花より団子
この前寄ったカフェに、「桜ぜんざい」というデザートがあって、なるほど冬に桜を先取りしておくのも風流じゃないか。と思ってそれを注文した。たぶん、通年置いてあるメニューだから、秋に桜ぜんざいを食べることもできる。
夏だろうが秋だろうが冬ただなかであろうと、桜の甘味を楽しめるのは、あの塩漬けにされた桜のおかげだろう。淡い桜色だったはなびらが、塩でぎゅっと縮んで、生きていたころより濃く、それでいてくすんだ……桜色? いや、桃色? を呈していて、まるで桜のミイラだよなと思うなど。
散ってもなお生きながらえている桜への悲喜交交は置いておいて……わたしはてっきり、桜ぜんざいというのは、ぜんざいの中に浮かぶ桜のはなびらの、控えめな姿を楽しむものだと思っていたのだ。
まさか、マットなテクスチャの餡のなかに、つややかな桜色の、お餅……あの「道明寺」が浮かんでいるなどとは夢にも思わなかった。お米の形をかすかに保った、ほのかな桜色の球体の上に、あの塩漬けもしっかり乗っていたけれど、桜餅の印象の前には、鮮やかに凍結されたピンクの印象も霞んでしまう。
え、これ、もしかしてあんこ、イン餅、インあんことか、そういうやつなの。少し動揺して、匙で桜餅を削り取ってみたところ、さすがにあんこがもう一度中から覗くようなことはなかったよ。餡は桜餅が漬かっている汁の部分が最初で最後。
ただ、そうなると、小さめな……赤ん坊の拳一個分くらいの大きさの桜餅、これはもう中までぎっしりお米なわけでして。思ったよりもずっと、食いでのある甘味なのだった。
あつあつのぜんざいの中に、ひんやりとした桜餅がよく映えて、桜ぜんざいは大変おいしゅうございました。餅の外にあずき、というのは少々不思議ではあったけれど、ひんやり丸いものにあつあつとろとろの汁というのは、そう、ちょうどアフォガードみたいですぐに受け入れられた。
口直しの豆菓子も美味しかった。甘味についてくる口直しって、ほんとは塩昆布なんかだと、私的ベストカップルであるところ、そもそも桜の塩漬けで少し甘じょっぱいぜんざいだから、大して甘くもしょっぱくもない優しい大豆の味が、よく合っていて。熱くて冷たい桜餅、豆菓子、ほうじ茶というループがおなかにしみて、ぎゅっと濃縮されたお米の塊は、あっという間に胃におさまってしまった。
もう、お餅とあんことほうじ茶でおなかがたぽたぽで、でももう少し小豆がお椀に残っていたので、最後はすいっと飲み干して……最後に桜のはなびらが、その奥からあのピンク色をあらわした。
なんのことはない、途中で汁の中に沈んで、わたしは気づいていなかっただけ。ああ、まさに花より団子を地でいく展開……付け焼き刃の風流なんてこんなものだよね。
桜を口に含むと、色に負けず劣らず強烈な塩味といっしょに、ほのかな桜のにおいが鼻を通って、わたしはその余韻をもって、お茶を濁すことにしたのでした。