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第二百八話 隠していたのが間違いだった

 遥か地下、開かれた黄金の扉の前で。


 地面にじかに座り込んだ円卓の騎士の面々は《覗き見(ピーピング)》の姿見に映しだされた地上の戦いを無言のまま見つめていた。

 みな表情は硬く、手を固く握りしめている。


 地上のみんなは死力を尽くして戦っている。

 俺たちが滅びの女神に勝つと信じて。


 プレッシャーがかかる。

 だがそれ以上に力をもらった気がした。


「負けられねーな」


 姿見を見つめたまま、ナガレがぽつりとつぶやく。

 みんなはそれに同意するように頷いた。


 地上の戦いを任せることができたのは、初代円卓の騎士たちが残してくれた後援者(パトロン)というシステムのおかげだ。二百年もの長きに渡ってそのシステムを維持してくれた各組織の者たちのおかげでもある。

 そして一般国民たちがこの作戦に参加してくれているのは歴代の王や貴族たちが積み重ねてきた信頼のおかげであるし、円卓の騎士たちのこれまでの行動のおかげでもある。


 この国が積み重ねた二百年の歴史。

 それが今、地上で円卓を守る力となっている。


 その重みを受け止めた俺は、一つの決意を固めて立ち上がった。


「そろそろ行きますかぁ?」


 立ち上がった俺を見て、ブータが《覗き見(ピーピング)》の姿見を消した。

 続いてみんなが立ち上がろうとする。

 俺はそれを手で制した。


「待ってくれ。最後に大事な話がしたい」


 みんなは浮かしかけた腰を下ろし、揃ってきょとんとした顔で俺を見た。


 もう一度だけ考える。

 だが、やはり決意は変わらない。


「みんな、今までありがとう。みんな多かれ少なかれ手を焼かせてくれたけど、今回の円卓のメンバーがこの十三人でよかったと今では思ってる。何考えてんだかわかんない奴もいたし、俺に色々隠してるやつもいたけど――今はみんな俺に対して誠意を持って接してくれてると信じてる。だから俺もみんなに誠意を持って答えたい」


「……まさか……ミレウスさん?」


 俺がこれから言おうとしてることを察したのか、スゥが青ざめた顔で息を呑んだ。

 彼女は止めるだろう。それも分かっていた。


「物凄くハイリスクで、何のリターンもないだろうってことは分かってる。だけど俺はそうしたい。リターンはなくても、きっと意味はあると思うから。頼むよ、スゥ。許してくれ」


 スゥに向かって頭を下げる。

 彼女は何かを言おうと口をパクパクさせたが、結局何も言わなかった。


 代わりにヤルーがいつにもまして憎らしいニヤつき顔で聞いてくる。


「本気かよ、ミレちゃん」


「……気づいてたのか?」


「けっけっけ。ずっとミレちゃんのこと見てたっつったろ。馬鹿でも気づくさ。……ま、黙ってた理由はよく分かる。ミレちゃんの好きにしな」


 俺は感謝の念を込めて頷いた。


 鼓動がかつてなく高鳴るのを感じる。

 十二人の仲間を見渡し、口を開く。




「三年間――ずっとみんなに隠してきたことがある。王が聖剣の力を使うには条件があるんだ。その条件は“円卓の騎士のみんなが王に好感を持つこと”」




 そして俺は洗いざらい話した。

 聖剣を通してみんなからの好感度を見れること。忠誠度、親密度、恋愛度という好感度の区分。稼いだ好感度に応じて使えるようになる能力。今まで話せなかった理由まで含めて、すべてを。


