表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/222

第三十四話 戦力が増えたと喜んだのが間違いだった

 王の執務室の樫のデスクは上に寝そべることができるくらいに大きく、そして革の盾(レザーシールド)よりも防御力の高そうな重厚なものである。


 その上に円卓の騎士の皆に書いてもらった所持スキル一覧の紙を並べて、ああでもない、こうでもないと(うな)っていると、女中(メイド)服姿のアザレアさんが紅茶のセットを持って入ってきた。


「あのー、ミレウスくん……じゃなかった。ミレウス様。お客様がいらしてますけど」


「え。予定になかったと思うけど。まぁいいや、通して」


 アザレアさんは頷くと、紅茶のセットをデスクに置いて部屋を出る。

 中等学校(ジュニアハイ)の頃からそうだったが相変わらず要領がいいらしく、他の女中(メイド)さんがいないときはこんな具合の手抜きご奉仕である。


 それはそれで、俺の気も楽なので助かっているのだが。


 しかしお客さんとは誰だろう。

 円卓の騎士の誰かだろうか。


 いや、彼らには先ほど伝令(メッセンジャー)を走らせて円卓の間に集まるよう指示したから、ここに来るとは思えない。

 とすると、貴族か官僚か。


 スキル一覧を引き出しにしまい、お客さんを待つ。


 すると。


 執務室の扉が開き、そのドアノブの少し上くらいまでしか身長のない男の子が、陽気なステップを踏んで部屋に入ってきた。


 やや尖った耳に、小さな潰れた丸い鼻。

 青い双眸(そうぼう)はキラキラ輝き、まるで宝石のよう。


 愛らしい顔の亜人種、コロポークルの少年だ。

 いや、この悪名高い種族は成長してもこれくらいの体格らしいから、年齢を断定することはできない。


 腕がすっぽり隠れるくらいの大きめな魔術師のローブを身に(まと)い、自分の背丈くらいの杖を持ったその人物は、ニコニコ笑顔で両手を広げ、こちらに頭を下げてくる。


「どうも~! ミレウス陛下! 円卓騎士団第三席! アナタのブータが、ただいま帰還いたしましたよ~!」


 声変わりが訪れる前の中性的な声でそう挨拶すると、くるくると俺のデスクの前で回転をし、片膝を突いて臣下の礼をしてきた。


 あまりに背が低いので、デスクの陰に隠れて、その姿が見えなくなったわけだが。


 席から立ち上がり、彼が座っているのを確認する。


「ああ、キミがブータか。名前は聞いてるよ。任務で王都の外に出てたんだろ?」


「そうなんですぅ! いや~、お待たせしました! お目にかかるまで、ご即位から長らく経ってしまいました。この不忠者をお許しください!」


「いや、別に全然気にしてないよ。無事に帰ってきてくれて、何よりだ」


「恐悦至極にございますぅ!」


 慇懃(いんぎん)無礼という感じでもないが。


 その人物の太鼓持ちのような軽いノリに一抹(いちまつ)の不安を覚えながら、その隣まで歩みより、肩に手を置き、告げる。


「さっそくで悪いんだが、王国の危機だ」


「はい??」


 タイミングがいいのか悪いのか。

 円卓の騎士、魔術師ブータは、笑顔のまま首をかしげた。






    ☆






 円卓の間に次々とやってくる騎士たちは、俺の右隣に座るブータの顔を見ると、みんな驚きの表情を作ると共に、喜びの声を上げた。


「お! ブータじゃねえか! やっと帰ってきやがったな!」


 と、彼の髪の毛をわしゃわしゃと掻き回したのは、ナガレであり。


「あ、ぶーくん! 久しぶりだねぇ!」


 と、笑顔でハイタッチしたのは、ヂャギーである。

 まぁバケツヘルムで隠れて見えないので、笑顔というのは想像だが。


 リクサやシエナや、ヤルーやラヴィも、彼の帰還を好意的な態度で迎えていた。


 どうやら皆に愛されているらしい。


 聞いた話によるとブータは見た目どおりの年齢で、現在十二歳とのこと。

 シエナよりも年下で、円卓最年少ということになる。


 全員が自身の席に着いたところで、俺はブータに第一回の円卓会議のことから、そこで提示された最初の表決の内容、魔女から聞いた円卓の騎士の責務、そして地上絵で倒した蜘蛛型決戦級天聖機械(オートマタ)アスカラのことまでを、かいつまんで話した。


