ことのはソーダ
このところ身体の調子がよく、それに反して心の調子は最悪だった。こういうときは大抵、心を落ち着かせようとぼんやりしているうちに夜更かしをしてしまって、寝不足に陥り身体が精神に引っ張られるという具合になる。
そういうわけで、通勤電車の中で、何をするわけでもなく目を瞑っている羽目になった。とはいえ、乗り換えの関係上、たかだか十数分目を閉じていられればいい方なので、運よく座れても意識を手放すこともできないのだった。
それでも起きていると胸を張って言える状態でもなく、わたしの意識は浮かんだり沈んだりするわけなのだけども、そういうときはなぜか取り留めのない言葉が浮かんできて、果ては"てにをは"すらままならない状態のまま、脳内で変にくっついたり離れたり、しまいには炭酸の泡のように弾けてどこかへ消えていく。
なんとかその正体を捕まえようとして、座席に沈み込んでいる身体を多少、まっすぐに持ち上げてみようとするものの、こういうときばかり、わたしの身体は世界との接地面にどっしり根を下ろし、空想のあぶくなんぞ知りませんといった雰囲気でもって、脳みその勝手を封じてしまう。
わたしの身体なんだからわたしの言うことを聞けよなぁと、身体と一緒に沈んでいく脳みその中で恨み言をかますこともあるけれど。この言葉の白昼夢と現実の境界線が、たがいにもう少し歩み寄ってしまうと、電車の中で曖昧模糊な寝言をムニャムニャころがす変な人になってしまうので、まあ、そうならないのならそうならないで助かっている。といったところ。
そして乗り換え駅でようやく目を開けると、言葉のかけらはすっかり跡形もなく消えてしまって、さっき沈み込んで踏ん張っていた身体が、気怠い重力に負けているばかり。