 みんなはぽかんと口を空けて、黙って最後まで聞いていた。

 当初は冗談だと思った者もいたかもしれない。だが最後には全員が信じたようだった。

 俺がこんな冗談をこんな場面で言うはずがないと考えたからかもしれない。先ほどのスゥやヤルーとのやり取りが効いたのかもしれない。


 話が終わると、長い沈黙があった。

 それぞれが(うつむ)き、真剣な顔で考えている。


 まずレイドがぽつりと漏らした。


「ふむ。それは知らなかったな」


 合点がいった様子でそう言ったのち、レイドは自身の剣をジロっと見下ろした。

 『黙っていたな、こいつめ』とでも言う風に。


 続いてラヴィが顎に手を当て、目を細めて聞いてくる。


「ってことは……はーん? ミレくん、出会った頃あたしに王都観光するとか言って色々遊ばせてくれたじゃん? アレってあたしを働かせるためでもあったけど、あたしの好感度を上げるためでもあったわけだ」


「そうだ」


 下手に言いつくろうのは悪手と判断し、俺は短く肯定した。


 今度はシエナがハッと思い当たったように目を丸くして、両手の手のひらを合わせて聞いてくる。


「あ、(あるじ)さま、オークネルで感謝祭や水泳教室を開いてくださいましたけど、アレもそういう目的で……?」


「そうだ」


 これにも言い訳をしない。


 再びの長い沈黙。

 それぞれが先ほど同様に床をじっと見つめて、何かを考えている。たぶん俺の過去の言動を思い返し、他にも“そういう意図”が疑われるものがなかったか考えているのだろう。


 沈黙が長引くほどに俺の不安は増していく。


 ――そして先ほどの倍以上の時間が過ぎた後、沈黙を破ったのはリクサだった。


「なるほど、そうでしたか」


 リクサはそれだけ言うと『ぷくく』と吹き出し、腹を抱えて笑いだした。

 釣られるようにして、他の連中も笑いだす。


 この反応は予想していなかった。

 何か、話し方をマズっただろうか。


「あーあー、やーっと分かったぜ」


 目尻に涙を浮かべるほど笑いながら、ナガレが俺の肩をバシバシと叩いてくる。


「ずっと前のことだけどよ。お前、人狼(ウェアウルフ)の森で聖剣見つめてなんかしてただろ。ほら、シエナと一緒にヤルーの奴を探しに行った時だよ。アレ、何やってたのかずっと疑問だったけど、オレたちの好感度見てたんだな」


「あ、ああ、そうだよ」


 続いてアザレアさんが逆側から俺の腕に抱き着いてくる。


「オグ砂漠でミレウスくんがでっかいミミズに食べられたときにさ。レイドさんが騎士の召喚とかいうので助けようとして失敗してたけど、あれは好感度が足りなかったから?」


「あー……そう。あの時のレイドはまだ親密度が低かったし、それを消費する騎士の召喚や心話(テレパシー)を先に何度か使ってたから不発になったんだ」


 俺がちらりとレイドの方を見ると、奴は腕組みをして何度も頷いた。


「納得だ。……あの時の、ということは今はもっと高いのか? (オレ)から王への好感度は」


「い、一応」


「見せてくれ」


 興味津々といった様子でみんなが俺のそばに集まってくる。

 もはや断るわけにはいかず、俺は渋々と呪文を唱えて聖剣に好感度を表示した。


 十二に分かれた刃それぞれに緑と青と赤の光が宿る。

 上の刃から順に、席次が高い騎士のものだ。


 みんなは顔を寄せ合い、じっと剣に視線を注いだ。

 自分の刃がどれか分からず、上からか下からか数えている者もいる。


「緑が忠誠度、青が親密度、赤が恋愛度――ナガレちゃんの忠誠度ひっくっ!」


 上から六番目の刃の緑の光を指さして大笑いするラヴィ。

 ナガレが俺の手から聖剣をひったくり、異議を唱える。


「いや待て、ちゃんと『1』あんだろーが! アザレアなんて『0』だぞ『0』!」


「あー、まー、そうかなーとは思ってましたけど。いまだにミレウスくんが王様とかピンと来てませんし」


 アザレアさんはぺろっと赤い舌を見せると、俺の腕から離れてナガレの手から聖剣を奪い取り、自分の赤い光を指し示す。


「でもほら、恋愛度は私が一番高いですよ!」

 

