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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 2人の未来編
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56、お前って漢前過ぎね? side拓巳


「いいよ、言って。何でも答える」


窓枠に背を預けたまま俺が横の小夏に視線を向けると、それでも彼女はまだ言いにくそうに、下唇を噛んで考えていた。



小夏は必死に言葉を探している。優しいコイツのことだ、自分が発する言葉が俺を傷つけるんじゃないかとか、コレは聞いていいことなんだろうか……なんて、頭の中でグルグル考えているんだろう。


そんな小夏を目の前で見られることさえ今は嬉しくて(たま)らないんだ……なんて言ったら、きっとコイツは『人が真剣に考えてるのに!馬鹿っ!』なんて言って怒り出すんだろうな。


()ねた小夏を見るのもいいけれど、やはりここは茶化(ちゃか)す場面じゃないだろう。

だから俺は決して()かすことなく、同じ姿勢のままでジッとその時を待った。




「……穂華さんはたっくんに迷惑を掛けたくないと思ってたんだよね? だから内緒にしてたんだよね?」

「……ああ」


しばらく経って小夏が(ようや)く目線を上げたところで、俺は組んでいた腕を解いて窓枠から背を離し、身体ごと彼女に向き直った。



「たっくんは、そんな穂華さんの気持ちを知りながら、それでも側に寄り添って、辛くても徐々に変わっていく姿を見届けることを選んだ……そうだよね?」

「……ああ」



「だったら私だって同じだよ」

「えっ?」


「私だって……たっくんの側にいたかった。迷惑を掛けて欲しかった」


今度は目を逸らすことなく、真っすぐにこちらを見据(みす)えてくる。



「私にだって分かるよ。たっくんはまた私が無茶をするって思って……巻き込んじゃいけないって思ったんだよね」


ーーそうだよ小夏……。


俺は自分以上にお前が大事なんだよ。自分の気持ちだけを押し付けるには……もう俺はお前のことを愛し過ぎちゃったんだ。



「俺は自分の我が儘でお前の未来を縛りたくない」

「だけどっ!」


言葉を遮るように小夏が大きな声を重ねてきたから、俺は続く言葉を引っ込めた。



「それでも……無理矢理にでも巻き込んで欲しかった。側にいろって言って欲しかった。それからどうするかは、私が自分で決めるよ!」

「小夏……」


「私の心も身体もたっくんのモノだよ。全部丸ごとたっくんにあげる。だけど……自分の気持ちも未来も、決めるのは私自身だから!」


「だけど俺は……」


いや、言い訳なんてしたって仕方ない。

小夏だって分かってるんだ。たとえ俺が一緒に来いと言ったって、高校生の俺たちにはそんなこと出来っこない、結局今は離れるしか無かったんだってことを。


それでも黙って逃げるんじゃなく、言葉で示して欲しかったんだろう。『離れたって俺たちは大丈夫だ』、『必ず会いに来るから』……と。



「8年前の事を後悔してたのは、たっくんだけじゃないんだよ。私だって、あの時追い掛けなかった事をずっと悔やんでた。もう黙って待ってるだけなんて……何も分からないまま置いて行かれるのは嫌なの!」



ーーああ……。


「ホントお前って……」

「何よ、気が強い女とか、こいつウザイな……とか思って呆れてるんでしょ。だけどね、なんて言われたって私はもう……」


「小夏っ!」

「えっ? うわっ!」


考えるよりも先に身体が動いていた。小夏の身体を力いっぱい抱き締めると、一旦離して至近距離から顔を見つめる。



「お前ってホント漢前(おとこまえ)過ぎね? マジで惚れ直すわ」

「またすぐ冗談にする……」


「冗談じゃない。マジで好きって思っただけ」

「もっ……もう……」


ジッと見つめると、小動物みたいなつぶらな瞳いっぱいに俺が映り込んでいる。今この瞬間、コイツが見ているのは俺だけ。世界中でたった1人、俺だけなんだ……。


そのことに満足してゆっくりと目を細めたら、小夏が俺のしたいことを察して()を閉じた。


そっと(ついば)むように上唇に口づけた後で、今度は強く唇を押し付ける。


「は……」と彼女が吐息を漏らすのを待って、もっともっと深いキスをした。



唇を離して見つめ合うと、小夏が恨みのこもった目つきでチロッと見上げてくる。


「キスなんかじゃ誤魔化されないんだからねっ! 2度も私を裏切って……3度目は無いんだから!」


ーーフッ……言われなくたって……。


「お前、言ったな……覚悟しろよ。もう絶対に逃さない……」


もう一度キツく抱きしめたら、耳元で小夏が「馬鹿っ!覚悟がなかったらこんな所まで来ない!」


涙声で言われて、それもやっぱり可愛いな……と思いながら、口には出さずに黙って喜びを噛みしめた。


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