 彼はそれを大げさなリアクションを交えながら聞いていたが、最後に俺が責務を負う覚悟があるかと問うと、すぐに笑って両手を挙げた。


「やりますよぉ! 決戦級天聖機械(オートマタ)とか魔神将(アークデーモン)とかは正直想定外でしたけど、元より何でもドンと来いの覚悟です!」


「けっこうやる気あるんだね」


 まぁ円卓に選ばれた以上は他の騎士たちと同様に、責務から逃げない何かしらの背景があるのは分かっていたことだが。


 ブータはその大きめな魔術師ローブの袖で、涙をぬぐうような仕草を見せた。


「円卓の騎士っていう社会的地位を守るためなら、なんだってやりますよぉ! コロポークルっていうだけで、これまで散々差別されてきたんですよぉ!」


 ウィズランド島は魔族にも寛容な世界でも最も差別の少ない地域の一つと言われてはいるが。

 しかし七割が犯罪者で、そのうち三割が賞金首というコロポークルはさすがに警戒されるという。


 俺も事前に彼について聞いていなかったら、どう反応したものか分かったものではない。


「コロポークルは悪いことをすると目が赤く濁るんですよぉ! ボクのこの綺麗な青い瞳を見てくださいよぉ!」


 彼はそう言って俺の方に詰め寄ってくるが、そこへヤルーが横槍を入れてくる。


「でもよ、ブーちゃん。それ、隠そうと思えば隠せるんだろ?」


「そうですけどぉ! 僕の目が青いのは自前なんです! 天然なんです! 信じてください、ミレウス陛下ぁ!!」


「君が善人だとは聞いてる」


 俺の返答を聞くとブータは、ぱぁっと顔を輝かせ、席に座ったまま歓喜の舞のようなものを披露した。


 それを皆でしばし眺めていたが、そのうちラヴィが安心したように、ぽつりと漏らした。


「なーんだ。緊急招集だなんていうから、てっきり次の滅亡級危険種(モンスター)が来たかと思って、逃げるかどうか考えちゃったよ。ブータくん、ご帰還おめでとう会をやろうってわけだね」


「いや、滅亡級危険種(モンスター)の方で正解だよ、ラヴィ。申し訳ないけど」


 懐から卵型のガラス玉を取り出して、みんなに見せる。


 これはこの円卓の作成者にして初代円卓の騎士の一人、魔術師マーリアからもらった『時を告げる卵』という名の魔法の品(マジックアイテム)だ。

 俺達が住むウィズランド島の中で、次に危険が迫る土地を察知し、そこの映像を映す機能を持つ。


 コロポークルの瞳の色の話ではないが、この卵が青い光を放つ間は安全で、黄色い光を放ち始めると近いうちに、赤い光まで出すようになるともう間もなく危険がやってくる、という合図となっている。


 現在は薄い黄色の光を放っていた。


「今朝、これに気付いて、皆に伝令(メッセンジャー)を送ったんだ。ブータの帰還が重なったのは、ホントにたまたまだよ」


 げえ! と酷い声を出し、ラヴィが席を立つ。


 俺は冷静に指を弾いて、告げた。


「ヂャギー、シエナ。取り押さえてくれ」


 円卓の間の出入り口は一つだけだ。

 そこにシエナが立ちふさがり、逃げ場を失ったラヴィをヂャギーが羽交い絞めにする。


「いーやーだー! 働くのは嫌だー!」


 赤毛のポニーテールを振って暴れるが、体格が子供と大人のように違うので、まるで無意味だ。

 しかし、なおも(わめ)く。


「ブータくんが増えたなら、アタシが休んでも問題ないじゃん! この間のアスカラくんは七人で倒せたんだしさ!」


「次の敵がアスカラより強くない保証はないし、そうでなくとも戦力は多ければ多い方がいいに決まってる」


 と、ワイワイやっていると。


 シエナの背後でひとりでに、円卓の間の扉が開いた。

 外から誰かが開けたのかとも思ったが、特に入ってくる者はない。


 ややあってから気づく。

 部屋の中の人の数が、一人減っている。


「ヤルーが逃げ出したんだ! 《光学迷彩(インビジビリティ)》を使って!」


 前にヤツと追いかけっこをしたときにも使われた、光精霊(ウィルオウィスプ)に代行をさせる姿隠しの魔法だ。


 ラヴィが起こした騒動に乗じて、こっそりと光精霊(ウィルオウィスプ)を召喚したのだろう。

 