「待て待て! それなら……ひーふーみー……オレと同じじゃねーか!」


「あ! あたしも! あたしも同じ数だよ!」


「ええ? ラヴィさんの一つ少なくないですか?」


「なんだとー!? うっ、確かに……?」


 アザレアさんとナガレとラヴィはぎゃーぎゃー言い合いながら聖剣を奪い合う。


 その刃をじっと見つめていたリクサが、ぽつりと。


「……恋愛度でしたらスゥが一番多いように見えるのですが」


 騒いでいた三人はピタリと止まると揃って黙り込み、下から四番目の刃を見る。

 確かに、数えてみるまでもなくそこの赤い光が一番長い。


「え、ええと、先ほどの陛下の説明ですと恋愛度というのは広い意味での愛情だそうですから、この赤い光の多寡(たか)で陛下への異性としての想いの(たけ)を比べるのは適切ではないのでは? 男性の刃にも(とも)ってますし、スゥのそれは母親としての愛情かもしれませんし」


 リクサが慌ててまくし立てたが、それは微妙な空気になった責任を取るためではなさそうだ。

 一番上の刃の赤い光を指さして、ラヴィが告げる。


「リクサのは明らかにあたしたちより少ないね」


「こ、こんなのおかしいです! 私ほど陛下を敬愛している者はいないはずなのに!」


「……忠誠度でカウントされちゃってんじゃないの、それ」


 ラヴィの推測は当たらずも遠からずだと思う。


 というより、そう思いたい。

 人間の感情はとても複雑なものだ。“好意”という範囲だけでも様々な形がある。それをたったの三種類に分類分けするなんて無茶な話なのだ。聖剣に表示されている好感度と本人の感覚にズレがあっても無理はない。

 そもそも聖剣がどうやって相手からの好意を計り、数値化しているかも知らないが。


 背後から誰かに抱き着かれた感触がして、振り返る。

 背中に当たる獣耳の感触で分かっていたが、シエナだった。顔を真っ赤にして、俺の腰のあたりに両手を回している。


「シエナちゃんの恋愛度が増えた!?」


「そんな簡単に増えるもんなのか!?」


 聖剣を見ながらラヴィとナガレが騒いでいる。

 そこに希望を見出したのか、リクサが顔を輝かせて駆け寄ってくる。


「陛下!」


「……うん」


 右手を広げて迎えてやると、リクサがピトリと俺の胸に身を寄せた。


「リクサの恋愛度も増えた!?」


「ガバガバすぎねーか、この判定!?」


 また聖剣を見ながらラヴィとナガレが騒いでいる。


「これ、悪霊の分はどうカウントされてたんデスか?」


 それまで黙っていたデスパーがふいに手を挙げて聞いてくる。


「あー、悪霊の好感度もデスパーのところにカウントされてたよ。たぶんだけど」


「なるほど。興味深いデスね」


 満足のいく答えだったのか、デスパーは自分の刃に(とも)る光を見て、薄く微笑んだ。


「デスパーくんの親密度が増えた!?」


「どこに増える要素あったんだよ、今の!?」


 聖剣を見ながらラヴィとナガレが三度(みたび)騒ぐ。


 それからはどうすれば好感度が上がるのか検証する会のようなものが始まった。

 話したり、抱き着いたり、頬にキスしたり、俺を使って色々やってくれたのだが、実際ちょこちょこと好感度が上がっていく。


 どうやら最も危惧していた事態は避けられたらしい。

 一通り検証した後、みんなは聖剣の好感度表示を見ながら、法則があるだのないだのとまた騒ぎ始めた。


 それを横目に、スゥが呆気にとられたような顔で俺のところへやってくる。


「ミレウスさん、みんなにバラしても大丈夫だって分かってたんスか?」


「いや……。でも前にスゥと腹を割って話しあったら好感度上がっただろ? だから、今回もそんな酷いことにはならないと思ったんだ」


「……そうか、そうだったんスね」


 スゥはまったくの盲点だったという風に呟いた。


「本当にすべてを打ち明けたのなら――すべての心の障壁が取り除かれたのなら、好感度はこんなに簡単に上がるものだったんスね。王が自分に誠意を持って接してくれていると騎士が心から信じられたのなら――」


