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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
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40、 お前、嘘をついてたの?


翌朝、 私が千代美(ちよみ)清香(きよか)と3人で駅の改札を出ると、 いつものようにたっくんが柱にもたれて待っていた。



気を利かせて先に歩いて行った2人から遅れて、 私がゆっくりとたっくんに歩み寄ると、 彼は柱から体を起こして私を見た。



「風邪は…… もう大丈夫? 」

「うん、 ありがとう。 昨日は来てもらえなくてごめんね」


「いや、 お前が寝てるのを邪魔したら意味ないし…… 」



たっくんがいつもの(くせ)で、 私の手を握ろうと自然に指先を伸ばしてきたけれど、 私は無意識にバッ! と振り払ってしまった。



ーー あっ!


途端に彼はひどく悲しそうに目を伏せて、 行き場を失った手をポケットに(おさ)めて歩き出した。



ーー ああ、 たっくんを傷つけてしまった……。



たっくんを好きなのに、 そばにいたいのに…… 朝美(あさみ)さんとのことが頭をよぎって、 その手で触れられたくないと瞬間的に思ってしまったのだ。


そんな風に思ってしまう時点で、 私たちはもう駄目になりかけているんだろうか……。




「そんなの駄目! 絶対に! 」


頭の中で考えていたことがそのまま口に出てしまったらしい。


たっくんがハッと立ち止まり、 驚いた顔で私を見つめた。



こんな事で弱気になったら朝美さんの思うツボだ。

ちゃんと向き合ってもいないのに、 駄目だなんて言ってちゃいけないんだ……。



「ねえ、 たっくん、 今日ってバイトなの? 」

「いや、 今日は休みをもらってる」


「…… それじゃ、 放課後にたっくんのアパートに行ってもいい? 」

「うん、 俺もそのつもりでバイトを入れなかったから」



同時に(うなず)きあって、 また歩き出す。



お互いハッキリとは口に出さなかったけれど、 今日会うということは、 過去の女の子たちとのこと、 朝美さんとのこと…… それらを含む、 たっくんの過去について話すことになるんだろう…… と思った。



***



放課後、 部室に向かう千代美たちに別れを告げ、 私はたっくんと並んで校舎を出た。



校門を出て左折しようとした途端、 それに気付いた私たちはギョッとして足を止めた。



「朝美、 どうして…… 」



道路に向かって校門にもたれ、 退屈そうに遠くを(なが)めていた朝美さんが、 たっくんの声で顔を向けた。



「拓巳っ! 」


顔をパアッと輝かせて、 彼女は小走りで掛け寄って来る。

そして顔に触れようと伸ばしたその手をスッと()けて、 たっくんは一歩後ろに下がった。



「拓巳……? 」


朝美さんが一歩前に出ると、 たっくんはまた一歩下がる。



「お前、 どうしてここが……? 」


朝美さんはチラッと私を見て口角(こうかく)を上げると、 またたっくんを見つめて、 自慢話をするかのように語り出した。



「昨日、 そこにいる小夏さんが私と別れて帰る時にね、 どこ行きのバスに乗るか遠くから見てたの」



ーー あっ!


「私の後をつけてたんですか?! 」

物騒(ぶっそう)なことを言わないで。 私は遠くから見送ってただけよ」



「小夏 …… お前、 嘘をついてたの? 昨日は朝美に会いに行ってたのか? 」


「そうよ、 彼女、 拓巳のことが信じられなくて不安でたまらなくて、 わざわざ私を訪ねて来たの」


「違う! 私はただ……! 」



「それにしてもラッキーだったわ。 小夏さんの乗ったバスと拓巳のバイト先からアタリをつけて、 この付近の高校で聞いて回ったの。『青い目のイケメン高校生を知らないか』って。 長期戦を覚悟してたけど、 拓巳はやっぱり有名なのね。 1校目でいきなり『うちの高校じゃないけど……』って教えてもらえたわ。 カラコンをやめててくれて助かった」



ーー あっ……。



「この前はまだ黒目(くろめ)でいると思ってたから、『外人みたいに彫りの深いイケメン高校生を知らないか』って、 学生が集まっていそうな場所で片っ端から聞いて回って、 結構時間が掛かったの。 『高校生かは分からないけど、 ハーフっぽい青い瞳のイケメンが働いてるバーがあるよ』って教えてくれた子がいて、 行ってみたらビンゴだったわけだけど……」




その言葉を聞いた途端、 地面が真っ二つに割れて、 そこからストンと地の底に落ちたような感覚があった。



ーー ああ…… 私のせいだ……。


私がたっくんにコンタクトレンズをやめるように(すす)めたから …… 青い目が好きだって言ったから……。



もう風邪は(なお)ったはずなのに、 昨日みたいに頭痛がする。

目がぐるぐる回って吐きそうだ。



背骨をせり上がってくるような悪寒と不快感に襲われながら、 私は真っ暗な地の底で途方に暮れていた。


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