表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
最終章 2人の未来編
153/237

3、お前、ちゃんと受け止められる?


深く長く甘い口づけは、初心者の私には濃厚すぎて、瞼をギュッと閉じてひたすら受け止めるのが精一杯だった。


(ようや)く離れたその(すき)に『プハッ』と急いで息継ぎしたら、それを見たたっくんが目を三日月みたいに細めて、凄く満足げな表情(かお)をした。


最後にもう一度チュッと短いキスをしてから、コツンとおでこを合わせて、至近距離から私の瞳を覗き込む。



「小夏……好き。大好き。本当に、叫び出したくなるくらい好き」


「うん。私もたっくんが……んっ!」


言い終わる前にまた唇を塞がれ、最後まで言葉を伝えることが出来ない。


嬉しいのと恥ずかしいのと気持ち良さでぽわんとしていたら、急にたっくんが「よしっ!」と立ち上がって、私の手首を掴んで来た。



ーーえっ?


グイッと引っ張り上げられ、たっくんの胸に倒れ込んだ途端、耳に飛び込んできたのは、


「小夏……買い物に行くぞ」の一言。


「え……ええっ?!」


ピンク色だった空気が一瞬にして消え失せ、現実に引き戻される。



ーーどうして?やっぱりたっくんはまだ……。



私がサッと表情を曇らせると、たっくんは視線を斜め上に向けて後頭部をポリポリ掻きながら、とても言いにくそうに口を開いた。



「アレが……ゴムが無いんだよ」

「えっ?ゴム?それなら……」


自分の三つ編みに手を伸ばして、髪を結んでいるヘアゴムを外そうとしたら、「違うっ!天然かよっ!」とバシッと手をはらわれた。



「わっ!えっ、何?」


「違う、小夏、そうじゃない。 ……アレだ、避妊具」


ーーえっ?…………あっ!



「いつもヤるのは女の部屋かホテルだったし、ここに女を入れた事が無かったから……流石にいきなり小夏を妊娠させたら、早苗さんに殺されるだろ。俺は構わないけど」


ーーにっ……妊娠って!それに今サラッと、構わないって言った?!



「あっ……ああ、アレね!……うん、そうだよね。必要だもんねっ!うん、行こう!買いに」


しどろもどろになって目を泳がせていたら、それを見たたっくんが表情を緩めて、フッと鼻で笑う。



「ふっ……フハッ……何も知らないくせに、めっちゃ強がってる」

「あぁっ、笑った!私が何も知らないと思って馬鹿にした!」



「違うよ……」


後頭部に右手が回ってきて、たっくんの胸にグイッと顔を押し付けられた。

頭の上にズシッと重いものが乗っかってきたから、多分たっくんが顎を乗せてきたんだろう。



「ごめん……調子に乗りすぎた。馬鹿になんてしてないよ。小夏が小夏っぽくて嬉しかったんだ……怒った?」


少し心細そうな、探るような声音(こわね)



「ううん、大丈夫。……私の方こそ、見栄を張っちゃった。ごめん」

「……ホント?」


少し首を傾げて顔を覗き込んできた仕草にキュンと来て、一瞬で許したら……


「ハハッ、そうだよな。買ったことも見たことも無いんだもんな」

「!!!」



「ああ〜っ!やっぱり馬鹿にしてるじゃん!」

「ハハハッ、怒んなよ。後で実物を見せてやるからさ」


「じっ?!……結構です!最低!」

「ハハッ」


顔を真っ赤にして抗議をしたら、更に大声を出して笑われた。

(しゃく)だけど、やっぱりたっくんの笑顔は素敵だと思ってしまった。悔しい。





すぐに近所の商店街まで行くことになり、たっくんがベージュのプルオーバーパーカーと黒のスキニージーンズというラフな格好に着替えるのを待って、2人で玄関へと向かう。


靴を履こうとしたら、いきなり後ろから肩越しに両腕が巻き付いてきて、グイッと後方へ引っ張られた。


「うわっ!」


バランスを崩した後頭部がトンッとたっくんの胸に当たって、何事かと上を向いたら、髪の上から頭に、そして次は右耳に、チュッ、チュッと続けてキスが降って来た。

前で交差されたたっくんの腕に、ギュッと力が(こも)る。



「えっ、どうしたの?」

「ヤバい……俺、好きが止まらないんだけど」

「えっ?!」


「小夏が大好きだ……。マジで身悶(みもだ)えしたくなるくらい好き。好きすぎて俺、バカになる」



ーーええっ?!


カーーーーッ!と首筋が熱くなる。



「いっ、いいんじゃないかな?たっくんは元々頭がいいから、ちょっとくらいおバカになっても」


「……いいの?本当に?俺がバカになって理性が吹っ飛んだら、何するか分かんないよ?お前、ちゃんと受け止められる?」


耳元で囁くように言われ、腰が砕けそうになる。



ーーうわっ、うわっ、うわ〜っ!


たっくんって、こんなだったっけ?

前からストレートに感情表現をしてくる方だったけれど、今は、何というか……。



甘すぎる……。



「たっくん、ごめん……こういうの、恋愛初心者には刺激が強すぎて、いっぱいイッパイ。……どうしたらいいか分からなくなる」


「そんなん、俺もだよ」

「えっ?」


「俺だって、お前が初恋で、その気持ちを拗らせて発酵(はっこう)させたまま今日に至るんだ。言うなれば、初恋のやり直しをしてるようなもんだろ?そんなの俺だって余裕ないよ」



「……余裕がないの? たっくんが?」


「なんだよ、見てて分かるだろ? もうお前への気持ちを素直にぶつけていいんだって思ったら、6年分の想いが一気に(あふ)れ出して来て、わ〜っ!ってなってんだよ。とっくにキャパオーバーだっちゅうの」


「そっか……」



ーーそうなんだ……。


再会してから私がグルグル悩んでいたように、たっくんだって自分の過去に怯え、私をその影から遠ざけようと、必死になっていたんだ。



だけど今日、彼は、私のために過去と向き合う事を選んでくれた。

だったら私も、たっくんの過去ごと彼を包み込み、共に前に進む道を選ぼう。


たっくんが2度と暗闇に足を(すく)われることのないよう、彼を照らす太陽になれるよう……強い私になりたい……と思う。



「うん、分かった。2人で初恋のやり直し、しよっ」


胸元でたっくんの腕をギュッと握ったら、肩を掴んでクルッと身体を回転させられて、振り向きざまにキスされた。



「ちょ……ちょっと、スキンシップ過多!」


「だから言ったろ?俺の愛をしっかり受け止めろよ」


口元をニヤニヤさせながらそう言い放ち、1人でとっととスニーカーを履き始める16歳のたっくんの背中を、嬉しさとドキドキ70%、戸惑い30%の気持ちで見下ろしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