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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
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30、 どんな過去の俺を重ねてんの?


たっくんは(にら)みつけるような(するど)い目つきで私を見つめ、 私はその瞳から目を()らせずに、 身体を(かた)くして正座していた。



「小夏、 何度も言うけど…… 俺の気持ちはずっと変わってないし、 ブレてもいない。 あいつらが勝手に言い寄って来たから、 ヤるだけならいいよって言った。 最初から気持ちは(ともな)っていない、 寝るだけの関係だって約束で会ってた。 ただそれだけだ」


「ヤるだけって…… そんな簡単に…… 」



「簡単だよ。 気持ちがなくてもヤることは出来る。 体を繋げることに意味なんて無いんだ。 アイツらがホテル代を出すって言うからちょっと会って、 お互い気持ちよくなって、 後腐(あとくさ)れなく別れる。 それ以外に何も無いし、 何も残らない」


「そんな、 (ひど)い…… 」



「酷い? お互い納得の上だったのに? そこに勝手に感情を持ち込んできたのは向こうだし、 ルール違反をしたのもあっちだろ? 俺はウソをついてないし、 誰も裏切ってない」


「だけど…… 」



「だけど(なん)なの? 俺は小夏と再会してからは1度だってシてないよ。 小夏が嫌がると思ったからアイツらと会うのをやめたし、 目の前で連絡先も全部消した。 紗良にキスをせがまれた時だって唇にはしなかった。 それでもダメだっていうの? お前は何が不満なんだよ! これ以上俺にどうしろって言うんだよ! 」



たっくんの激しい口調に引き()られるように、 私の感情も(たか)ぶっていく。



「どうして欲しいかなんて分からないよ! たっくんにはこんなの普通のことなのかも知れないけれど、 私には信じられない世界なんだよ! 中学生でそんな簡単に経験しちゃうのも信じられないし、 気持ちがないのにキスしたり身体に触れさせたりとかも私には無理! 気持ち悪いよ! 普通じゃないよ! 」



たっくんが息を()んで黙り込んだ。



ーー 言い過ぎた……。


でも、 私は間違ってない。


私は好きな人以外とはキスもその先も絶対にしたくないし、 そうじゃなければ一生そんなの無くたって構わない。


なのに、 私だけをずっと想ってくれていたはずのたっくんが、 何人もの女の人と遊び感覚で身体を重ねていたなんて、 考えるだけで吐き気がする。




「…… たっくんは変わったよ」

「変わった? 」


「昔はもっと純粋で誠実だった。 私に初めてキスしてくれた時、『震える』って、『目を(つむ)って』……って。 それで本当に指先も震えていて……。 だから私も心臓がドキドキして、 たっくんのことが本当に好きだな…… って思えて……」



すると、 たっくんの目がスッと細められて、 一瞬でひどく冷ややかなものに変わった。



「それじゃあお前は、 俺がいつ会えるかも分からないお前に(みさお)を立てて、 ずっと孤独でいれば良かったって言うの? それとも紗良や他の女の誰かと真剣に付き合ってれば満足なのかよ? 大体、 お前は俺にどんな過去の俺を重ねてるの? 頭からビールをぶっかけられて外に追い出されてる惨めで可哀想な俺が良かったのか? 上から目線で同情してるのは気分が良かったか?! 」


「そんなっ! 私は…… 」



たっくんは言い終わってからハッとして、 右手で顔を(おお)って(うつむ)いた。



「悪い…… 言い過ぎた。 帰るわ」


すっくと立ち上がり、 部屋の(すみ)に置いてあったカバンを手にする。



「違う! たっくんゴメン! 私…… 」


畳に手をついて立ち上がろうとした私に、 たっくんが冷たく言い放つ。



「ちょっと頭を冷やしたいから追いかけてくんな。 じゃあな」


「たっくん! 」



たっくんは振り返りもせずに和室を出ると、 スタスタと歩き出す。



追いかけたほうがいい。 このまま帰らせちゃダメだ…… 頭の中ではそう思っているのに、 身体は金縛(かなしば)りにあったみたいに動かなくて……。


私は()りガラスの入った引き戸が目の前で閉まっていくのを、 その向こう側に消えていく背中を、 ただただ黙って見送っていた。


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