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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
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7、 俺のことを知りたいの?


「ねえねえ、 折原(おりはら)さんって和倉(わくら)くんとどういう関係なの? 幼馴染とか従兄妹(いとこ)とか? 」



帰りのHRが終わって教科書をカバンに片付けていたら、 同じクラスの女子3人組に机を取り囲まれた。



「和倉くん? 」


馴染(なじ)みのない名前に首を傾げたら、


「えっ、 一緒にお昼を食べてたでしょ? 和倉拓巳(わくらたくみ)くんと」


そう言われて、 皆が言ってるのがたっくんのことなのだと気付いた。



「ああ…… 昔、 近所に住んでたことがあって…… 」


どこまで正直に話していいものかと考えながら、 とりあえず一番無難(ぶなん)な答えを口にした。



「ああ、 そうなんだ〜。 (すご)く仲良さそうだから、 彼女なのかと思っちゃった」

「ええっ?! でも、 和倉くんは特定の彼女は作らないでしょ」


「あっ、 そうか。 それに折原さんは、 そういうタイプじゃないでしょ」

「そうだよね〜。 折原さんは真面目っぽいもんね」


3人はクスクス笑いながら、 私を無視して内輪(うちわ)で盛り上がっている。


話が終わったのなら早く解放して欲しい。



もう私に用は無いのだろうと腰を浮かしかけたら、 3人のうちの1人が思い出したように話しかけてきた。

確か川田さんとかいう名前だったか……。



「折原さん、 幼馴染なら仕方ないかも知れないけどね、 あまり和倉くんと仲良くしてると、 先輩に目をつけられるよ」


「えっ、 先輩? 」


「そう。 私たちは和倉くんと同じ中学だったんだけどね…… 」




「おい、 小夏、 帰るぞ」


急に名前を呼ばれて顔を向けると、 前の方のドアに片手を掛けて、 たっくんが立っていた。


女子3人組は、 たっくんと目が合うと気まずそうに黙り込んで、 そそくさと離れて行く。



ーー 彼女たちは一体何がしたかったんだ。



さんざん思わせぶりな事を言っておいて、 肝心なことは何一つ教えてくれていない。


たっくんがモテることも、 派手な取り巻きがいる事も、 昨日と今日の2日間だけで充分わかった。



私が知りたいのは、 もっと違うこと…… 例えば、 最後に会った雪の夜のこと、 たっくんの空白の6年間、名字(みょうじ)が変わった理由、 そして、 髪と目の色のこと……。



それに、 彼女たちがたっくんと同じ中学校にいて顔見知りだと言うのなら、 何も逃げるように去っていくことはないじゃないか。


たっくんの顔を見て挨拶(あいさつ)することも出来ないのなら、 訳知(わけし)り顔で語らないで欲しい。



ーーだけど……。


私は、 そんな彼女たちよりも、 今のたっくんの事を何一つ知らないんだ……。




気付くと目の前にたっくんが立っていて、 私をジッと見下ろしていた。


「小夏、 また空想の世界にワープしてたの? 」


クスクス笑いながら、 机の上から私の青いペンケースを手に取った。



「空想してないしワープもしてません! ペンケースを返してもらえます? 」

「…… また敬語に戻ってる」



ーー はあ…… そんなのどっちだっていい。


さっきの川田さんたちとのやり取りのせいだろうか、 たっくんに対して(みょう)苛立(いらだ)つ自分がいる。



たっくんもさっきの彼女たちと同じだ。

本当に知りたいことを何も教えてくれない……。



「ペンケースを返して。 それと、 私はあなたと一緒に帰る約束をした覚えはないし、 あなたの住んでるところも知らない」


するとたっくんは目の前にペンケースを差し出して、 私の目を真っ直ぐに見据(みす)えて言った。



「小夏は俺のことを知りたいの? 」


私がペンケースを受け取り、 黙ってコクリと頷くと、


「…… 一緒に来いよ」



その()に真剣な光を宿らせて、 スッと右手を差し出した。



「うん…… 行く」


私がその手を握り返したら、 何気ないフリで様子を(うかが)っていたクラスメイトから短い口笛が上がり、 「えっ!」とか「マジか! 」と言う声が聞こえた。



「小夏! 」

「ちょっと、 小夏! 」


心配そうに呼びかけた千代美と清香を振り返り、 「ごめん、 行ってくる! 」とだけ言うと、 手を引いて歩き出すたっくんに遅れないよう、 慌ててカバンを手に取った。



廊下に出たら、 たっくんの取り巻きらしい派手な集団がいて、 その中心にいる、 赤い口紅をした大人っぽい女子生徒がたっくんの名を呼んだ。


たっくんが彼女を無視して目の前を通過すると、 彼女はたっくんと繋がれた私の手をチラッと見てから、 私を(にら)みつけてきた。



この人が川田さんの言っていた『先輩』なのかな…… 思いっきり目をつけられたな…… って思ったけれど、 不思議と怖さは感じなかった。



私にはそれよりも、 これからたっくんに教えてもらえるであろう事の方が重要で、 (はや)る心臓がドクンドクンと騒ぎ立てていた。



生徒の注目を集めるなか、 たっくんに手を引かれ、ザワめく廊下をぐんぐん進む。



「小夏、 ウザいからとっとと抜けるぞ」

「うん! 」


2人で手を繋いだまま走り出すと、 周りの景色が見えなくなって、 私の心は幼いあの頃に戻って行った。



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