 それは独り言のようだった。

 スゥの目に大粒の涙が浮かぶ。


「たぶん最初からすべてを話していても、こうはならなかったと思うっス。これまでにミレウスさんが十分な信頼を勝ち得ていたから、皆さん受け入れてくれたんスよ。……頑張ったっスねぇ、ミレウスさん」


 スゥの涙を指で(ぬぐ)ってやり、微笑みかける。

 スゥもまた嬉しそうに微笑んでいた。


「スゥちゃんの好感度も上がってる! 三種類全部!」


「どういう感情なんだ、これ……」


 聖剣を見ながらラヴィとナガレがまたまた騒ぐ。


「こうかんどかー、イスカはぜんぜんしらなかったぞー」


 トテトテと俺たちの元へやって来たのはイスカである。

 彼女に向かってスゥが申し訳なさそうに頭を下げる。


「イスカさんはいつかまた円卓の騎士になる予定だったっスから、教えなかったんスよ。イスカさんは性格的に全部知ってても好感度に影響は出なさそうだと思ってたっスけど……」


「ほかのやつにくちすべらせるとこまるからかー?」


「あ、そうっス」


「かしこいー」


 イスカは手を伸ばしてスゥの頭をなでなでする。

 スゥはされるがままだったが、ふと思い出したようにヤルーへと目を向けた。


「ヤルーさんが気づいてたとは驚いたっス。これまで事故みたいな形以外で気づいた円卓の騎士はいなかったっスよ。さすがっスね」


「ふっふっふ。まぁな。確信を持ったのは割と最近だけどよ」


 顎をさすりながらニヤリと笑い、勝ち誇るヤルー。

 その横でブータがぴょんぴょん跳ねながら小さな体を目いっぱい伸ばして手を挙げる。


「実はボクも知ってましたよぉ!」


「え!? マジで!?」


 俺とヤルーの驚愕の声が重なる。

 ブータは先ほどのヤルー以上に勝ち誇った顔で胸を張った。


「ホントですよぉ。南港湾都市(サイドビーチ)技能拡張(スキルエンハンス)してもらったときに、恋愛度がどうのとかって陛下の思考が流れ込んできましたからぁ」


 俺とヤルーとスゥはしばし口を開けたまま黙り込んだ。

 南港湾都市(サイドビーチ)ということはグウネズ戦の時だ。つまり二年半以上前になる。そんな前からブータは知っていたのか。


 俺たちの反応を不安に思ったのか、ブータは背中を丸めて(ちぢ)こまり、照れ笑いのようなものを浮かべた。


「や、ホント言うと、そうなのかなぁって漠然と思ってただけですよぉ。あの時は《存在否定(エンドロール)》を使うために集中してたんで断片的にしか陛下の思考を聞き取れませんでしたし……。だから陛下に確認もしませんでした。あっててよかったです」


技能拡張(スキルエンハンス)の時にバレるって、聖剣の仕様上の欠陥じゃねーか」


 ジトッとした目のヤルーからツッコミが入る。

 ツッコミというより、正しい指摘だが。


「いや、それはアレだ。意識を共有してる間にそんなこと考えた俺が悪い。……他の奴と技能拡張(スキルエンハンス)した時も似たようなことを考えてた気がするけどな。バレなくてよかった」


 たぶん他のみんなもブータと同じように極度に集中していただろうから、俺の思考を聞き逃したのだろう。あるいは同じように断片的には聞き取っていたが、そこから聖剣の使用条件に結びつけなかっただけか。


