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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 2人の未来編
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38、思い出にしないために


新横浜からJRと私鉄の乗り換えを経て横須賀中央駅に着いたのは、午後5時近くになった頃だった。


既に太陽の光が低いところから射していて、遠くの空が何層もの暖かい色に染まり始めている。



ーー急がなきゃ……。


今日は司波先輩の卒業祝いでカラオケに行っている事になっている。その後でファミレスで喋っていたと言えば多少遅くなっても大丈夫だろう。


だけど、あまり遅い時間になると、母が迎えに来ると言い出す可能性がある。新幹線の時間も考えると、こっちにいられるのは2時間あまりしかない。



少し焦りながら、早足で駅のコンコースを抜け、タクシー乗り場に並んだ。


たっくんも、こうして同じように駅に降り立ったのだろうか。それとも以前と同じように夜行バスに乗って来たのか……。



ーーだけどもう、そんなのどちらでもいい。とにかく横須賀にいてくれさえすれば。



タクシーには少し待っただけで乗ることが出来て、扉が閉まってすぐにスマホにメモした住所を見せて、年配の運転手さんに「月島建設までお願いします」と伝えた。



「ああ、はいはい、月島建設ね」

「えっ、知ってるんですか?!」


「ああ、私の家がその街にあるんでね。月島建設と言えば地元では大手でね、亡くなった親父さんの頃よりは多少勢いが無くなったものの、今も地元の公共事業は大抵あそこが手掛けてるんじゃないかな」



ーーやった!大当たり!


「それじゃ運転手さんは、月島さんの家を知ってますか?」


「ああ、月島のお屋敷ね。立派な家だから、地元のもんなら大抵知ってるよ。なに?お嬢さんは家のほうに用事があるの? 幸夫くんの彼女?いや、光夫くんの方かな?」


小さな私が実年齢より下に見えたんだろう。確か光夫くんは2歳年下だったっけ?



「えっと……彼女では無いんですけど、幸夫くんに用事があって……」


どう言えばいいのか分からなくて曖昧にぼかして答えたら、告白かなんかだと思われたらしい。

運転手さんの顔がバックミラーの中でニヤついて、「はいはい、それじゃ家の方でいいのかな?頑張ってね」と応援されてしまった。


嘘をつくようで申し訳ないけれど、運転手さんにはこのまま勘違いしてもらっておこう。

とにかく結果オーライだ。




タクシーは海沿いの道を順調に進む。この道を小学生のたっくんも通った事があるのかな。何度もこの景色を眺めたのかな……なんて考えながら、キラキラと輝く海を眺めていた。



ーーたっくん、私、たっくんを追い掛けてここまで来たよ。



過去に戻ってもう一度やり直したいと、あの日から何度も繰り返し思った。


あの時こうしていればとか、 こう言っていたらとか、 何度も脳内でシミュレーションしてみた。


だけど、 たっくんが私にくれた言葉、 私に向けてくれた笑顔、 溢した涙や痛みでさえも、 私にとっては全部が大切な思い出で、 どれ1つ失いたくなくて……。


だから何度どこに戻っても、結局は同じ結果になってしまう。


結局最後には、たっくんとの通話が途切れたあの瞬間に戻ってきてしまうのだ。



『待っててくれとは言えないけれど……指輪は持っていて欲しい。たまには俺のことを思い出して。 ……本当にゴメンな』


改めて指輪をジッと見つめてから、右手でその指輪ごと左手を握りしめる。



ーーたっくん、私は毎日、あなたのことを思い出しているよ。


そして今……たっくんの足跡を追って、とうとうこの街まで辿り着いたよ。


たっくんが消えたあの日をやり直すことが出来ないのなら、たっくんのいない今を私が変えるよ。

私がたっくんを見つけ出して、2人の未来を取り戻すよ。


あなたをただの思い出にしないために……。


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