惑星リグレット(1)
それは、失ったかもしれないが、
きっと、アイはある。
これは、、何処かの、誰かの、アイの物語である。
最終地点は何処なのか?
それが分からない。
答えはそこにあったかもしれないが、きっと逃げていたのかもしれない。
何処が最終地点なのか。
今は、下を向くことしか出来ない。
「自分が何処に向かっているか分からない」
いつからか、人生の線路を見失うようになっていた。
希望というのもは、心の片隅に持つようにはしてた。
ただ、その明日はいつになったら来るのか。
今だけ苦しいのか。
今というのは何なのか。
30歳を迎えた今、俺は、完全につまずていた。
つまずいている自分を置き去りにしては、、、
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惑星リグレット(1)
〜今〜
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ピリリリ・・・
ベッドの隅に置かれたスマートフォンのアラームが小さく響く。
微かに目を開き、人口太陽が微かにカーテンから射し込むのを確認した。
暖かい光、ここの惑星はまだ、暖かい。
が、心の中は、というより目の前に、、未来に光は刺さない。
アパートの窓から刺す人口太陽の光は、嫌いではないのかもしれない。
ここは、惑星『リグレット』。
後悔の日々に悩まされる人が住む惑星だ。
半年前、俺もここに住むようになったというか、流されたというか、望んだというか。
特に朝のルーティンが決まっている訳でなく、ただ朝も流されるまま、仕事の出勤時間に合わせ、着替え、外に出て、朝食を食べて、仕事場に着く。
そんなことを毎日繰り返している。
惑星リグレットは、総人口1億5千万人が住む小規模な惑星だ。
望んで来る人もいれば、そうでもない人もいる。
ここの基準は、常に後悔が基準な惑星であることから、申告して流されて来る人の方が多い気がする。
その惑星の中心地とも言える
ここーー『ダクト』と呼ばれる街。
住宅街は狭しく立ち並び、道行く人は下を向いているばかりの街。
いや、この惑星に顔を上げて歩いている人の方が珍しい。
俺の職場は、市街中心といえるココナッツ駅から、徒歩10分程の住宅街のビル3階ある内の2階にある
相談営利団体『フリーズ』
という、まぁ、主にボランティアだったり、相談を受けたり、ちょっとしたことでも、少額の金で解決する仕事をしている。
正確には、俺はその仕事で気分を晴らしている。
「おはようございます」
会社の事務所まで辿り着くと、玄関を開いて挨拶した。
玄関の先は、相談部屋と呼べる小部屋が二つ立ち並び、その小部屋の間に、廊下があり、その先は小さなオフィスとなっている。
席が三つ並び、社長が座る席が自分らの席とは合い向かいに設置されているオフィスは、俺の職場が小規模で動いていることを意味している。
そのオフィスへと足を運ぶと、
「あら、おぱよう。今日も、時間ギリギリね。エツキ」
3つ並ぶ右端の席に座り、眠たそうに声を出すこの女性。
身長160センチくらい。
髪は黒髪でセミロング、目は奥二重。
メガネは掛けており、鼻は普通に整った感じ。
年齢は34歳で、俺の4つ上。
名前は、確か、、テシガワラ・レイカ。
俺と同じ人の目を気にする惑星『ジパン』出身。
「すいませんね」
気が乗らないから、素っ気なく返事を返す。
「あら、、素っ気ないね」
ズバリ言われる俺。
あまり深く考えず、3つあるデスクの中央に座る。
この席が今の俺をかろうじて保っている席。
俺自身が、『生』というものにかじりついてる唯一の席。
デスクに置かれたカレンダーをチェックし、今日の予定は、二つと確認する。
午前10時に相談と、午後3時に相談。
一回の相談料は2000円、安いか高いかは人それぞれだが、そこも深く考えない。
(ジパンにいた頃は、まだマシな仕事してたな。。)
ふと思いつつ、自分がこの惑星『リグレット』にいることを再確認する。
この惑星の由来は、悩み生きとし生ける惑星。
皆、後悔から抜け出せず、密かに暮らすことに安心を得て、あるいは、考えることを辞めた人が多い惑星。
幸せとは何か。
分からずもがき苦しむこの惑星の人々は、希望という明るい方に向かう意欲は少ない。
