表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第1章 幼馴染編
2/237

1、 名前、 なんて〜の?


私がその街に引っ越してきたのは5歳の時で、 ジージーとアブラセミの鳴き声がうるさい、 うだるように暑い夏の日だった。


大粒の汗をかきながら大きな荷物を抱えていく男の人たちと、 部屋の中でキビキビと指示を出している母親。


小さかった私に出来ることは何一つ無く、 トラックから古びたアパートに次々と運び込まれていく荷物を、 ()びついた外階段に座ってぼんやり(なが)めていたのを覚えている。




母親はその日のうちに役場に行っていろいろな手続きを済ませると、 翌日にはアパートから一番近い保育園に私を連れて行った。



その日は『お試し保育』というやつだったらしいけど、 落ち着いている私の様子を見て大丈夫だと判断したのだろう。

母親は園長先生と担任の先生に挨拶(あいさつ)を済ませると、 私1人を置いてとっとと帰って行った。

多分そのまま仕事に行ったのだと思う。



年長さん担当の(かえで)先生が体を(かが)めて私と目線を同じにすると、 ニコッと微笑みかけてきた。


「今みんなは園庭(えんてい)で遊んでるから、 一緒に行ってみようか」


そのほんわかした笑顔を見た瞬間、 なんだかとても安心して、 差し出された左手を躊躇(ちゅうちょ)なく(つか)んでいた。



楓先生に手を引かれて外に出ると、 沢山の子供達が砂場や遊具で遊んでいて、 先生がその中の女の子3人組に声をかけた。


真帆(まほ)ちゃん、 美来(みく)ちゃん、 音羽(おとは)ちゃん、 この子、 小夏(こなつ)ちゃんって言うの。 一緒に遊んでくれる? 」


「うん、 いいよ。 小夏ちゃん、 遊ぼ! 」


3人組の中で一番かわいくて一番かわいい靴を履いていた真帆ちゃんが私の手を引くと、 園庭の(すみ)にある小さな小屋の方に歩いて行く。


「この子たちね、 みんなで飼ってるの」


真帆ちゃんに言われて小屋の中を(のぞ)くと、 そこにいたのは3匹のうさぎ。



「わあ〜、 かわいい。 ふわふわ! 」

「そうでしょ。 この子がミルク、 あの子がココア、 あ

っちの子はチョコ」


真っ白な子がミルクで、 薄茶色の子がココア、 黒くて首の周りとお腹だけ白い子がチョコ。


分かりやすいネーミングの3匹をジッと見つめていたら、 他の子たちは見飽(みあ)きているのかすぐに立ち上がって、 今度は遊具の方に行こうと言い出した。



「ねえ、 ジャングルジムに行こっ! 」

「うん。 小夏ちゃん、 ジャングルジムに登ろっ! 」


「…… 私はまだここにいる」


私がうさぎ小屋の前でしゃがんだまま首を横に振ると、 彼女たちは特に気にする様子もなく、 遊具の方へと勢いよく駆けて行った。



「ふふっ…… かわいい」


小屋からはみ出していた干し草を(あみ)隙間(すきま)からそっと差し入れると、 ミルクが警戒(けいかい)しながらゆっくり寄ってきて、 干し草の先からモグモグと口に頬張(ほおば)り始める。



「ミルクちゃん、 もっとお食べ」


次々と干し草をつまんでは網から差し入れていたら、 コツンとお(しり)に何かが当たって振り向いた。


足元に転がっていたのはサッカーボール。

私がそれを両手で持って立ち上がると、 向こうから男の子が掛けてきた。



「あっ、 ごめんな」



ボールを取りに来たその子を見て、 私はハッと息を()んだ。



ーー えっ?!


真っ先に気付いたのは、 彼のその容姿。

色素の薄い肌に、 (べに)を塗ったように赤い唇。 栗色の髪は光を反射した部分だけが金色に輝いている。



ーーあっ、 青い!


次に目に飛び込んできたのは、 晴天の青空のように澄んだブルーの瞳。


くっきりとした二重まぶたに長いまつ毛。

その下にある大きな瞳は、 キラキラと輝く青いガラス玉のようで……。



「キレイ…… ビー玉みたい」



「えっ、 ビー玉? 」

「えっ、 日本語? 」



2人同時に()頓狂(とんきょう)な声を発して、 同時に黙り込む。


てっきり外人さんかと思っていたら、彼の口から(こぼ)れてきたのが流暢(りゅうちょう)な日本語でビックリした。




「いいな…… 綺麗な青い目、 欲しいな…… 」


ぼ〜っと見惚(みと)れていたら、 手元に視線を感じて、 ボールを持ったままだったことを思い出す。



「あっ、 はい、 これ」

「ありがとう」


彼はサッカーボールを受け取ると、 待っている仲間の方へ足を向けた……が、 すぐに立ち止まって振り返った。



「ねえ、 名前、 なんて〜の? 」



「…… 小夏、 折原小夏(おりはらこなつ)

「ふ〜ん、 俺は月島拓巳(つきしまたくみ)


その子はそれだけ言うと、 園庭の真ん中へと駆けて行った。



ーー ツキシマタクミ…… たっくんだ。



それが、 私とたっくんとの初めての出会いだった。



『幼馴染編』スタートです。

基本的にヒロイン小夏の回想になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