか………うわごとみたいな話を……信じてくれるんだな」


 ダメだ。

 視界が滲んできてる。


「信じるよ」


 ジンは面白そうに僕を見る。


「本音を言えば、昨日のお前より、今日のお前の方がいい。アンドリューより、ゆうと、との方が気が合いそうだ。これから、同室なんだし、よろしく頼むな」


 そう言って、腕を伸ばすと僕の頭をガシガシと撫でた。

 もう顔が真っ赤になってると思うけど、今はそれどころじゃなく。

 滲んだ涙を拭いながら、心の中で叫んでた。


 こんなの、狡いだろ。 


 僕がヒロインなら、攻略すんのはお前一択だ。

 ——しないけどな。 


「で、裕翔は何から始めるんだ?」

「……うん。僕は、まず、古代語を読めるようにならないといけないと思う。《クリスタル・ローズ》について、調べたいから」

「なるほど。それだと、独学しなきゃならなくなるな。古語は授業にないし」

「……そう。まあ、とにかくやってみるしかないから」


 ジンは少し俯くと考えながら言った。


「俺の親父なら古語が読めるんだけどな。親父も魔法使いだから」


「……聞いて良いかな? この世界だと魔法って誰でも使えるの?」


「いや。誰でもって訳じゃない。基本的には血筋が関わってる。貴族が踏ん反り返って貴族やってるのは、血筋的に魔法が使える奴が多いからだ」


「なるほど、だから、ソルティソ魔法学園には貴族の子息子女が通うって事になってるのか」

「ああ」


 彼は長い指で顎をトントンと叩く。


「基本的に、俺の親父はブレスの森に居る。ああ。ブレスの森ってのは、マルペーザマルモの北にあるんだ。隣国、瑞祥国との境で、アイデン家は代々そこを守ってる。距離があるから行き来は難しいけど、手紙でなら遣り取りができる。俺からも親父に《クリスタル・ローズ》について聞いておくよ」


「!! ありがとう。助かるよ」


「いや。実は、古語は俺も勉強しろって口煩く言われてた。古代魔法には、今の簡素化された魔法とは違う強力な魔法も多い。アイデン家に生まれたからには、勉強しろって言われたんだけど——」


 ジンは少し苦笑しながら首を竦めた。


「兄貴の手前、あんまり乗り気じゃなかった」

「……?」

「俺は次男だからさ」

「どういう?」

「……家督の問題だ。あんまり熱心に魔法を覚えたりすると、兄貴にプレッシャーが掛かるからな。俺は剣技の方に力を入れてた。性にもあってたし」


 そういうの、やっぱりあるのか。


 ノベルとか、コミックとかでは、兄弟間の家督争いとか描かれることが多いけど、現代日本だと実感がわかないんだけどな。


「けど、まあ、読めて悪いってこともない。俺も古語に興味が出たって感じで、親父に資料を送ってもらおう」

「……なんていうか、本当に助かる」


 ジンが眉を下げて面白そうにククッと笑った。


「そういう顔するなよ」


 どういう顔してたか分かんないけど。

 ……君の笑顔の方がヤバイって。


 ああ、もう、コイツ、ヤダ。



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