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プロローグ
あの寒い冬の日に、 たっくんは私の前から姿を消した。
私はたっくんを心から憎んで、 心から恨んで呪った。
呪って呪って呪いまくっていたら、 とうとう呪いは自分に跳ね返って、 心の中がたっくんだらけになった。
あの日から私はずっと、 たっくんの呪いにかかったままだ。
なのに……
高校一年生の春、 知らない人が、 知らない顔、 知らない声で、 私を呼んだ。
「お前、 小夏だろ? 」
「えっ?…… 」
「お前、 俺のこと覚えてね〜の? 」
見知らぬその人は、 慣れた手つきで私の片方のおさげ髪を手に取ると、 感触を確かめるように、 手のひらの中で何度も親指を滑らせた。
伏せた長い睫毛が翳を落とし、 彼の真っ黒な瞳を更に暗く見せている。
指先を見つめていたその視線が動き、 睫毛がバサリと上がったとき、 私の目の前には、 吸い込まれそうなほど真っ暗で深い、 漆黒の闇があった。
こんな人、 私は知らない……。
だけど、 かつておさげ髪をこうして愛おしそうに撫でた手を、 その手の持ち主を、 私は知っている……。
「あなたは一体…… 誰ですか? 」