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十六匹目 オオカミくんと決着と和解

 そして、十分後。

「いいですか! あなたたちがやっていたことは動物虐待ですよ!」

 路上に正座させられた不良四人を、愛唯がプンスカと怒り顔で説教していた。

「ネコさんを傷つけたら罰金か牢屋行きです! なんなら今から通報してもいいのです!」

「はい、すいやせん、姐御」

「もうこんなことはしないと誓います」

「だから通報だけは勘弁してください」

「ギャハ……」

 不良たちはすっかり参った様子だな。あれならしばらく悪さもできないだろう。ていうか愛唯、『姐御』とか呼ばれてなかったか?

「動物虐待の罪ってどんなもんだっけ?」

「確か、二年以下の懲役または二百万円以下の罰金だったはずだ」

「わたしとしては終身刑でいいと思います! フン!」

「いや、児童虐待とかでもそこまではならなかったような……」

 鼻息を荒げ、腕を組んで仁王立ちする愛唯はわかりやすく怒っていた。激おこだった。ネコの足の怪我は不良たちのせいではなかったようだが(弱ったネコを見つけてあれなら弾が当たるんじゃねと思ったらしい)、もしそうだったのなら愛唯は問答無用で警察に突き出していただろうね。

 ただ俺は、ちょっと感心していた。

「愛唯でもあんなに怒るもんなんだな」

「ああ、小学生の時に教室で飼っていたハムスターを男子たちがふざけて水の張ったバケツで泳がせていたことがあったのだが、その時も物凄い剣幕で叱り倒していた。しばらく男子たちは愛唯を見ただけで涙目になっていたぞ」

 愛唯は不良たちがいくら謝っても雷を落とし続けているからな。小学生だったらそりゃあちょっとしたトラウマになっても不思議はない。

「狩神狼太、本当にすまなかった」

 と、來野がいきなり俺に向かって深々と頭を下げてきた。

「なんだよ、藪から棒に」

「私はあの時、自分がシロサイ化していることの方が気になって愛唯を止められなかった。本当に親友だと思っているなら構わず追いかけるべきだったのだ」

「いや、アレは当たり前の反応だろ」

 俺だってそのまま飛び出すつもりなんて毛頭なかった。俺たちの場合、普通は正体を知られないことの方が大事だ。

「私には川に飛び込んで変化を解くなんて発想すらなかった。貴様が即座にああしなければ愛唯は無事では済まなかったかもしれない。礼を言わせてくれ。ありがとう」

「やめろ。こそばゆくなるだろうが」

「そうはいかない。せめて手当てくらいはさせてくれ」

「いいよこのくらい。掠り傷だ」

 來野の濡れたプラチナブランドが異様に艶めかしく見えて俺はつい目を逸らしてしまった。すると、そっちにはようやく説教を終えたらしい愛唯が慈しむような微笑みを浮かべて俺を見上げていた。

「オオカミさん、また助けてもらいましたね。わたしからも、ありがとうございます!」

 なんか愛唯まで頭を下げてきたぞ。愛唯の抱えているネコもみゃーと礼を言うように鳴いてやがる。

「やめろお前ら! 礼なんていいから!」

 俺は結局自分のために動いただけなんだよ。だから礼を言われる筋合いはないし、そんな二人から頭を下げられたりなんかしたらホント全身が痒くなるからマジヤメテ!

「カラスさんたちもありがとうございますー!」

 夕空の向こうに飛んでいくカラスたちに片手を振る愛唯。すると、抱えていたネコが苦しそうな鳴き声を発したぞ。

「! ちょっと、ごめんなさい」

 愛唯はネコの抱え方を変えて前足を診る。そこにはガラスの破片でも踏んでしまったような傷ができていた。

「今からネコさんを動物病院に連れて行こうと思うのですが、オオカミさんとセラスちゃんはどうしますか?」

「うむ。私は付き合うぞ、愛唯」

 來野は即答。俺も答えは決まっている。

「オオカミさんは?」

「帰る。疲れた」

「オオカミさんも怪我、してますよ?」

「だから掠り傷だって。帰って適当に手当てすりゃ治る」

 ぶっきら棒にそう告げると、愛唯はじっと俺を見詰めてきた。青い瞳がどことなく心配そうに揺れている。夕陽の色のせいか儚い雰囲気を纏う愛唯の顔を、俺は三秒と見詰め返すこともできずにそっぽを向いてしまった。

「……そう、ですか。わかりました。ではまた明日です。オオカミさん」

 少し残念そうにする愛唯には悪いが、動物病院なんて入った日にはなんかの検査機が誤作動でもして俺がオオカミだとバレたりするかもしれんだろ。いや考えすぎだろうけどね。とにかく病院とか研究所とかにはあまり近寄りたくないんだよ。

 それに強がっちゃいるが、実は体中が死ぬほど痛い。いろんなとこがけっこう腫れてるっぽいから早く帰って手当したいんだよ。え? 病院? いや、だから行きたくないっていうか医療関係者なら狩神一族にもいるからな。

「狩神狼太」

 さっさと帰ろうと踵を返した俺の背中に來野が呼びかけてきた。

「私は貴様という人間を、いや、オオカミを? とにかく周囲の評判だけを鵜呑みにして誤解していたようだ」

 また謝罪をされるのかと思ったが、來野はどこか恥ずかしそうな苦微笑を浮かべて――


「決闘は私の負けだ。もう貴様に危害を加えようなどとは思わない。約束する」


 それだけ告げると、動物病院へ向かう愛唯に付き従うように去って行った。そういえば俺、來野と決闘なんてやってたんだった。

 結果的には勝ったからいいんだが、互いの重大な秘密を知って知られてしまったわけだ。

 ここ数日で二人目だぞ。もっとしっかりしろよ俺。やっぱり人付き合いなんかするもんじゃないな。

 でも――

「愛唯も來野も、悪い奴ではないんだよな」

 バレたのがあの二人でよかったとポジティブに考えるようにして、俺は痛む脇腹を摩りながら帰路につくのだった。


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