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1話 そんな趣味はワシにはありません

「んっ……!?」


 少年の寝言が漏れ寝返りをうったのに気付いたスイレンが振り返ると薄らと瞼を開き始めたところで目を覚ました事に気づく。


 短く揃えられた黒髪で、涎を垂らす様子がそう見せるのか、元々からなのかは分からないが背格好170cm弱の身長の割に顔つきが幼い。

 童顔の美少年ではなく、大人になれないやんちゃ坊主の色が濃い少年だ。


 スイレンは少年に近づいて顔の前で手の平をヒラヒラと振って見せて様子を見ていると一気に意識が覚醒した様子で素っ頓狂な声を上げてベッドから半身起こして後ずさる。


「きょ、きょえええぇぇぇ!!」

「ふむ、想像以上に元気一杯だな」


 1つ頷いて問題なさそうだと肩を竦めるが起き抜けの勢いはどこにいったとばかりに起こした上半身を脱力させてベッドの上に倒れこむ。


「あ、あかん、腹が減り過ぎて目が回る……」

「ふふふ、腹が空いてるというのは健康の証拠だ。今、スープを温めて持ってきてやる」


 スイレンの言葉のスープというのに反応して目をキラキラとさせる少年の素直な反応に笑みが漏れる。


 何やらぶつぶつと呟きながら祈るような仕草をする少年だったがハッとした様子を見せるとベッドの上を這うようにしてスイレンに詰め寄る。


「鏡花は!? ああっ! 俺と一緒にいたはずの同じ年頃の女の子がいただろ、どこだ!」

「お前は本当に落ち着きがないやつだな」


 そう言って苦笑しながら少年の左側に指を指し示す。


 指し示した先には黒髪で出会った時はポニーテールであったが結ばれていたリボンは解かれ、服も肌も汚れが酷かった事もあり、ティナに衣服の洗濯と水拭きを頼んで、今はスイレンの大きなシャツを着て年相応の胸を上下させ、穏やかに眠る姿があった。


 いる事にホッとしたのも束の間、スイレンのズボンを掴む少年が続けて言ってくる。


「も、モンスターに、ああ……蛇ぽいのだったから毒だと思うんだが噛まれて……」

「心配するな、状態を調べる時に分かってちゃんと処置しておいた」


 慌て過ぎて説明が纏まらない少年だったが言いたい事を理解して伝えると力尽きたようにベッドの上で崩れ落ちる。


 良かった、と言いそうなタイミングで腹を鳴らす少年のタイミングの良さに漏れる笑いを噛み殺しつつ告げる。


「スープを持ってきてやるから、さっさとシーツにくるまれ。ワシは男のケツもフルチン姿を見て何も楽しくないからな」

「ふぇ?」


 うつ伏せだった状態から顔だけ上げた少年の間の抜けた声を聞きながらスイレンはドアを閉める。


 廊下に出て数歩あるいた辺りで寝室から「イヤンっ!」という元気な声が響いてスイレンは今度は笑いを噛み殺さずに台所へと向かった。




 ガツガツ、ズズズゥ、ジュルルゥ


「誰も取ったりせんから、隣の嬢ちゃん、キョウカだったか? のように落ち着いて飲め、坊主」

「そうよ、私達3日以上飲み食い出来ずにきてるんだから、そんな勢いで食べたら胃がビックリするわよ?」

「ズズゥ……4日だ。俺の意識があった時間だけでもな。お前は丸1日、毒のせいで意識を失ってからな」


 正直、確かに弱い毒だったようだが、よく1日も放置された状態で生き残れたものだと体力なのか若さなのかは分からんが称賛ものだ、とスイレンは苦笑する。


 スープ皿に口を付けてスプーンで掻き込む少年をヤレヤレという呆れを隠さない表情で見つめる黒髪の少女、鏡花はため息を零す。


 鏡花はゆっくりとスプーンで口に運び、まるで湿らせるような飲み方でゆっくりと飲み進めていた。


 ちなみに鏡花はスイレンが廊下に出て少年のイヤンと叫んだ後にすぐに目を覚ました。


 そのタイミングだったのは少年の声のせいか、少年と同じように薬の効果が出たせいかは分からないが起きたその時の騒動と比べればどうでも良い話であった。


 目を覚ました鏡花はすぐに自分がスイレンのシャツ一枚を羽織ってるだけの全裸である事に気づいて悲鳴を上げた事でスイレンも起きたことに気づいて寝室の戻った。


 スイレンは、裸である理由、そして、それを実行、行ったのが同じ年頃のティナに頼んだ事を伝えたがなかなか信じて貰えず、しばらくは事後だとメソメソと泣かれた。


 しかし、状況的に命を拾えたのはスイレンのおかげであるという事から恩人であるはずと鏡花は自分自身に言い聞かせるようにして、ようやく信じて貰えた。


 だが、ティナと必ず会わせて欲しいと念押しで頼まれた事から、それほど信用はされてないかもしれない。


 その事を思い出し深いため息を零すスイレンに空になったスープ皿突き出す少年。


「おかわり!」

「やれやれ、後、1杯だけだぞ? 次はゆっくりな?」


 スープ皿を受け取るスイレンに元気の良いハーイと返事をする少年であったが、どうにもアテにならなそうだと思いつつ、寝室を後にした。

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