俺が勤めるここ『フリーズ』は、、主に収入源は、、個人で扱う相談と企業で行うボランティア。
相談としても重たいのもあれば、軽いのもある。
しかし、相談を受ける人は、それなりの人柄というかナリもなければならない。
そのため、この会社の募集要件として、
顔が良い。
これを第一に捉えて、その次は、社長の目利き次第といったところだ。
俺は、途中で買ってきたシュワシュワする飲み物、コークを飲み、午前10時になるまで『フリーズ』のサイトに載せられたお悩み掲示板を見る。
決して人に話したところで解決なんてしないだろう、、と思いつつも、結局自分も傷の舐め合いをしたいだけなのかもしれない。
そうやって、パソコンに寄せられた相談にかじりついてころ、、会社の扉が勢いよく開く。
「おはようございまーーす!遅れましたー」
元気よく入って来るのは、俺の後輩にあたるアサリ。
歳は、23歳、身長は155センチと小柄、あえて説明するが、体格は普通で、推定Bカップ。
髪型は、茶色のショート。
レイカや俺と違って『ジパン』出身ではないが、明るく元気だ。
だが、決して深く接してはいけない。
「おはよう」
あくまで自然に挨拶を言う。
これは仕事。
気になってはいけないし、たぶん、気にならないだろう。
こんな性格になったのも、いつからか。
『ジパン』にいた頃からか。
そこも、考えるのを辞めたから分からない。
考えても意味ないからだ。
「先輩おはようございます。今日もかっこいいですね!」
昔だったら素直に嬉しいが、今はお世辞としてシンプルに嬉しい。
自分の気が少し明るくなるのが分かるが、まぁ、、すぐに暗くなる。
「あのさ〜、、お世辞は辞めたほうがいいぞ」
2ヶ月である程度は性格が分かってきたが、社会人の先輩として一応注意する。
俺は有り難く受け取れるが、人によっては誤解になる。
「私、お世辞はいいませんから!」
そう言いながら、俺の左横の席に座る。
「わかったよ・・・」
これ以上関わると、アレになるな。アレに。
自己防衛のスキルだけは、上達していく。
それが人生で、それが、人生なのか。。。
「・・・・・・・にやっ」
右隣でレイカが不敵な笑みを浮かべた気がするが、恋愛するためにここにいるんじゃないし、なんか、そういうのも疲れてくる。
こんな感じで色々思いながら、今日も仕事が始まる。
仕事とは何か。
そんなことも深く考えず、決して深く考えてはいけないだろう。。
俺は、無虚力に自分のデスクに座ってボーッと、ただ10時になるのを待つ。
相談という文字を見ながら、ただ無気力に。。
そして、、、
ビビビッーーーー
玄関のチャイムが鳴り、時間は、午前9時50分。
早めに最初の相談者が来たようだ。
ガチャ。。
玄関の扉が静かに開く。
「すいませんーー」
と細々な声が事務所まで響く。
俺は、ズッシリと重たい腰を上げて椅子から立ち上がり、そして、玄関まで迎えいれる。
「はじめまして。フリーズのサイカワです」
自分の名前を言う。
サイカワ・エツキ。
普通なのか変わっているのか分からない名前。
「サイカワさんよろしくお願いします。本日予約していたコガです」
そう言って深々とおじきする姿に、この子の育ちの良さが分かる。
アヤカ・コガ、21歳。
女性、身長はざっと160センチくらい。太っている訳でもなく、痩せている訳でもなく、いわゆる普通体型。
顔は、ぱっちり二重で整っており、まぁ美人というか可愛い部類に入るのか。
(なんでこんな子が、こんな惑星に・・・)
勿体無いなと思う反面、可愛いからこそかなとも思える。
まぁ、、相談に顔は関係ないからな。
自分自身が何処に向かっているのか分かってないのに、人のことになると何となく分かる気がする程度の俺でも、何か役に立つだろう。
「そんなかしこまらないで下さい。さぁどうぞ」
にっこりと笑い安心させることが、まずは最初の一歩だ。
相手を玄関から左手の小さな相談室に案内し、相談を聞く準備を進める。
(サイトには、恋愛系の相談をしたいって載ってたな。)
テーブルで相向かいになるように座り、俺はメモをとる用紙をテーブルに置き、右手に文字を書くペンを持つ。
「お待たせしました。それで、コガさん。相談とはどんな内容ですか」
彼女の目を見るように話したが、彼女は目を下に向けたままだった。
これは、心の傷が癒えてない証拠だ。。。と思う。
