20、小夏の髪の毛を弄ってもいい? (1)
「小夏のがこっちで、たっくんのがこっちね」
母が畳の上でたとう紙の包みを2枚開いて見せると、片方からは女物、もう一方からは男物の浴衣が現れた。
「早苗さん、どうもありがとうございます。こんなのをいただいちゃって、本当に良かったんですか?」
「いいの、いいの。小夏が洋服とか指輪とか色々買ってもらってるんでしょ?浴衣の一枚くらいはプレゼントさせて頂戴」
「あっ、たっくん、ちゃんと私のお小遣いからも負担してるからね!誕生日プレゼントだからね!」
私が紺地の浴衣を指差しながら力説すると、たっくんがニッコリしながら「分かってる」と頷いた。
去年のたっくんの誕生日は、再会してすぐでアレコレあり過ぎて、ちゃんとお祝いする事が出来なかった。
今年こそは早目にリサーチをと『今欲しいものって何?』と訊ねてみたら、その答えが『小夏が手に入っちゃったから、特に無いな』という嬉しくも恥ずかしいモノだった。
負けじと更に食い下がって追求したら、
『欲しい物って言うよりも……また2人で一緒に夏祭りに行きたいな……』
という返事が返ってきた。
夏祭りと言えば浴衣。たっくんの浴衣姿は是非とも見たい!……だけどバイトをしていない私の微々たるお小遣いでは、とてもじゃないが浴衣セット一式なんて買えない。
家に帰ってウンウン唸りながら悩んでいたら、その様子を隣で見ていた母が提案してきたのが、
『小夏が日頃いろいろお世話になってるお礼にお母さんが浴衣をプレゼントするわ。小夏もお小遣いで出せる範囲で一部負担なさい』
と言うものだった。
かくして、親の財布をアテにして購入した浴衣は本麻の近江チヂミのそこそこ値の張った品で、7月の頭に購入してからというもの、早くたっくんに着せたくてウズウズしていたのだった。
「小夏、どう?」
私が和室の開き戸をガラリと開けると、浴衣姿のたっくんがスラリと立っている。
お店で散々迷ったけれど、やっぱりこの色で正解だった。濃紺地にグレーの縦縞の浴衣に、濃いグレーの正絹帯。大人っぽいたっくんに似合っている。
「……カッコいい……凄く」
ぽけ〜っと見惚れていたら、「ジッと見過ぎ。恥ずかしいだろっ」とオデコを指先でツンと突かれた。
「俺だって小夏の浴衣姿を見たい。早く着替えてよ」
「あ……あっ、そうか」
たっくんと入れ違いに和室に籠ると、母に手伝ってもらって新品の浴衣に袖を通す。
ーーこの浴衣を見たら、たっくんはすぐに気付くかな。何て言うかな……。
気を付けの姿勢で廊下の方を向いて、ドキドキしながら立っていたら、ちょっとだけ戸が開いてたっくんの顔が覗いた。
「あっ、金魚!」
顔をパアッと輝かせると、ガラリと戸を全開にして入って来る。
ーーやっぱり、すぐに気付いてくれた!
今年の浴衣は紺と生成りの染め分け地に、紺と赤の金魚がデザインされた古典柄で、お店で一目見て「これだ!」と、私には珍しく即決した品だ。
だって金魚はたっくんと過ごしたあの夏の大切な思い出だから……。
「いいね……金魚。チビたくもチビ夏もいないけど」
「ふふっ、コレは琉金だもんね」
「でも、いいよ。凄く似合ってる。いつもより大人っぽい。 ……うん、マジでイイ」
「へへっ……ありがとう」
たっくんは私の周りをグルグル回りながら、プロのカメラマンみたいにパシャパシャ写真を撮りまくる。
「ちょっ!恥ずかしいからそんなにいいって!」
「駄目だよ、永久保存版だから。あっ!でも……」
「でも……何?」
たっくんは顎に指を当てながら私をジッと見て何かを考えている。
「ねえ早苗さん、俺が小夏の髪の毛を弄ってもいい?」
今回はお話が中途半端な所で途切れていてすいません。書いていたら長くなったのでいい所で分けようと思ったら、ここしかありませんでした。
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