3話 馬車には罠(?)があったらしい
馬車の中でのんびりと話すセイカとヨウキ。
「ヨウキはもう少し怪しむかと思ったけど、案外すんなり受け入れたね、この展開」
「明後日は姉ちゃんの誕生日だろ。帰れるならはやく帰らないと!」
「カレーが食べられなくなっちゃうね」
「それはヤダ! ぜったいすぐ帰るぞ!」
ヨウキは少し不安もあるがワクワクもしている。もちろん、セイカのために早く帰りたいというのも嘘ではない。
「ヨウキ、誕生日祝いの異世界旅行について来てくれてありがと〜」
「うんうん、異世界なんて行きたくても行けるもんじゃないしぜいたくだよな〜」
しっかりとセイカのおふざけにノッてあげるあたり、慣れているのだろう。
「でね、折角の異世界旅行、パジャマのままは嫌だと思わない?」
「いやだけど、体育着だから動きやすいし完全パジャマの姉ちゃんよりマシだと思う」
「そういうわけで……」
どういうわけなのかわからないがセイカは「タネも仕掛けもございません!」と高らかに宣言しながら真上に手をかざした。合わせてヨウキの顔も上に向いた。
「星の力よ 満悦を得た我に応えて 創造せよ」
かざした手から出た光がヨウキとセイカの二方向に分かれ、それぞれに向かう。光が触れると一瞬で二人の服が外着に変わった。
「姉ちゃん、今の、すごい! 何?」
「マジックだよ~。セイカマジック」
「どうなってるのか全然わかんなかった!」
「上級テクニックだからね」
「どうりで魔法みたいなわけだな。きれいだった」
ヨウキは目をキラキラと輝かせた。実は、素直に視線誘導に乗っている時点でタネがわからないのも当然だったりする。
それにしてもセイカは随分と凝った演出を用意したものである。
「そして、これ!」
来る前に作ったおにぎりを出してきた。
「早めの昼ご飯になるね」
「姉ちゃんは朝と昼が一緒だな」
「朝ごはんくらい食べる時間ほしかったな~」
「お腹空いたー」
「食べようか」
「「いただきます!」」
他愛もない話をしたまま魔法馬とやらが曳く馬車に乗り続け、2時間は経っただろうか。大体11時半くらいだ。
魔法馬は馬の形を取った移動用の魔法である。馬のようにペースを上げ下げすることはできないが、目的地を定めると御者なしにそこまで運んでくれる便利な代物だ。
「うえええ……気持ち悪い……おにぎり食べなかった方が良かったかな」
「朝食べてないから酔ったんじゃないか?」
「そう……だね」
セイカは酔った。
セイカは異世界用持ち出し袋を漁り、酔い止めの薬を取り出す。個包装されたドロップタイプの薬を口へ放り込む。甘くておいしい。
「姉ちゃん、おねがいだから吐かないでくれよ」
「うぅっ……まさかこんな罠が用意されてたなんて」
「あれ? 予想して酔い止めを持って来てたんじゃないのか?」
「船とか乗るかなって思って……」
想定していた状況とは違うみたいだが用途は同じ。まさに備えあれば患いなしである。
なんでそんな備えがあるんだよ、なんてツッコミは野暮なのかもしれない。意外にも水とか必要そうな物が入っているわけだから。
困ったことに、魔法馬は目的地に着くまで止まらないため、今のように酔っていても休憩できない状況が生まれる。
乗り慣れている異世界の人にとってはこのくらいの移動なら気分が悪くならない人ばかりなのかもしれないが、ゴムタイヤに慣れているこちらの世界の住人が耐えられなくても当然だろう。
ちなみに長距離の移動のときは休憩場所までを目的地に設定するのが一般的なようだぞ。
セイカは寝た。
そのまま揺られることしばらく。馬車は停まって扉がひとりでに開く。
一人分の四角から入ってくる景色と音にヨウキは足が動いた……が、くるりと後ろを向き直した。
「姉ちゃん忘れてくとこだった。あぶないあぶない」
セイカは眠っている。馬車が止まって静かになって初めて気が付いたがうなされていたようだ。
「うう……」
「姉ちゃん、起きて?」
普段ならユッサユッサと思いっきり揺らすところだが、乗り物酔いの人にそれはかわいそうだ。
とりあえずほっぺをペチペチした。起きない。引っ張ることにした。にょんにょーん。
「起ーきーろー」
伸びがいい。
「……ひと……りは」
「ねーちゃーん」
夢の中で嫌な目に遭っているのだろう。なかなか見ることのないそこそこ険しい顔だ。
両頬をにょーーんと伸ばしきり、ぱっと離す。楽しくなってきた。
姉のほっぺを伸ばして遊んでいるうちに変化があった。
「…………んん……ヨウキ?」
「あ、起きた」
意識が戻って来たらしい。
「起こしてくれてありがと〜……着いたんだね」
セイカは伸びをする。
「乗り物酔い大丈夫か?」
「うん。おかげさまで」
「外、出ようか?」
二人は馬車を降りた。
これ以降は「地底都市の領主 編」が終わるまで毎日投稿します。




