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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 2人の未来編
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10、シアワセ?


「今からするよ……いい?」


あまりにも(かす)れた小さな声だったから、思わず「えっ?」と聞き返した。


「ヤバイな、俺……こんなに緊張するのは、病院で小夏にキスした時以来かも」


「ふふっ、それ、何年前の話?」


「6年前、あの雪の日に後悔した事を、2度と繰り返したくない。今度こそ小夏を俺のもんにしたい」



ーーたっくん、そんなの……


「もうとっくに……初めて会ったあの日、青い目に魅せられてから……ずっと私はたっくんのモノだよ」


たっくんはゆっくりと一つ瞬きをしてから、これ以上ないというほど目を細め、「うん」と頷いた。



「悪いな、小夏。俺は今、頭が沸騰してるから、一旦始めたらどうなるのか、正直自分でも分かんないんだ。どうしても嫌だったり我慢出来ないと思ったら……蹴ってでも殴ってでもいいから俺を止めろよ」


「……止めないよ。言ったでしょ、私はたっくんのモノだって。好きにすればいいんだよ」


クスッと笑って答えたら、たっくんが『参った』という顔をして、自分の髪を掻き上げた。



「やっぱ小夏は、俺よりも(おとこ)らしいな。(いさぎよ)い」


「嫌になった?」

「ううん……最高……」


たっくんはそう言って、左手で私の前髪をそっと掻き分ける。



こめかみの傷をジッと確認すると、指先でスッとなぞって、「俺の……」と吐息まじりに呟く。

今では薄っすらと白い痕が残るのみとなったそこにそっと唇を押し当て、続いて額、鼻、頬と順に、(ついば)むような短いキスを落としていった。


キスは唇へ、そして首筋、鎖骨へと移っていく。



私も緊張で身体を硬くしていたけれど、何度も呼ばれる自分の名前と、吐息と共に囁かれる愛の言葉、そして遠慮がちに優しく肌を撫でる指先に、徐々に(ほど)けていった。


初めての感覚と徐々に高まる快感にゾクゾクして、思わず「あっ……」と声を漏らしたら、たっくんが一瞬だけ顔を上げて、「小夏……もっと声、聞かせて」そう言って、私の身体に顔を(うず)めた。



「ああっ……!」


頭のてっぺんから足先まで真っ直ぐに電流が流れ、思わず身体を()け反らせると、たっくんが満足げに身体を起こし、上から重なってきた。


その瞬間、目の前がチカチカと(まばた)いて、私の意識は白い光の中に吸い込まれていった。



***



身体を撫でる温かい感覚に目が覚めると、窓の外は既に明るくなっている。朝だ。


「えっ、何時……」


「朝の9時過ぎ」

「えっ、もうそんな時間?……って、えっ?!」


予期せぬ所から聞こえてきた声に、顔だけちょっと上げて見下ろしたら、足元でたっくんが私の片足を持ち上げていた。


「えっ、何してるの?」

「何って……小夏の身体を拭いてるんだけど」


「なんで?!」

「なんでって……汗をかいてたし、汚れたし……タオルはお湯で温かくしたから冷たくないだろ?」


「いや、温かいとか冷たいとかの問題じゃ無くて……どうしてたっくんがそんな事してるの?」


私がめちゃくちゃ動揺してるのに、当の本人は、それが心外とでも言うように、首を傾げてキョトンとしている。



「ええっ?!私は良く知らないけど、男の人って、こういう……その、シた後って、相手の体を拭いたりするものなの?」


「そんなの俺だって知らないよ。こんな事するの、生まれて初めてだし」

「えっ、じゃあいいよ、そんな事しなくっても……」


たっくんは私の言葉を無視して、足の指を一本ずつ丁寧に拭いていく。



「朝、目が覚めたらさ、隣で小夏がスースー寝息を立てて寝てたんだよ。額に汗かいて、湿った髪が顔にかかっててさ。……こんな小っちゃい身体で、初めてなのに、俺のことを必死に受け入れてくれたんだな……って思ったら、胸が一杯になってさ……」


たっくんは声を震わせて、そこで大きく息を吸い込んだ。



「とにかくお前のために何かしてやりたくて、ジッとしてられなくて……」


「あっ、ありがとう。でも、もう十分!本当に……」


私が引っ込めようとした足をグイッと引っ張って、親指にチュッとキスを落とした。


「えっ、ちょっと!」


親指、足の甲、そして足首にチュッチュと口付けると、タオルを床に放り投げ、ダダッと上までよじ登って来る。


上から私を見下ろして額にキスすると、ギュッと抱き締めてきた。



「小夏、ありがとう。俺、感動した。めちゃくちゃ気持ち良くて、死ぬかと思った。こんな気持ち……生まれて初めてだ」


「私も……なんか無我夢中で良く分からなかったけど、感動したよ」


「やっぱ痛かった?」

「痛かった!想像の10倍痛かった!……けど、嬉しい気持ちはその100倍!」


そう答えたら、たっくんが目を三日月のように細めて、抱き締める腕に力を込めた。



「シャワーを浴びられそう?」と聞かれて起き上がろうとしたけれど、全身の疲労と下半身の痛みで、すぐには歩けそうにない。


「ほら、やっぱりな。俺が背中を拭いてやるから、今度はうつ伏せになれよ」

「えっ、いいってば!」


そう言っている間にたっくんはタオルを持って浴室に向かい、お湯でジャバジャバ洗って絞ってくる。


私をうつ伏せにして、うなじから下に向かって丁寧に拭き終えると、首に掛かった髪を手で横に払いのけて、うなじにキスを落とした。


そこからゾクッとした快感が走って、思わずピクリと肩が跳ねる。


たっくんは私の反応を見て、もう一度、同じ場所に唇を寄せると、今度は短い音を立てて、そこに吸い付いてきた。チュッという音に続いて鋭い痛みを感じ、コレが噂に聞くキスマークの付け方なんだな……なんて事を考えた。



「俺、ヤバイな。どんどん変態チックになってくわ。マジでヤバイ」

「ふふっ……変態チック……」


「小夏、俺、ヤバい……幸せすぎて語彙力が馬鹿になった。昨日からヤバイしか言ってない!」


「ふふっ……それは……ヤバいね」

「うん、ヤバいな。ハハッ」


隣にゴロンと寝転がったたっくんと見つめ合う。



「小夏……シアワセ?」

「うん、シアワセ。初めてがたっくんで良かった」


「バカヤロー、最初も最後も、お前にこんなことしていいのは俺だけなんだよっ!」


「ふふっ、そうなんだ」

「そうなんだよっ!」


ガバッと抱き締められ、見つめ合い……そしてゆっくりと唇を重ね合った。



うん、たっくん、私は本当にシアワセだよ。


私は……私たちは今、世界一シアワセだ。


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