表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
63/237

12、 俺の彼女になる?


マナーモードにされているらしいたっくんのスマホは、 ガラス製のセンターテーブルの上で、 低く(うな)りながら振動を続けている。



「電話…… 鳴ってるよ」


画面の表示をチラッと見たくせに、 知らん顔をしているたっくんにそう言うと、「チッ」と舌打ちをしてから苦々(にがにが)しそうに、「知ってるよ」とだけ答えた。



スマホは一旦静かになり、 数秒後にまた震えだした。

再び『紗良』の表示。



たっくんは今度はすぐにスマホを手に取り電話を切って、 続けざまに電源をオフにする。



「…… いいの? 電話に出なくて」

「いいんだよ」


「ふ〜ん…… そう」



ーー あっ、 今の言い方って、 なんだか()いてるっぽく聞こえたかも。


彼女でもないのに、 なんだか嫌だな…… と自分で思っていたら、 やっぱりたっくんにもそう受け取られていたらしい。



「あのさ…… 違うから」

「えっ? 」


「今の…… 関係ないから」

「…… ああ、 別にいいよ。 たっくんがモテるのはもう知ってるし」



ーー あっ、 私また、 嫌な言い方した。



さっきの教室での、 川田さん達のやり取りを思い出す。


『和倉くんは特定の彼女は作らないでしょ』


『折原さんは、 そういうタイプじゃないでしょ』


『折原さんは真面目っぽいもんね』



なんだか胸がモヤッとして、 さっきまで暖かいもので満たされていた心が、 急に冷え込んだような気がした。



「あの…… 私、 もう帰るね。 お邪魔しました」


カバンを掴んで立ち上がろうとしたら、 その腕をグイッと引っ張って戻された。



「ちょっと待てよ、 だから違うって! 」

「私は別に…… 」


「俺はずっと小夏だけだから! 信じろよ! 」


腕を掴んだまま必死になって訴えるその表情は、 真剣そのものだ。


だけど……。



「だったらなぜ、 いつもあんな風に女の子たちに囲まれてるの? あの人たちはたっくんの何? 」



こんな言い方をしたら、 たっくんはきっと、 私がヤキモチを()いていると思うだろう。


だけど仕方がない。 だって私は実際、 見知らぬ『紗良』さんにも、 取り巻きの女子にも妬いているんだ。



どんどん顔が赤くなっていく私を見て、 たっくんがハッと目を見開いた。


「小夏…… やっぱりお前、 俺のことが好きなんじゃねえの? 」

「…………。」


「なあ、 お前、 俺のことが好きなんだろ? 」



もう観念(かんねん)するしかない。


私が黙って頷くと、 たっくんはパアッと表情を明るくして、 私の両肩をガシッと掴んだ。



「好きなの? 小夏が? 俺のことを? 」


私はますます赤くなりながら、 もう一度コクコクと頷く。


「…………ったあっ! よっしゃ! 」



ーー あっ、 たっくんの笑顔だ……。


私が大好きだった、ひまわりの笑顔。


青空を(うつ)したビー玉のような瞳に、 ひまわりのような輝く笑顔……。




「たっくん…… 好き…… 」


思わず口から(こぼ)れた言葉に、 私もたっくんも驚いて、 そして不思議な表情で見つめあった。



「小夏…… 俺のこと、 好きって言った」

「…… うん」


コクコクと頷く。


「小夏は俺のことを、 好きになった」

「うん…… 好きになった」



ーー うん、 好きになった。 ずっと…… 大好きだった。



「小夏…… 」


たっくんにそっと抱き寄せられて、 私も背中に腕を回すと、 ギュッと力を込めた。



「小夏…… 俺もお前のこと、 大好き…… 」


何度も何度も耳元で私の名を(つぶや)かれて、 身体中が甘い(しび)れで満たされていく。



ーー これは2度目の初恋だ……。



たっくんのことが好きで好きで大好きで、 この人のためならどうなってもいいと、 (おろ)かなほどに夢中になっていた幼い日の恋。



気になって気になって仕方がなくて、 戸惑い恐れながらも、 やはり近付かずにはいられない今の複雑な気持ち。


この感情を一言で言い表すのは難しいけれど、 やっぱりこれも、『恋』なんだろうと思う。



幼い頃からたっくんのことが大好きだった私は、 今また同じ人に恋をした。


だから結局のところ私は、 彼にずっと恋をし続けていると言うことなんだろう……。



「小夏…… 俺の彼女になる? 」


甘く(ささや)かれて、 今度は迷わず頷いた。



「うん…… たっくんの彼女になる…… 」



そっと身体を離されて、 彼の黒い睫毛(まつげ)()せられた。


私も目を閉じたら、 柔らかくて懐かしい彼の唇が触れた。



6年ぶりの口づけは、 甘くて深いムスクの香りがした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