表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章、 過去編 / side 拓巳
150/237

55、二度と離れない


小夏、 あのあと俺は、 何度も何度も、 あの寒い冬の別れの日のことを思い出しては後悔してたよ。


あの時俺は、 階段の下でじっとお前を待ってるべきじゃなかったんだ。


全力で階段を駆け上がって、 病室のドアを勢いよく開けて、 お前を抱きしめるべきだった。



『今日でお別れだ』

『俺は知らない街に行く』


『だけど…… ずっと好きだから、 いつか必ず会いに行くから……俺を待っていて』


……そう伝えるべきだったんだ。



今更そんなことを言っても遅いけどな。


だから俺は、 もしも再びお前に出会えた時には、 今度こそ絶対に逃がさないって決めてたんだ。


絶対に、2度と小夏から離れないって……。



***



ーー見つけた!俺の希望!


掲示板の前で小夏を見付けて、その瞬間、俺の目に映るのはお下げ髪の彼女だけになった。


全身が興奮と感動でカッと高揚して、だけど驚きと緊張で手足をガタガタ震わせながら……それでも俺の足は、考えるより先に、自然とお前の元へと動き出していた。



「夢みたいだ……」


なのにお前は一歩後ずさって誰かの後ろに隠れようとするし、抱き締めたら固まるし……。


俺は再会の感動で胸を震わせているのに、お前は呼び止める声も無視して走り去って行った。



極め付けが、入学式後の猛ダッシュ。


式が終わったら即行で拉致(らち)ってやろうと身構えていたら、その前に小夏が逃げ出した。



ーー絶対に逃がすかよっ!


相変わらず鈍臭かったからすぐに追い付いたけど、俺にマジでビビってるのを見て、正直傷付いた。


俺は一目で小夏が分かったのに……って。


だけど俺の手のひらの火傷の痕を見て、

「…………たっくん」

そう名前を呼ばれた途端……



俺の6年間の苦しみも絶望も、流した涙も……

全部その瞬間にチャラになったって思ったんだ。


大好きなあの子に会えた。もうそれだけでいい。


ーー生きてて良かった。


心からそう思った。




だけどさ、自分がしてきた事は、自分の身に降りかかってくるんだな。



小夏が真っ白で純潔であればある程、自分のドス黒さが身体の奥から浮き上がってきて、(ぬぐ)っても拭っても取れなくて……恐ろしくなった。


俺は、幼いあの頃から変わらず真っ直ぐで(けが)れのないままのお前に、俺の汚い部分を知られたくないと思った。


お前が好きなのは、会いたかったのは、あの頃のひまわりみたいな俺だから……。

今の俺を知って、幻滅されるのが……嫌われるのが怖くって……。


誤魔化す事に必死になった。



お前の前で紗良や他の女たちに電話をして手を切って、これでお前にも俺の気持ちが伝わったはずだって安心して……


俺はお前と両想いになれて、有頂天になったあまり、油断してたんだと思う。



とにかくお前に喜んでもらいたい一心で、朝美にバレるのを覚悟で学校にもバイト先にもコンタクトレンズを外して通うようになった。


バイトにも精を出した。

お前と早く一緒になりたくて、ちょっとでもお金を貯めたかったんだ。


そうすれば小夏が喜んでくれるって思って……2人のためだって信じてた。



俺にはまだ分かってなかったんだ。


そんな事をしたって、俺がやってきた事実は変わらないのに……小夏が望んでたのはそんな事じゃ無かったのに……。



お前に対する嫌がらせを止めるために紗良と2人きりで会ったり頬にキスした事。


お前に隠れてバーでバイトして、女性客の機嫌を取ったり、頬にキスしてチップを余分に貰う行為。


朝美との関係を誤魔化して、隠し通そうとした事。



全部お前にバレなければノーカンだなんて、俺の勝手な思い込みと願望だった。


そうやって隠れてコソコソ動き回るたびに、小夏を不安にさせてたって事に気付かないような大馬鹿ヤロウだから……


俺のそんな行動が女たちを振り回して反感を買い、その怒りが全部小夏に向かって行ったんだよな。



全部俺が悪い。


今なら分かるよ。

俺がやってきた事は、最低で汚い、大馬鹿ヤロウの所業だ。



今更どんなに後悔したって、俺が犯してきたことは消えやしないんだ。


こんな俺が……小夏に触れちゃいけなかったんだ。



『お願いだ……頼むから、お前だけはこっち側に来ないでくれ……』


なのにお前は、まだ俺を諦めないでいてくれるって言うのか?



『たっくん…… 私にたっくんの…… 空白の6年間を全部下さい』


小夏、分かったよ。

怖いけれど、俺は腹を括って、俺の全部をお前に(さら)け出すよ。



きっとお前は驚くだろう。

俺が経験してきたこと、目にしてきたこと、俺がやってきた汚いこと……。


全てを聞いたらショックを受けて、嘆き悲しみ、そして軽蔑するだろう。


だけど……



お願いだから ……どうか俺を嫌いにならないで……。


俺はもう二度と、お前を失いたくないんだ……。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


今回のお話で第3章が終了し、次話から最終章に突入します。まだ実はもうひと山あるのですが、ここからしばらくの間は甘々の2人を堪能していただければと思います。


皆様の優しさでこの作品は出来ています。

感想やレビュー、ブックマークや評価ポイントを下さった皆様のお陰でここまで続けて来れました。

心から感謝しています。最後までどうかよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