14、 お前だって知ってるだろ?
たっくんと並んで学校に行ったら、 校門のところで前と同じ女子の集団が待っていた。
「拓巳、 昨日どうして電話に…… えっ?! その目…… カラコン? 」
その言葉で、 彼女が昨日の電話の『紗良』さんなのだと気付いた。
たっくんも私の表情が変わったのに気付いて、 顔をしかめながらチッと舌打ちをする。
「ねえ、 拓巳、 聞いてるの?! その目はどうしたのよ! ちょっとってば! 」
彼女がそう言って腕に手をかけた途端、 たっくんはバッと乱暴に振り払い、「触んじゃねえよ! 」と、 キッと睨みつけた。
「電話にはワザと出なかった。 もうお前らの番号は消去するしツルむのもやめる。 俺、 言ったよな、 もう近寄るなって。 分かったら話しかけんな」
低い声色で言い放つと、 私の手首を掴んで大股で歩き出す。
「ちょ…… ちょっと! 」
私は殆ど引っ張られるようにして、 小走りで彼について行った。
異変に気付いたのは、 玄関に入ってすぐ。
誰かの下駄箱に白い紙が貼られているなと思ったら、 実はそれが私の所だった。
『アバズレ! 』、『ビッチ! 』
赤いマーカーでデカデカとそう書かれた紙が、 セロテープで貼り付けられている。
「…… んだよコレ! 」
たっくんが紙をベリッと剥がして下駄箱の扉を開けると、 私の上履きにも赤いマーカーでXマークが書かれていて、 中にはバナナの皮や噛み終わったガム、 そして花壇の土が入れられていた。
靴からこぼれた土が、 ロッカーの底にも落ちている。
「くっそ…… あいつら! 」
「たっくん、 やめて! 」
外に飛び出して行こうとするたっくんの腰にしがみついて、 必死に止める。
「なんで止めんだよ! 」
「誰がやったかも分からないのに、 怒鳴っちゃダメだよ! 」
「バカヤロウ! そんなのアイツらがやったに決まってんだろ! 怒鳴るどころか全員ぶん殴ってやる! 」
振り向いた顔は怒りに歪み、 大きく見開かれたその目は血走っている。
それを見たときに、 絶対にたっくんを行かせてはいけないと思った。
「ダメ! 絶対にダメ! 私は大丈夫だから! 」
「小夏、 お前、 自分が何をされたか分かってんのか?! こういうのはどんどんエスカレートしてくんだよ。 最初のちょっとを許すとな、 物に当たってたのが人に向かって、 平手打ちがそのうち拳に変わるんだ! お前だって知ってるだろ?! 」
ーー ああ、 たっくんは……。
皆川涼司 のことを言ってるんだ…… と思った。
たっくんが彼から受けていた数々の暴力は、 今も彼の心と身体に深く刻まれているんだ。
ーー だけどたっくん、 たっくんはアイツとは違うんだよ。 絶対に。
「たっくん! 私もたっくんもアイツじゃない! アイツと同じことをしたら、 悪魔になっちゃうんだよ! 」
腰に回す腕に力を込めながらそう叫んだら、 たっくんの身体から力がフッと抜けた…… と同時に、 その肩が震え出した。
「く…… っそ……。 アイツもアイツらも、 みんなクソだっ……。 またお前を守れなかった俺も…… クソ野郎だ…… 」
腰に回している私の手に左手を重ね、 右手で自分の顔を覆ったまま、 たっくんは絶句した。
私とたっくんを後ろから見守っている千代美と清香。
そして、 そんな4人を遠巻きにしながらザワつく生徒たち。
陽向高校の朝は、 異様な雰囲気に包まれていた。