7話 暴食衝動だったそうだ
五分ほど経った。
すると、じゃれ付いてきたグウロがピタリと止まった。
「ハッ」
「ルー(グウロ様、どうしたんですか?)」
「……ガウ?(……吾輩は一体何を?)」
「ルー(正気に戻ったんですね!)」
「オオカミがしゃべった!」
「多分スーさんたちと同じ念話だね。ヨウキったらスーさんたちでは驚かなかったのに」
「え、スーさんたち普通にしゃべってるんだと思ってた」
ヨウキに関して述べるならば、セイカと何年間も姉弟をしているので気に留めない力、いわゆるスルー力が高くなっている。
「トー(グウロ様はついに衝動を抑えきれなくなってしまいまして……)」
「ガウガウ(そうか、全てを腹に納めようと……)」
「トー(……勇者様にあまえておりました)」
「ガウ!?(すまない。……は!? あまえて!?)」
「トー(それはもう顔をなめるほどに)」
「ガウガウ!(真顔で冗談言うのはやめろ!)」
「トー(今のところ間違ったことは何も?)」
トーさんの話はセイカとヨウキが来たときの状況通りのはずだが、グウロはそれが信じられないらしい。
「スー(本当は、グウロ様は我を忘れて目に入った物を端から食べてしまいたくなる衝動に支配されてたんです)」
「ルー(ウチらはそれを暴食衝動って呼んでるんです)」
「へ〜」
「そうなのか」
スーさんとルーさんからの解説が入った。ありがたい。しかし、何がどうなってああなったのだろうか。
「ガウガウ!(それより被害報告を!)」
「ルー(住民避難は間に合ったのですが、避難中に転倒した怪我人が一人いたです)」
「トー(召し上がった物はいずれもこの屋敷内部の家具や装飾のみです)」
「ガウガウ(最小限だ。よくやった。お前たちも無事で吾輩は安堵している)」
「ルー(そのためのウチらです)」
壊れた扉から見えるグウロのいた建物内部は幾重にも格子やら壁やらがあって、どれもが瓦礫と化していた。グウロはこれを全て破って来たのだろう。
外に出さないように、自らも出られないようにするための工夫が垣間見えた。
「ガウガウ(魔王様の星の力が安定した? いや、力の放出はそのままだが暴食衝動へ変移しなくなっている……)」
グウロはブツブツと何か言っている。
「トー(グウロ様、おそらくは勇者様が……)」
グウロは顔をセイカとヨウキに向ける。
「ガウガウ(二人の勇者様、感謝する。名を聞かせてくれ)」
「セイカだよ」
「ヨウキだ!」
「ガウガウ(見たところ、セイカ様にもヨウキ様にも戦闘能力を付与されてはいないようだ。いかにして吾輩の暴食衝動を止めた?)」
グウロの大きくキリッとした目はスゥっとセイカとヨウキを見据える。
「やだな〜、マジックのタネを聞くなんて無粋だよ、グウロ?」
セイカはルーさんにギロリと睨まれた。
「ルー(いくら勇者様でも答えをはぐらかすのもグウロ様を呼び捨てにするのも許せないです!)」
「ガウガウ(よいのだ、気にするな)」
「ルー(ぐ、グウロ様がそう言うなら……)」
ルーさんは引き下がる。
「ガウガウ(答える気はない、か……それもよかろう)」
グウロは頷いて見せた後で続けた。
「ガウガウ(自ずから発生した種を除いた万物や吾輩を生み出した魔王様の一族でも不可能な行いだった故、気になったものでな)」
ヨウキは気になるワードを拾った。
「勇者とか魔王とか……戦ったりするのか?」
「ガウガウ(いや、今回の勇者様にはその必要がない。故に戦闘能力が付与されていないであろう)」
戦わない勇者ということだろうか。それは果たして勇者なのか。
セイカも魔王というワードに引っかかっていた。
「生み出すって魔王よりも創造神とかって感じだよね」
「勇者っていうのもなんだか違う気がするな」
「う〜ん、雑用係かな?」
「雑用か……」
魔王と勇者だと戦う王道な胸熱展開を予想できるが、創造神と雑用係だと創造神にこき使われてそうなギャグのイメージしかわかない。
「そういえば姉ちゃん、俺たちはここに何しに来たんだっけ? ヴァ……ヴァナ……ヴァなんとかさんになにか言われたような」
「ヴァナディさん?」
「そう、その人!」
「もう終わったよ? ね、グウロ」
「ガウガウ(おかげさまで)」
「俺の知らないうちに」
「ヨウキ? まさかとは思うけど、地底都市の領主に異変が……って話、グウロのことだと思ってなかった?」
「い、いやー? ま、まっさかー!」
ヨウキの目は泳いでいる。ジーっとセイカが「嘘だ」という目で見ている。
「あんな一瞬で言われたこと覚えられる方がおかしいって!」
視線に耐えきれなくなったヨウキは開き直った。
「スーさんの話聞いたとき、これか! って思わなかった?」
「困ってる人がいるらしいから助けよう……みたいな」
「ヨウキらしくてなんとも……。でも優しい子に育ってお姉ちゃんは嬉しいです」
「誰目線なんだよ」
「ガウガウ(セイカ様、ヨウキ様、話の邪魔をして悪いが少々確かめたいことがある。地上まで付き合っていただこう)」
「いいよ。どっちにしろ私たちは地上に戻らなくちゃいけないしね」
「グウロさん! 背中乗ってみたい!」
ヨウキの提案を良しとしたグウロは背に乗せてくれた。
スーさんたちは仕事も優秀でしたがツッコミも優秀でしたね。




