目覚め
目を開けたら、妙に綺麗な顔の奴が俺を覗き込んでた。
「着替えろよ。飯を食いに行くぞ」
「…………誰だ?」
そいつは切れ長の大きな青い目を細める。
「昨日、自己紹介しただろ。同室のジンだ。ジン・アイデン」
少し不遜な態度。
整った顔。
黒髪に碧眼。
コイツ——どっかで。
「……ジン?」
「そうだよ。まだ寝ぼけてんのか?」
僕はベッドの上に飛び起きて部屋を見回した。
木造の部屋、机が二つ、ベッドが二つ、ロッカーダンスが二つ。
どこかの寄宿舎のような部屋。
……これ。
見たことがある。
「おい、アンドリュー・クライド。いい加減にしろ」
「アンドリュー・クライド?」
呆然としてたら、ジンと名乗った奴が戸惑った声を出した。
「自分の名前だろ……お前、大丈夫か?」
ベッドから飛び降りて、部屋を見回して鏡を探す。
見たことある。
聞いたことがある。
——けど。
壁に掛けられた鏡の中に写ってたのは、赤毛の混ざった金髪に淡い緑の目をした奴で——。
「これ……誰だ?」
「お前だろ」
「い、いや、いや、違うだろ!」
「違わない」
「け、けど、俺は黒髪黒目の日本人で」
肩を掴んで自分を向かせると、ジンは怪訝そうな顔で俺の額に手を当てた。僕より少し背が高く、手足の長いバランスのいい体つきをしてる。
コイツ——なんか、格好いいな。
確かにチョットは、そう思ったけど。
けど、ほんのチョットだ。
なのに、僕の心臓がいきなり早鐘のように打ち出して、顔に血が集まってくのが分かる。
——心臓ヤバイ。
な、なんだ、コレ。
なんで……こんな。
ジンが青い目を微かに細めた。
「やっぱ、熱があるんじゃないのか?」
「え? い、いや、違う」
「けど、お前の顔熱いぞ」
僕は額に当てられたジンの手を掴んで放り投げる。
「ここって、マルペーザマルモ王国」
「そうだが?」
「ソルティソ魔法学園の寄宿舎?」
「ああ。そうだよ。だから、さっきから、何の確認なんだ?」
混乱しながら、なんとなく状況が理解できて来た。
見たことあると思ったのは、ここが、姉貴がハマってた乙女ゲームだからだ。
ここ、ゲーム内なのか?
い、いや。
ちょっと落ち着こう。
夢とか見てる可能性もあるし。
でも、凄いリアルだ。
まさかだろ。
……いや、そういえば変だった。
リビングに放置されてた若葉姉のゲーム機を手に取ったとこまでは覚えてる。
なんで、こんな所に放置してって思って——。
モニターにオープニングムービーが流れて、気づいたら金色の扉が現れて開いた。
……なんで、あのゲーム機は放置されたままで画像が流れてたんだ?
一定時間で暗くなるだろ?
ゲーム機はどのくらい放置されてたんだ?
若葉姉はどこへ行って——。
ダメだ。
考えても全然わからない。
「体調が悪いなら、教師に言って休むか?」
ジンの声に思考が遮られた。
「……いや。大丈夫だ」
とりあえず、とにかく、何が起こってんのか把握しないと。
「なら、とにかく着替えろよ。朝飯を食いっぱぐれる。それに、お前は新入生代表の挨拶があるだろ」
「……挨拶?」
「忘れたのか? 昨日、ルドルフ王太子に言われただろ」
——きゃー! ルドルフ様、ギャップー!
若葉姉の声が聞こえた気がする。
ルドルフ王太子は姉貴の最推しキャラだったからな。
ちょと待って、僕、アンドリュー・クライド?
——アンドリューはね。序盤で案内役してくれる可愛い子なんだけど、攻略対象じゃないんだよね。ヒロインに恋をするんだけど、実らない悲恋のキャラで——もう、胸熱!
僕は……姉貴の推しの一人じゃないか。
目眩がしそうだ。
「お前、本当に大丈夫か?」
ジン・アイデンが困惑顔で俺を見つめてる。
大丈夫じゃないけどさ。
こうやってたって仕方ない。
「……悪い。すぐ着替える」
僕のお腹がキュウッと空腹を訴えた。
とにかく、何か食べないと思考が纏まらない。
——というか。
お腹が空くんだな、この世界も。
本文とは、関係ありませんが——。
完結済みを読んで下さった方々、評価やブックマークをくださった方々に感謝が伝えたく。
私、他のSNSを使っていないので、お礼を言える場所がないのが哀しいのです。
ここで、お礼を言わせていただければなーと。
同じ方が読みに来てくださるとは限りませんが、もし、万が一にもお目に触れる機会があればと。
読みに来てくださった皆様に、多大な感謝をしております。
また作品書こうと思えるのは、皆様のお陰です。
ほんとに、ありがとー(^^)