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たっくんは疑問形  作者: 田沢みん(沙和子)
第3章、 過去編 / side 拓巳
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49、飼い犬の反逆


その夜から、朝美は父親の目を盗んでは、俺の部屋に通ってくるようになった。



『私の前でだけはコンタクトなんかしなくていいの。私の前では作り笑いもお世辞も必要ない。無愛想で暗い()をしたあなたのままでいいのよ。世界中で私だけが、本当のあなたを受け入れてあげられるの』



『思春期の男の子がセックスに夢中になるのは当然のことだわ。お互いに気持ち良くなって何が悪いの?拓巳は何も考えず、好きなだけ私の体を抱けばいいのよ』



『ここに()さえすれば、あなたはお金も食べ物も住む場所にも困らない。私はあなたに何でも与えてあげられる。だから拓巳、私を愛して』



アイツを抱くたびに呪文のように唱えられて、俺も感覚が麻痺してたんだろう。

十蔵さんに後ろめたい気持ちを抱えながらも、朝美を抱くことにたいして抵抗を感じなくなっていった。


いや、深く考える事を放棄していたんだろう。


俺はあの家の飼い犬で、どうしたって逃げ出すことは出来ないんだ。

流れに逆らったって押し戻されるだけ。だったら無駄な足掻きをするより、ただただ流されて、堕ちるところまで堕ちてしまえばいい……。



そう思いながらも、無意識に朝美を避けようとしていたのかも知れない。


年が明けると俺は1人で街をブラつくようになり、そこで派手な連中と(つる)むようになって、酒も女遊びも覚えた。


夜はなるべく家にいたくなくて、冬休みが終わってからも、週末の夜には街に繰り出していた。

年上の女友達の家に転がり込んだり、誘われればホテルにも行くようになった。



紗良と遊び始めたのもその頃だ。


紗良は同じ中学の3年生で、美人で勉強も出来て2年生にもファンが多くいたから、興味の無かった俺でも顔と名前だけは認識していた。



ある日、遊び仲間の兄貴がバーテンダーをしている店に行ったら紗良がいて、お互い共通の知人がいたと分かり、つるむようになった。


会ったその日にホテルに誘われてヤった。


『お嬢様だと思ってたら、陰ではとんだ遊び人だったんだな』


俺が口角を上げながらそう言うと、母親が市会議員の愛人で、そのクソ親父がマンションに来るたびに母親と寝室に篭ってヤり始めるから、家にいたくないんだと聞かされた。

なんだか自分と似ていると思った。



紗良は何かと俺を呼び出すようになって、俺もアイツの呼び出しにはなるべく応えるようにしていた。


心をあげることは出来ないけれど、こんな俺の薄汚れた身体でも、アイツの寂しさを紛らわせてやれるんだ、役に立ってるんだって思うと、それだけでも生きている理由が出来たような気がしたんだ。



一方朝美は、家にあまり帰らなくなった俺に焦ったのか、たまに学校の前で待ち伏せているようになった。


俺が紗良やその仲間と連れ立って学校から出ると、朝美が門にもたれて立っていて、俺を見るなりいきなり抱きついて来たりキスしたりする。

たぶん紗良や他の女への牽制だったんだろう。


ウザいと思っても、大事なスポンサー様だから邪険にはしない。

ちゃんとキスに応じて一緒に家に帰る。セックスの相手もして機嫌をとったら、貰ったお小遣いでまた街に繰り出す。その繰り返し。



一度紗良が、待ち伏せている朝美の前で俺にキスして来た事があった。

朝美への意趣返しだったんだろうけど、それにキレた朝美が紗良に平手打ちを喰らわせて、掴み合いのキャットファイトが始まった。


俺はそれを見てたらなんだか可笑しくなって、2人の修羅場を目の前に、腹を抱えて笑っていた。




そんな自堕落な生活を送りながらも、俺は勉強だけはしっかり続けていた。


『和倉の家を出る』


そのためには、可能な限りの知識を身につけて、仕事の選択肢を少しでも広げなければと思っていたから。



そう。俺は、もうどうしようもないと諦めていた反面、あの泥沼から這い上がる手段を、必死で模索してたんだ。


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