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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
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17、 これでハッピーエンドなはずだろ?


「お前…… 時間ある? これから俺んちに来れる? 」


たっくんは周囲をキョロキョロ見回してから、 そう聞いてきた。

ここではゆっくり話せないと思ったんだろう。



「行ったら、 話してくれるの? 」

「…… 話す。 だから逃げないで」


「…… 分かった」


たっくんに手を引かれて玄関から出ると、 そこには紗良(さら)さんが立っていた。

きっとたっくんを追いかけて来たんだろう。


たっくんは紗良さんからふいっと視線を()らし、 私の手首を掴んだまま、 彼女の前を通り過ぎる。


紗良さんの視線を背中で感じながら、 私は黙ってたっくんについて行った。



***



「アイツは…… 紗良は、 同じ中学の1個上の先輩で……。俺が中2の終わり頃からアイツやその仲間とツルむようになって、 それからの付き合い」


「あの人は…… たっくんと付き合ってるの? 」


「付き合ってねえよ! …… ってか、 俺が今言った『付き合い』ってのは、 恋とかそう言うんじゃなくて…… だから、 俺の彼女は小夏だって言ってるだろ! 何度も言わせんなよ! 」


「言わせてるのはたっくんだよ! 私に嘘をついてまで紗良さんに会いに行ったりするからっ! 」



ーー ああ、 嫌だ。


自分がこんな、 オンナ丸出しのベタな台詞(せりふ)を吐いてるなんて。

こんなに嫉妬(しっと)まみれで感情的になるなんて。



たっくんが目の前から消えてから、 私の世界は無機質で退屈なものになったけれど、 代わりに平穏(へいおん)と静けさをもたらしてくれた。


その世界では、 全てが輝いて見えるようなキラメキや、 胸を焦がすような情熱は無いけれど、 嫉妬することもされることも無く、 傷つけ傷つくことも無く、 全てが予定調和の中で(おさ)まっていた。



そこにいさえすれば、 私の心はどこまでも穏やかに()いでいて、 たまにそよ風が吹いても、 それは水面を(わず)かに揺らすのみで、 あとはそっと頬を()でて去って行くだけのはずだったのに……。



なのに今、 私の心は乱れてばかりだ。


たっくんは、 ()いだ湖面に突然投げ込まれた大きな石。


石は大きな音と共に水しぶきを上げ、 どんどん波紋(はもん)を広げながら、 私の心を波立たせ、 掻き乱す。




「私…… たっくんに会わない方が良かった」

「…… えっ? 」


たっくんは水のペットボトルをガラステーブルに置いたまま固まった。


「おい…… 何言ってんだよ」



「私…… こんなに感情的にならない人間なの。 人に期待したり求めたりしたくないし、 ましてや嫉妬(しっと)なんて…… こんなの私じゃない! 」



そうだ、 こんなのは私らしくない。

(あきら)めと引き換えに、 感情を(おさ)える(すべ)を身につけたはずじゃなかったのか?


なのに、 たっくんと再会してからの私は、 こんなにも(もろ)くて(みにく)い。



「なんだよ…… そんなこと言うなよ。 小夏はいつも夢みてて、 無鉄砲で…… ダメっていうのに俺の後を追いかけて来て…… それがお前だろっ! 」


「そんなのは昔のことで、 今の私じゃない! 」



「同じだよ! 気持ちを誤魔化すなよ! ずっと俺のことを覚えてたんだろ? 好きだったんだろ? 俺だってお前のことが好きだって言ってんじゃん! 好きなモン同士が再会して、 これでハッピーエンドなはずだろ? どうしてそれじゃダメなんだよ! 」


「だけどっ! だけど…… 苦しいんだよ…… 」


会えない日々は確かに苦しかったけど…… どうしてなんだろう、 会ってしまった今の方が、 それよりもっともっと苦しいんだ……。





今朝(けさ)…… 」

「えっ? 」


「今朝、 小夏の下駄箱の貼り紙を見た時に、 心臓が止まるかと思った」



たっくんはソファーにトサッともたれ掛かると、 おもむろに今朝の話を始めた。

どうやら私を納得させるために、 順を追って説明するつもりらしい。


私もそれは聞きたかった事だったので、 黙って耳を傾けることにした。


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