「・・・はい。あのー、サイカワさんは、好きな人はいますか。いや、いたことはありますか」
「はい、、、?」
彼女は顔を上げ、急に質問してくる。
が、その質問内容に思わず聞き返してしまった。
「昔は、いましたよ」
一応質問には答える。
答えたものの、思い出したくないというか、いっそのこと記憶喪失になれば、リグレットから出れそうな気がすると思えた。
「そうなのですね。私は、リグレットに来て、3ヶ月目なのですが、、その前のジパンにいた頃、とある25歳の男性を好きになってしまって、、。私から押して押して、そして、付き合えることが出来ました」
彼女は下を向き、目を細め、神妙な顔つきで話してきた。
憑依するかのように俺もまた、彼女の方へ顔を向けたまま神妙な顔つきになる。
「それで・・・?」
「はい、、。彼は、5歳近く離れた私を、結婚相手として見れないらしく、、。だから、私は、彼の気持ちを自分の物にしようと思いました」
「うん。。」
人の気持ちは、物なのか。と思いながら相槌を打つ。
女性特有の考えか、まぁ、男性も同じ考えか。
「喧嘩もありましたが、、時には一緒に笑ったり、、本当に好きで、、」
「うん。。」
「でも、半年経ってから、徐々に連絡も減り、、彼から別れを告げられました。ちゃんと、私は抗ったのですが、、、結局はダメでした」
「うん。。」
淡々と話す彼女は、何処か寂しいというより、心が無いようにも見えた。
リグレットにいるぐらいだから、心が無い人なんてそこらじゅうに溢れているが。
この話ぶりは、まだ彼のことを思っているように思える。
「私は、悔しくって、、辛くて、、その後、間も無くして、彼の知り合いに内緒でアプローチして、付き合うことになったんです」
「お、、!(それは、ダメじゃないか)?」
思わず、おっと言ってしまった。
知り合いに手を出すのは、復縁できるものも出来なくなる。
そうじゃない人もいるが。。
これは、、彼女の
嫉妬か、寂しさか。
そんなことしても彼は戻ってこないことは分かってるだろうに。。
若いからこその失敗なのか。
失敗ではなく、何か彼女なりに築きたかったのか。
「その知り合いは優しそうだったので、付き合いました」
なら、良かったのか。
だとしたら、この惑星にいない筈だよな。
「ただ、彼の知り合いと付き合ってる時に、、25歳の元カレから復縁したいと連絡きたのです」
「おぅ、、」
良くある恋愛話の一つだ。
振った男が逆に未練がましくなって、連絡を取るも、既に元カノに彼氏がいることなんて。
「今更と思いながら、、知り合いと付き合っていることを教えました」
「おう・・(元カレ、ショックだったに違いない)」
男性の大半は、例え別れたとしても、自分の身近な人と元カノが付き合うのは抵抗がある。
というか、男から連絡とってそんな話し聞いたら、超ショックだと思う。
「だけと、その知り合いの彼氏も好きでなくなり、、とりあえず別れずに、私は、元彼の近況を知る友達に話しを聞きました」
「それで、、?(その彼氏さんも可哀想だな)」
なんか境遇が自分と似ているのか、、。
いや、彼女の場合は、どうにもならないことで気持ちを間際らし、それが更にどうにもならなくなってしまったのか。
「そしたら、他に彼女を作ってて・・・」
女性の目が涙ぐんでいるのを見ると、今の彼氏より元カレに気持ちがあるのが分かる。
「もう、どうにもならなくて。分からなくなって、、何もかも投げ出したくなって、、、ジパンを離れたくて惑星管理委員会に申し立てました」
自己申告で自らリグレットに来たのか。
彼氏さんもビックリしているに違いない。
「そうだったのですね。。今の彼氏さんは、なんと?」
「はい、、。どうしたのって、かなり心配してくれて、、たぶん、私のこと好きなんです」
彼氏さんは純粋に良い人なんだな。
自分で自分をややこしくしてしまったんだろうけど、この子だけのせいじゃないからな。
「今の彼氏とはまだ、付き合ってるのですが」
たぶん、付き合ってると思うが質問してみる。
「はい・・・。毎日、連絡きます」
うん。やっぱり。
女性だから仕方ないのか、自分を好きでいてくれるから情で付き合っているのか。
まぁ、何にせよ、結局、今の彼氏はそんなに好きではなく、それに、好きな人は元カレか。
他にも聞きたいことはあるが、涙ながらに下を向く彼女に、とりあえず、現段階の自分なりの意見を言わないと。
