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風の見る夢

作者: 長谷川真美

荒野の風が止む夜

その度に彼女のことを思う

今となっては懐かしいばかりの彼女を


 嵐が吹き荒れる荒野では珍しい静かな夜にはいつも同じ夢を見る。 「トキオ、シルフィードよ。」 シルフィードという長い銀髪に赤いリボンを着けた少女から何度も 呼ばれる。答えようとしても声が出ない。 答えずににいるとその呼び声は大きく、 そして最後は叫び声になる。「トキオ、早く!」「トキオ、 待ってるわ!」悲壮感さえ漂う声がして目を覚ます。 それの繰り返しだった。 こちらからシルフィードに話しかけられない。 彼女との接点も思い浮かばない。 ただ回数を重ねるごとにシルフィードの焦りは強くなっていった。 シルフィードの世界と僕の夢の周波数が荒野で風がやんだときは一 致するため交信できるという法則を見つけた。 凪いでいた風が再び強くなる。 今夜はシルフィードの叫びは聞こえない。 風の音が荒野を支配する。


 何度の夜を越えたのだろうか。荒野に一週間も風が吹く事が無かった夜にシルフィードが現れた。「トキオ、やっと会えたね。 すぐに行きましょう。」シルフィードが僕の手を強く握り、 強い力で体を引っ張る。シルフィードの体温を感じる。 夢か現実か分からない。「シルフィード。君は何者なの?」 シルフィードに話しかける。 シルフィードの体温と声が霞んでいく。目が覚める。 いつもの藁のベッドではなく石の冷たく硬い感触が体を支配する。 荒野の風の音は聞こえない。 女性達の甲高い祝詞の声がこだまする。シルフィードはいない。 ベールを着けた背の低い老女が僕の存在に気づき話しかける。「 お前様は『風』だね。」答えに窮する。「僕はトキオです。 シルフィードはどこですか?」疑問を口にする。 僕とこの場所への接点はシルフィードしかない。「『風』 のトキオとやら、シルフィードは『夢』の事だが何か?」 謎は更に深まる。 シルフィードに夢の中で引っ張られ荒野からこの場所に来た。 ここはどこか。『風』とは『夢』とは何か。 疑問ばかり積み上がっていく。


 言葉が見つからず黙っていると老女は侍女を呼んだ。 侍女は儀礼服を持ってきた。 銀色の生地に花をモチーフにした模様が赤の刺繍で彩られている。 シルフィードの色だった。侍女によってその儀礼服を着せられた。 「『夢』によって呼ばれた『風』よ。我らに豊穣を与えよ。」 老女が声を発すると女令達が歌い始めた。 赤の袴姿の神官が榊を掲げ鈴の音と共に踊りだす。 歌は一語一語をゆっくりと長く伸ばして神々しい響きを生み出して いた。言葉は分からなかった。ただ聴き入っていた。歌が続く中、 老女が盃を僕に手渡す。老女は威厳を漂わせていた。 盃の中の物を呑めと指図する。流れに逆らえずに盃を傾けた。 口の中で芳醇な麦の味が広がった。一瞬で酩酊感に溺れる。 単調なリズムの歌と鈴の音が酔を強くする。酔の中、 シルフィードに近づいた気がした。 シルフィードが銀の髪から赤いリボンを外し僕に手渡した。「 これはお守りよ」シルフィードはゆっくりと優美に微笑む。 シルフィードは僕に口づけをする。 柔らかく暖かい感触がどこか懐かしく思わず涙が出てくる。


 「喝」老女が叫ぶ。僕は現実が分からなかった。 ただシルフィードから渡された赤いリボンが手元にあった。 侍女がナイフを松明で熱する。そのナイフを老女が僕に向ける。「 汝よ。血を持って我らに幸を与えよ。」 ナイフにシルフィードのリボンが絡まる。 リボンは炎によって焼かれ銀色の灰になった。 灰が僕の眼に入り周りが見えなくなった。 鈍い痛みと共に意識が飛んでいった。


 風の音が聞こえる。麦の香りが鼻をくすぐる。 懐かしい部屋に僕はいた。 手はシルフィードの髪の色の銀色に染められていた。 幾千もの日を荒野で過ごしてきたがシルフィードが現れる事はもう 無かった。ただ銀色に染められた手は元の色に戻らなかった。 それだけがシルフィードと僕の邂逅の証だった。FIN.

冬に書き始め夏に書き終えた難産の初めてのファンタジー小説が完成しました。

最初は連載物の予定でしたが完結させました。


今までプレイしたゲームの影響を強く感じます。

最初執筆した時のBGMがゲームミュージックだったのが関係するのでしょうか。


BGM:クロノ・トリガー、クロノ・クロス サントラ

2017/7/29

長谷川真美


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