表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
95/237

44、 俺の話を聞いてくれる?


それは、 今までのそれとはまるで違う、 熱くて激しい口づけだった。



ーー んっ……。


頭を後ろから抱きかかえられ、 唇を強く押し付けられると、 身体の奥からゾクリと震えがきて、 全身の力が抜けた。



息をすることも忘れて恍惚(こうこつ)としていると、 そのまま2人一緒にトスッとソファーに倒れこんだ。



ーー たっくん……。


ギュッと固く(まぶた)を閉じていたら、 不意にフッと体が軽くなり、 たっくんが私を抱く力を(ゆる)めたのだと分かる。



()っすら目を開けてみたら、 そこには苦しそうに私を見下ろす顔があった。



「…… たっくん? 」



たっくんは私と目が合うと、 クシャッと顔を(ゆが)めて泣きそうな顔になった。


私をもう一度ギュウっとキツく抱きしめてから体を離すと、 クルリと背を向けガラステーブルに両腕をついた。




「ごめん…… 小夏…… 」


「どうして謝るの? 」


体を起こしながらそう聞いたら、 たっくんはテーブルに突っ伏して肩を震わせた。



「ハハッ…… 朝美の言う通りだな …… 俺にはお前を抱くことなんて出来ないんだ…… 」


「たっくん…… 」



「お前は ……何も知らなくていいんだよ。好き(この)んでこっち側になんか来る必要ないんだ。 ……頼むから、 お前だけはずっと綺麗なままでいてくれよ…… 」



たっくんが泣いていた。

何故だか分からないけど悲しくなって、 気付いたら私もたっくんの背中に抱きついて泣いていた。




胸がザラザラする。


朝美さんからぶつけられた言葉の数々は、 確実に私たちを傷つけた。



それは決して致命傷なんかでは無い。

身体の繋がりなんか無くたって、 私たちがお互いを想う気持ちは変わらないから。


だけど朝美さんの言葉は、 紙ヤスリのように私たちの心をザラリと一撫(ひとな)でしていった。


それはまさしく呪いの呪文のように、いつまでもジワジワと血を滲ませ、 心を(むしば)んでいく。



だけど……


私は呪いなんかに負けたくない。




「たっくん …… 私はそっち側に行きたいよ」


たっくんの背中がビクッと跳ねた。



「たっくん、 私はもう、 たっくんと出会う前の私には戻れないんだよ。 たっくんの事を想うと、 嬉しくて苦しくて、 切なくなるんだよ。 心の中が嫉妬でドロドロになるんだよ。恋は綺麗事じゃないって知ったんだよ。 私は…… (よご)れるのも苦しむのも、 全部たっくんと一緒がいいよ」


「小夏っ、 俺は! 」



バッと顔を上げて振り向いたその瞳は、 涙で濡れた睫毛(まつげ)の下で、 キラキラと(うる)んでいる。



私が視線をそらさずじっと見つめると、 たっくんは自虐的に唇を(ゆが)め、 ゆっくり口を動かした。



「小夏…… すっごい怖い話をしてやろうか? 」

「…… 怖い? 」


急に話の流れが変わって戸惑う私に、 たっくんは右の口角を上げる。



「うん、 怖い話 ……いや、 お前がドン引きする話かな」

「 ……。」




「俺さ、 初めて朝美と寝た時に、 お前の顔を思い浮かべながらヤった」


「…… えっ? 」



たっくんは言葉を失った私の反応を見ると、『やっぱりな』とでも言うように睫毛を伏せて、 それからフッと鼻で笑った。



「俺、 アイツとヤってる最中も、 イク瞬間も……他のどんな女を抱いてる時だって、 ずっとお前を抱いてるつもりでいたんだよ。 いつもお前の裸や(あえ)ぎ声を想像してたんだよ、 毎回、 毎回」


「…… 。 」



「ハハッ…… 何が『綺麗なままでいてくれ』だよな…… お前が汚いって言ってたその行為を、 俺はお前相手に…… 。 俺は心の中で、 とっくにお前を(よご)しまくってたんだよ! 」



たっくんがガラステーブルを両方の握りこぶしでダンッ! と叩くと、 ピシッという音がして、 表面に一本ひびが入った。



「…… 軽蔑した? …… 俺のこと…… 嫌いになった? 」


私は再びたっくんの背中に抱きつき、 前に回した腕に力を込めた。

私の気持ちが伝わるように……。



「たっくん、 私はそんなことで(けが)れたりしないよ ……。ただ、 私は知りたいの。 そんなにも私を想ってくれていたのに、 どうして何人もの(ひと)とそういうコトをしたの? どうして朝美さんと寝て、 離れたの? 穂華(ほのか)さんは…… どこにいるの? 」



穂華さんの名前を出した途端、 たっくんの背中がビクッと震えた。


「たっくん…… 私にたっくんの…… 空白の6年間を全部下さい」



たっくんは固まって…… ゆっくり振り返って、 私をそっと抱きしめた。



羽毛でそっと包み込むような、 触れるか触れないかというくらいの、 優しい抱擁(ほうよう)



「俺にこうして触られるの…… (いや)じゃない? 気持ち悪くない? 」


「全然…… 気持ちいい。 たっくんに触れられると、 そこからシアワセな気持ちが身体中に広がる」


「そうか…… 」



たっくんは身体を離すと私の両肩を掴み、 正面からじっと目を見つめた。



「小夏…… ちょっと長くなるけれど…… 俺の話を聞いてくれる? 」



美しい青い瞳の中に、 コクリと頷く私が(うつ)り込んでいた。


ここまで辛抱強く読んでいただきありがとうございました。ブックマークや評価ポイントを下さった皆様、 レビューや感想を下さった皆様、 本当にありがとうございます。 何度も励まされました。


これで第2章終了となり、 次の第3章からはたっくん目線の過去編となります。

相変わらず辛気臭い感じで進んでいきますが、読んだ後にほんの少しでも、何か心に残るような文章が書ければいいな……と思っています。


引き続きお付き合いいただければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