「追いますか!?」


 リクサが天剣ローレンティアに手を掛け、(たず)ねてくる。

 俺は静かに首を振った。


「手遅れだ。今頃、風精霊(シルフ)で飛んで逃げてることだろう」


 舌打ちをしてヤツの座っていた席を見てみると、雑な書置きが残っていた。

 手にとって黙読する。



『ベッドの下のお宝はいただいた。わりぃな』



 舌打ちをして、それをビリビリに破り捨てる。

 やはり一番マークしておくべきは、あの詐欺師だった。


 苦々しく、みんなに告げる。


「……仕方ない。ヤルーについてはまた指名手配をかけるとして。とりあえず次の滅亡級危険種(モンスター)は、ここにいる七人で倒すつもりで動くしかない」


「あ、あの、さっきのラヴィ姉さんの台詞でも不思議に思ったんですけどー」


 ブータが、あたふたとみんなを見渡して(たず)ねる。


「放浪癖のあるあの御方はいいとして、他のお二人はどちらに?」


「まだ戻りません。どちらも定期報告すら寄越(よこ)しません」


 リクサの返答を聞き、ブータは、ええー! と悲鳴を上げる。


 その二人も戦力としては優秀だと聞いているので、俺も早く戻ってきて欲しいとは思っているが、今回の計算に入れるわけにはいかない。


 ヤルーを逃がしたことで心底悔しそうな顔をしていたシエナが俺の元へやってきて、時を告げる卵を覗き込んでくる。


「あ、あの、(あるじ)さま。それで、今回はどこが映っているんですか?」


「それが俺には分からなくて。みんなに見てもらおうと思ったんだ」


 黄色い光を放つガラス玉の中にどこかの街の景色が薄く映ってはいるのだが、俺には見覚えがない。


 シエナもそこは同様なようで、首をかしげた。


 そこがどこかはっきりしたのは、あとから覗き込んできたナガレが声を上げたときだった。


「……これ、南港湾都市(サイドビーチ)じゃねえか! あんな大都市に滅亡級危険種(モンスター)が現れたら大変なことになんぞ!」


 みんなで顔を見合わせ、絶句する。


 南港湾都市(サイドビーチ)はウィズランド島南部最大の都市であり、大陸との貿易港だ。

 単純な人口でも、島内で五本の指に入ると聞く。


 これまで見てきた滅亡級危険種(モンスター)が現れる場所の目印だという遺跡は、どこもそれなりに郊外にあったが、こんなところにも現れるとは。


 みんなの視線は自然と、ヂャギーに羽交い絞めにされたままのラヴィへと集まった。

 彼女は青い顔をして、口から泡を拭いている。


「あ、アタシの領地だよ、そこ……」


「守らないと、税収なくなるな。頑張らないとな」


 俺の言葉を聞くと、ラヴィは白目を剥いて卒倒した。


-------------------------------------------------

【第二席 リクサ】

忠誠度:★★★★★

親密度:★★★

恋愛度:★★★★


【第三席 ブータ】[new!]

忠誠度:★[up!]

親密度:

恋愛度:


【第六席 ヂャギー】

忠誠度:★★

親密度:★★★★★

恋愛度:★


【第七席 ナガレ】

忠誠度:

親密度:★★★

恋愛度:★★★★


【第九席 ヤルー】

忠誠度:★

親密度:★★★

恋愛度:★★★


【第十二席 ラヴィ】

忠誠度:★★

親密度:★★

恋愛度:★★★★★


【第十三席 シエナ】

忠誠度:★★★

親密度:★★

恋愛度:★★★★

-------------------------------------------------

今回から第二部開始です!


たくさんの評価やブックマーク、ご感想をいただき、とても嬉しいです。

皆さんの応援を励みに、第二部もできる限り、毎日七時更新を続けていきたいと思います。


これからも頑張っていきますので、皆様よろしくお願いいたします!


 作者:ティエル

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