暫く下を向き、考え、頭の中の引き出しから適切な言葉を見つける。
「えーー、お話しお聞きしました。それで、聞いた内容から考えますと、、、」
「はい・・・」
彼女は下に向いた顔を少し自分に向ける。
「恐らく本物の恋は、綺麗なものではないでしょう。元カレさんは、付き合ってた時はそんなに貴方のこと好きではなかったはずです」
彼女は更に顔を上げ、キョトンとした目で自分の目を見る。
「その25歳の人は、、きっと、、貴方との関係が終わった後に、貴方との恋が始まったのではないですかね」
何となく、というか、何となくでしか答えは出せないのだが。
良い意味も捉えて彼女に自分の意見を言わなければならない。
「ん!?付き合っている時は、お互い恋をしていましたよ」
彼女の声が、少し荒ぶった声に変わった。
それは、正論なのだが、男は、そうじゃない時もあったりする。
聞いた話しで、元カレの心境を考えを把握するのは難しいが、事実なのは、復縁というのも恋の一種であること。
「恋というのは、人を好きになるというのは、、関係性じゃなくて、、その時の思いだと。。」
女性は関係にこだわるが、ま、男でも関係にこだわる奴がいるが、俺は、それだけが全てじゃない気がする。
それを、彼女に上手く伝えたいのだが、上手く言葉が見つかっていない。
だから、彼女の顔が少し苛立った顔をしていた。
まずいと思いつつ、、ちゃんと自分の意見を言わなくてはな。。
「すいません。。俺も上手くは言えないのですか。。今のままの貴方を貴方は好きですか?」
俺は彼女に投げかける。
彼女は、その問いに対し、再び下を向く。
暫く無言が続き、
「意味が分かりません・・・」
と彼女はほそぼそした声で答えた。
また、沈黙が続き、何か自分でも腑に落ちないことを思い出したか、
「ありがとうございます。帰ります」
と言い、2千円をテーブル上に置き帰っていった。
「あっ、、、」
と嘆くも、玄関戸が開く音がし、彼女は事務所を後にした。
俺は、彼女が相談料として置いた2千円を暫く無言で見つめた。
何となく、自分と境遇が似ている彼女。
俺の話し方が下手で部屋を出て行ったのか。
それとも、共感があまり出来ずに変なことを言ってしまったのか。
何にせよ、結論を述べようとするのも、男性の悪いところなのかもしれない。
俺は、再び事務室に戻り、昼食として買ってきた弁当に手を付け、暫く事務机で眠ることにした。
午後3時になると、40歳代女性が事務所を訪問した。
本日ラストの相談だが、相談内容は、
『息子の進路について』
であり、これは無事に相手に感謝され、終わらせることが出来た。
(良かった、、)
と思いつつ、事務所に戻り、今日の相談をパソコンにまとめた。
次は、何の相談を受けるかサイトでチェックして、明日以降の予定を立て、今日の仕事は終わった。
相談を受ける人間じゃないし、そこまでマトモな人生を歩んできた訳ではない。
専門的な知識がある訳ではないが、俺の回答が役に立つかではなく、ただ、その人のためになるように頑張って話す。
自己満足なのかもしれないが、それが、今の自分に出来る唯一の『善』。
午後5時ころまで同僚を待つも帰って来ず、各々の仕事をしているのだろうと思い、デスク上のパソコンを閉じ、俺は職場を後にした。
ココナッツ駅から職場に向かう方と真逆に歩くと、俺が住んでいるアパートがある。
大体駅から10分程で着き、このアパートの名前は『ユラギソウ』。
名前のネーミングセンスが何となく良い。
各階2部屋の3階建で、俺はこのアパートの302号に住んでいる。
玄関の鍵を開け、台所の明かりを頼りに、『ショウチュウ』と呼ばれるアルコール飲料を手にした。
そして、台所の流しにお線香を挿す台を置き、香りの良い線香を挿す。
線香に火を灯したところで、台所の明かりを消し、ショウチュウを飲みながらその線香が燃え尽きるまで、ひたすら暗い中燃え尽きていく線香を眺める。
午前中に受けたコガの相談を思い出し、
(どうにもならないこともあるって、割り切る。。。)
それは、コガに向けたものか。自分に向けたものか。
何れにせよ、どうにもならないことを、俺は、今でも考えているということだ。
こうして、俺の何気ない日常が終わりを迎えた。
惑星リグレット(2)へ続く。




