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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
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27、 俺のこと、嫌いになった?


私は風水だとか迷信だとかはあまり信じていない方だけど、『悪いことが重なる』というのは本当にあるんじゃないかと思う。



昨日、 司波(しば)先輩によって知りたくもないたっくんの過去を聞かされた私は、 たっくんが付き合っていた過去の女性たちに嫉妬(しっと)し、 それを話してくれなかったたっくんに腹を立て、 そしてそんな風に狼狽(うろた)えている自分に落ち込んだ。



布団を頭から(かぶ)って一晩悶々(もんもん)と考えた結果、 司波先輩から聞いたことはたっくんに伝えないことに決めた。


だって、 たっくんは私を選び、 私の目の前で女性たちに別れを告げたのだ。


今さら過去の話を本人に問いただしても、 結局はお互いに苦い思いが残るだけだ。


彼は私を好きだと言い続けてくれている、 それでいいじゃないか。 彼の言葉を信じて、 前に進むことだけを考えよう …… そう決めて、 翌朝を迎えた。





行きの電車で千代美と清香に考えを伝え、 たっくんには何も言わないよう頼んでおいたものの、 駅で合流したたっくんへの2人の目は冷ややかだった。



「あのさ…… 俺って何かあの2人の地雷を踏んだ? 」


少し離れて後ろを歩いている2人をチラリと振り返りながら、 たっくんが私に(ささや)いてくる。


「ううん、 私たちに気を(つか)って2人にしてくれてるんだよ」



彼はまだ()に落ちない顔をしていたけれど、 私がすぐに話題を変えたので、 そちらに気を取られて、 それ以上深く追求してくることはなかった。




学校について下駄箱の扉を開けると、 私の上靴の上に、 それはあった。



ーー えっ、 何?


上靴の上に置かれた真っ白い封筒。


それを手にとって裏返してみたけれど、 差出人の名前も宛名も書かれてない。


その素っ気ない、 名前も何も書かれていないシンプルさが、 逆になんだか不気味な感じがした。



「なんだよこれ、 俺が見てやるよ」


たっくんが私の手から封筒を奪い取り、 ピリリと封を切る。


中にあるのは4〜5枚の写真のようだ。


たっくんがその写真の束を取り出し、 私も横から覗き込む。



ーー これって……。



「くそっ、 なんだよ…」


たっくんがそう低く呟いて、 すぐまた封筒の中に戻そうとした。


「貸して! 」


封筒を奪い取ろうとする私に背を向けて、 たっくんが抵抗する。



「貸してよ! 」

「嫌だよ! 」


たっくんの腕を思いっきり引っ張った拍子に封筒が落ち、 中身が床に散らばった。



ワックスの効いた木製の床に2人同時にしゃがみこみ、 たっくんが回収しきれなかった1枚を手に取る。



白いシーツのベッドの上で、 上半身裸で寝ているたっくん。


私は行ったことが無いけれど、 ドラマや漫画でそういうシーンを見たことがある。

これはラブホテルの部屋だ。



「こんなもん見なくていい! 」



横から写真を奪い取ったたっくんの顔を見ず、 手だけを横に差し出して、 かろうじて口を動かす。


「見せて」

「えっ? 」


「他の写真も、 全部渡して」

「嫌だ」


「見せてって言ってるの! 早くっ! 」


私の悲鳴に近い大声に、 周囲の生徒がギョッとして振り向いた。



既に靴を履き替えて階段に向かおうとしていた千代美たちも立ち止まる。



「チッ…… 小夏、 来い」


たっくんは舌打ちすると私の手首を掴んで歩き出し、 玄関を出て学校の裏に回ると、 前に来たことのある非常階段の下で止まった。



ーー よりによって……。


こんな時に連れてこられたのがこの場所だなんて……。



ここは前にたっくんが紗良(さら)さんの頬にキスしていた場所じゃないか。


ショックを受けているところに追い討ちをかけられ、 心が打ちのめされる。



「なんなの、 これ…… もう嫌だ…… 」


舗装されていない土の地面の上にヘナヘナとしゃがみこんで、 (ひざ)に顔を埋めた。



「小夏…… ごめん」


目の前にたっくんがしゃがみ込む気配がして、 肩に手が触れた。


だけど私はその手を素早く振り払って、 再び俯く。


「触らないで! 触るな! 」



「小夏…… 」

「……。 」



「小夏、 ごめん」

「……。 」



「俺のこと…… 嫌いになった? 」



たっくんはズルい。

簡単に嫌いになれたら、 こんなに苦しまなくていいんだよ。

こんなに胸が張り裂けそうにならないんだよ。


好きだから…… 涙が止まらないんだよ。



息がかかりそうなほどすぐ近くにいるのに、 前にもたれ掛かればそこには彼の胸があるのに……


私たちは触れ合うことも寄り添うことも出来ず、 ただそこで向き合い、 黙ってしゃがみ込んでいた。



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