31話 夢と魔王の再誕(セイカ目線)
ヨウキは、昔は鋭い子だった。
言葉も早く、箸を持てるようになるのも早かった。お母さんの話だと私も早かったようだけど、さすがに覚えていない。
そういえば、私には興味を持ったおもちゃの前で立ち止まってしまう癖があり、気づくとお母さんを見失うということがよくあった。ヨウキがある程度大きくなって自分で歩くようになったらヨウキが私をお母さんの元へ引っ張っていくようになった。
「ねえねは、おつきさまからきたから、いつか、おつきさまにかえっちゃうの?」
「え……」
私の目に映ったのは、ヨウキと、ヨウキが手にしたかぐや姫の絵本。
1〜6歳児くらいまでは自分が基準、自分が知っていることがものさしなので、月とはここではない世界、異世界のことなのだろうと理解できてしまった。
絶対にバレていないと思っていたのに、ヨウキは私が異世界の魂を持っていることを感じ取ったのだ。当時保育園生の私は、周りの子にも両親にも違和感を抱かれていなかったので、自分の演技力が完璧なんだと思っていた。
だから、まさか一緒に育ってきた自分の弟が一番に気づくとは思っていなかった。
「あ、ごめんね……」
そのまま固まっていた私を見たヨウキは、聞いちゃいけないことを聞いたという顔をして謝って、タタタっと走って絵本を戻しに行った。
以降、ヨウキは鈍くなった。正確には、色々なことに気づくけど、注意を向けなくなった。
ヨウキが保育園に通い慣れたころになると、流すということを覚えてきた。
むしろ私がどんなに、ヨウキに言い当てられたことなんて気にしてないアピールをしても、スルーするようになった。最初は解せなかったものの、ボロを出しても「かわってるなあ」と個性として捉えてくれるので、気が付いたら、バレないように気を張り巡らせていたときよりも居心地が良かった。
あとで知ったけど、この世界の人たちは魂的な違いを感じ取ることはできない人がほとんどだったので私の演技力で誤魔化せていたのかはわからない。
あたりが暗くなった。顔もよく見えないしわからない人が、女性とも男性ともつかない声で話している。
「不帰都市に行く資格すらない、消滅を待つだけのあなたの魂をわざわざこちらに連れてきた意味がわかりますか?」
「わからないって……名も与えられなかったあなたが消滅を拒もうとしたせいで魂を半分なくした子がいるんです。その子の行く末を見届けてもらうために決まっているでしょう!? 輪廻の輪に乗せ、こちらの世界の住人として転生させますからね」
「転生という魂を再利用する行為の意味を理解できない、ですか? あなたたち異世界人とは考え方が違うようですが、我々は転生は合理的な資源活用だと思っていますよ。魔王だって八割は再利用じゃないですか。正式な王なら二割は不帰都市行き、そうでなければ消滅ですけど」
「正式な魔王が生まれるまでの仮初の王よ、望み通り消滅は防いであげましょう。転生できること自体が一番の転生特典ですね」
「まったく……日本の魂は分かち合いなんて想定していないというのに、なんてことをするんですか、魔王というのは」
「はい? 消滅は免れたから賭けには勝った? あなたむかつきますね、取り消したくなってきました」
「半分にしたらどうなるのか興味がある? そんなのこっちが聞きたいんですが? 寿命が半分になるとか衰弱するとか可能性ならいくらでもありますけど?」
よくわからない誰かが苛立ってきたころ、周りが明るくなってきた。
目が覚めた、というか寝ていたみたいだ。やけにモフモフしているから、これはグウロの上なのかな。う~ん、まだボーっとする。
顔をあげてキョロキョロと見渡すと、目立つ玉座には光の粒がグルグルと回って球状になっている。
つまり、すでに魔王は完全にこの粒になったあとだということ。これが八割は再利用してるってやつかな。
ヨウキの背中を見つけた。そして見えてしまった。ヨウキの魂が半分、欠けているのが。
あの人、寿命が半分とか、衰弱って言ってなかった?
私の眠気は吹き飛んだ。慌ててグウロから降りて駆け寄る。
「ヨウキ!!」
「姉ちゃん! 起きたのか!?」
ヨウキの声はなぜだか嬉しそうだった。
「なんともない? 大丈夫?」
振り返ったヨウキはなんともないのか「俺は大丈夫だけど、なんで姉ちゃんが俺の心配してるんだ?」と本当に不思議そうに私を見ている。
よくよく見てみると、ヨウキの魂のもう半分には、別物の空色の魂が補われている。
大丈夫なのかな。でもよく考えると私もそれほど変わらないから、きっとなんともないんだ。
ヨウキの後ろでピカッと何かが光った。私とヨウキがそちらに目をやる。
光の精霊がそこに生成された。
「新しい魔王様の誕生じゃ!」
さっきまでヨウキの肩に乗っていたクラークは玉座の近くに移動していた。
「せっかく小さくなれたことだしのう、これからは魔王城で魔王様と共に過ごそうと思うのじゃ」
クラークは楽しげに魔王に語りかけている。いまいち聞いているのか聞いていないのか読み取れない魔王は一言「……ズット?」と聞いた。
「もちろんじゃ」
魔王の色が黄から白になった。あれは心の温度で、星と同じ。温度が高い方が力がある。実は赤くなる前に寿命が来るようにできている。
クラークが魔王城に残ってくれるのが嬉しいってとこかな。よかったよかった。
「星の賢者 編」無事終了です。
セイカから見ると、ヨウキはこんな感じみたいですね。
次回が最終回です!




