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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第2章 再会編
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5、 アイツらがいなかったらいいの?


それは、 見るからに華やかな集団だった。


たっくん自身が目立つ容姿なのはもちろん、 取り囲んでいる女子も、 髪の毛先がクルンと巻かれていたり、 制服の着こなしがオシャレだったりで、 その一帯だけが輝いているようだ。


それこそ少女漫画なら、 背景に薔薇(ばら)の花を背負っていそうな……。



その集団を置いてきぼりにして、 たっくんは平然とこちらに歩いてくる。


派手と地味との遭遇(そうぐう)だ。




「ほら小夏、『ふるふる』しようぜ」


私の前まで来て立ち止まり、 ポケットからスマホを取り出すと、 目の前に突き出して『ふるふる』と揺らしてみせる。



「あの…… 『ふるふる』って…… 」


ゼリーかプリンの名前みたいな事を言われて戸惑っていると、 横から清香(きよか)が助け舟を出してくれた。



「あの…… 『たっくん』さん、 この子、 まだガラケーしか持ってないんです」



それを聞いたたっくんが、 バッと私を見て目を見開くと、 大袈裟に驚いてみせる。


「えっ、 小夏、 お前、 いまだにスマホじゃねえの? いつの時代だよ」



ーー いつの時代って、 今の時代だよっ!



「あの…… 連絡を取るには携帯電話があれば事足(ことた)りるので。 でも、 ちょうど良かったです。 私もあなたの連絡先を知りたいと思っていたので…… 」


「おい、 ちょっと待てよ! 」

「えっ? 」


「小夏、 お前どうして俺に敬語を使ってんの? なんでそんなに他人行儀なんだよ、 変だろ」



ーー 変と言われても……。


だって正直いうと、 この人がたっくんだという実感がいまだに()かないのだ。


たっくんだというのを疑ってはいない。


だけど、 全体に(まと)っている退廃的(たいはいてき)な空気とこの容姿が、 私の知っているたっくんとあまりにもかけ離れていて、 警戒を完全に解いてはいけないと、 心のどこかで叫んでいる。



「ふ〜ん…… そういう態度を取るんだ」


私が黙り込んだのが気に入らなかったのか、 彼は少し目を細めて眉根(まゆね) を寄せると、 私の両肩に手を乗せた。



「冷たいんだな〜、 小夏は! この前は俺の胸に顔を(うず)めて喜びの涙を流したのに! 」


「ちょ…… ちょっと! 」


この人は公衆の面前(めんぜん)でなんて事を言うんだ!

しかもコレ、 わざと大声で言ってるよね。



「ちょっとたっくん、 誤解されるような言い方をしないでもらえる?! 」

「えっ? 俺って嘘はついてないよな」


「嘘じゃないけど! 合ってるけど! いや…… っていうか、 言い方! 」

「それじゃあ、 敬語をやめてくれる? 」



「…… はい、 分かりました」

「はあ?! 」


「…… うん、 分かった」


たっくんは「よろしい」と言ってようやく笑顔を見せると、 スマホのアドレスを開いて、 私のメアドと電話番号を登録した。


そしてすぐさま私に電話を掛けてきて、「それ俺の番号だから。 いつでも電話して」とウインクして見せた。



ーー ウインクって……。


やっぱりこの人は、 たっくんだけど、 たっくんじゃない。



「そんじゃ、 行こうか」


私がまた頭の中でいろいろ考えていたら、 たっくんが私のカバンを手に取って先に歩き出した。



「えっ、 ちょっと! 」

「なに? 」


「そういう事をされると困ります! 」

「言葉遣い! 」

「えっと…… 困る! 」


「カバンを持つとなんで困るの? 」



私は返事をする代わりに、 校門の方をチラッと見た。


校門のところにいる集団が、 さっきから腕組みしながらこちらをすっごい目つきで(にら)んでいる。


目を合わせたら石にされそうだ。



「ああ…… アレか。 気にするな。 アイツらは同中だった奴とか、 前に同中にいた先輩とかだ」

「えっ、 先輩も?! 」


ーー と言うことは、 2年生や3年生もいるのか…… どうりで大人っぽいはずだ。


っていうか、 そんな年上の人達とも付き合いがあるんだ……。



ますます彼が、 私の中のたっくん(ぞう)とかけ離れていく。



「あの…… 私、 目立ちたくないし、 (てき)も作りたくないんです。 平和な学校生活のため、 私には学校で話しかけないでもらえますか? 話は今度ゆっくり改めて…… 」



たっくんに手を差し出して、 カバンを返すよう(うなが)した。


たっくんはあからさまに不機嫌な顔をしてチッと舌打ちすると、 私にズイッと近寄って、 高いところから見下ろしてきた。



「じゃあさ、 アイツらがいなかったらいいの? 」

「えっ? 」


たっくんはカバンを持ったままクルッと背を向けて、 門に向かって歩き出した。



「えっ、 ちょっと! カバン! 」


私のカバンを右手で肩に乗せたまま、 大股でグングン歩いて行く。



そして門の前まで来ると、 女子の集団に向かって言い放った。



「お前ら、 もう俺に近寄るな、 じゃあな。…… 小夏、 行くぞ」



ーー えっ? ええっ?!



先にスタスタ歩き出したたっくんの後を追いながら、 私は平和な学校生活が完全に失われた事を(さと)った。



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