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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
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13、 青と黒、 どっちがいいの?



『駅の改札を出たところで』


待ち合わせ場所が曖昧(あいまい)だったから、 ちゃんと会えるか心配だったけれど、 そんな心配は全くの無用(むよう)だった。



私たちが駅の改札を通り抜ける前に、 近くの柱のところに人垣が出来ているのが目に入ってきたから。


そして、 その中心で、 腕組みしながら柱にもたれているたっくんが見えたから。



「小夏…… あなたの彼氏、 訪日(ほうにち)したばかりの(がい)タレなんじゃないの? 」


清香が半分本気の口調で呟いた。



千代美と清香には昨夜のうちに電話をして、 心配をかけたことへの謝罪と、 たっくんと付き合うことになったということを伝えた。


そしてここへ来る電車の中でも事の詳細(しょうさい)を話して、 駅で待ち合わせをしていると言ってあるので、 たっくんがそこにいること自体にはビックリしていないはずだ。



ただ…… 今日からたっくんが青い瞳になっているということを、 伝え忘れていた。



***



「青と黒、 どっちがいいの? 」


昨日、 アパートから駅まで私を送る道すがら、 たっくんがそう聞いてきた。



「えっ、 どういうこと? 」


「俺の目…… 小夏は青い方が好きなんだろ? 学校でも青い方がいい? 」

「そりゃあ、 私はいつでも青い方がいいと思うけど…… 」



『こんなに綺麗な瞳を隠してしまうなんて勿体(もったい)無い』


私がアパートでそう言ったから、 たっくんは気にしたのかも知れない。



だけど、 わざわざカラコンをしていたのには理由があるんだろうし、 だったら私の好みで決めていいものではないだろう。



「私と2人でいる時は本当の姿でいて欲しいけれど、 学校で隠してる方が都合がいいのなら、 そうして。 私の好みは二の次でいいよ」


「…… いや、 お前の好みが最優先だろ」



そんなイケメンなセリフを吐かれて、 一瞬で顔面が()(だこ)のようになった。



「…… じゃ、 たっくんの好きな方で」

「そんじゃ、 俺が好きな小夏が好きだって言う青で」



***



「えっと…… こちらが長谷千代美(はせちよみ)さんと野田清香(のだきよか)さん。 2人とも中学からの親友」


私たちが改札から出てきたのを目ざとく見つけ、 たっくんが女子を()き分け歩いて来たので、 まずは親友2人を紹介することにした。



「それでこちらが、 月島(つきしま)…… じゃなくて…… たっくん、 今の苗字(みょうじ)って何だったっけ? 」


和倉(わくら)。 2人とも、 初めまして…… じゃないよな」


私がちゃんと紹介する前に、 たっくんが親友2人に勝手に話し出した。



「ええ、 前に校門で会ってるわ。 あなたが女の子を(はべ)らせてた時に居合(いあ)わせて」


「侍らせてたんじゃなくて付き(まと)われてたんだけど」


いきなり清香とたっくんの間で静かに火花が散っている。



昨日電話でたっくんと付き合うことになったと報告した時、 清香は声のトーンを少し落として言っていた。


『ごめんね、 小夏。 あなたがそれで幸せなのならいいと思うけれど、 私はまだあの人が信用しきれないの。 しばらく様子を見て、 あの人が小夏に相応(ふさわ)しくないと思ったら、 速攻で反対するわよ』



だから今はまだ警戒中といったところなんだろう。




「まあまあ2人とも、 せっかく小夏が初恋の人とカレカノになれたんだから、 楽しくいこうよ。 ほら、 早く行かないと遅刻しちゃうよ! 」


千代美が必死に空気を(なご)ませてくれたところで、 4人で学校へ向かうことにした。



さあ行こうと一歩進み出たところで、 私たちは駅の構内(こうない)で沢山の生徒に遠巻きにされていたことに気付いた。


私や千代美たちは一瞬たじろいだけれど、 たっくんはこういう事に慣れているのか、 ポケットに片手を突っ込んだまま、 真っ直ぐ突き進んでいく。



たっくんが一睨(ひとにら)みしたところから人が後ずさりして、 道が(ひら)かれていく。


その真ん中を堂々と歩くたっくんと、 少し前屈(まえかが)みになりながら、 申し訳なさそうに付いていく私たち。


たっくんを先頭にギャラリーの輪に切り込みを入れるようにして、 私たちは外に出た。



ーー たっくんと一緒にいるということは、 こうやって注目されるって言うことなんだ……。



たっくんと付き合うと決めてから初日となる登校は、 嬉しいとかはしゃぐとかと言うよりも、 不安や恐怖の方が心を占めていた。



ーー だけど、 もう私はたっくんと再会する前の私には戻れない…… 。



だから私は足を速めてたっくんの隣に追いつくと、 背筋を伸ばして顔を上げて、 前に向かって歩き出した。



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