「……ま、なんにせよだけど。聖剣の使用条件を知ってると、心の障壁ができて好感度が上がりにくくなるって聞いてたけど、ヤルーもブータも他のみんなと変わらなかったな」


「当たり前ですよぉ! 陛下が優しくしてくれたのは、好感度のためだけじゃないって分かってましたからぁ!」


 屈託のない笑顔でブータがドンと胸を叩き、ヤルーがそれに同調して頷く。


 いつの間にか、みんな俺たちの話を聞いていた。

 手を叩いてナガレがけらけらと笑う。


「今更そんなん気にする奴なんかいねーよ。お前が計算だけで動く人間じゃないことくらい、もう全員よく分かってるっての」


 他のみんなも同じ意見らしい。口に出しはしなかったが、俺に向ける暖かい眼差しがそう物語っていた。


 不覚ながら、泣きそうになった。

 目のあたりを手で覆う。


「言わないでもいいのによく言ったね、ミレウスくん」


 アザレアさんが両手を後ろで組んで下から覗き込んでくる。


「いや、言いたくて仕方なかったんだ。……正直、三年間ずっときつかった。バレたかもって思ったことは何度もあったし、何より良心の呵責(かしゃく)に常に(さいな)まれてきたからな。隠し事なんてするもんじゃないな、ホントに」


 スゥも同じような心苦しさをずっと感じていたのだろう。俺に共感するように何度も頷いてくれた。


「隠し事かー。そういや俺っちも隠してたことあったな。いや、前に言った気もするが」


 ヤルーが感慨深げに眼帯を外して、みんな向かって両手を広げる。


「実は俺っちは大陸にあるサイアムって国の王子だ」


 静まり返る一同。

 胡散臭(うさんくさ)げな目がヤルーに注がれる。


 無理もない――が、ここは助け舟を出すべきだろう。


「こいつの言ってることはホントだよ。あの精霊(エレメンタル・)(プリンセス)オフィーリアの遠い親戚らしい」


「ええ!?」


 スゥ以外の声が揃う。


 何とも言えない微妙な沈黙の後、ナガレが赤くなった頬を掻きながらぼそりと言う。


「あー、隠し事ってんならオレもある。……実言うとナガレってのは本名じゃない。本名は、その……成瀬(なるせ)流々(るる)ってんだ」


「ええ!?」


 今度はスゥも含めた全員の声が揃う。 

 間髪入れず、ヂャギーが丸太のような右腕をシュバッと挙げる。


「オイラも隠し事ある!」


 ヂャギーは大声で言うと、トレードマークであるバケツ型の(ヘルム)をためらいもなく脱ぎ捨てた。


 今度は誰も何も言わなかった。というか言えなかった。

 全員揃って呆気に取られて、(ヘルム)の下から現れた金髪碧眼のさわやかな青年の顔を凝視していた。


 俺は剣覧武会の決勝戦の後に見たことがあった。だが、こうしてみんなの前で外したことには驚愕していた。


「ヂャ、ヂャギー、その兜、外しちゃって大丈夫なのか?」


「うん! もう平気! みんなの前なら全然平気!」


 力こぶを作り、ニッと笑って見せるヂャギー。


「ヒエー……想像してたのと違ったような違くないような……って感じデス」


「まさか美形とはな」


 普段あまり動じないほうであるデスパーとレイドも、この秘密の開示にはさすがに動揺したようだ。

 みんなから十分見られたことを確認したヂャギーはまた(ヘルム)をかぶりなおす。顔を隠すためというより、防具としての用途のために。


 最後にリクサが勇気を振り絞るようにして手を挙げた。


「わ、私も隠していた事があります。……実は私、家事が――特に片付けとかが苦手で、家がほんの少し――いえ、とても汚いんです。それで時折、陛下に手伝ってもらって掃除しているんですが……」


「うん、知ってる」


 ラヴィにあっさりと頷かれ、リクサは顎が外れそうなくらい驚いた顔をした。

 みんなもラヴィに同意するように頷く。


 リクサは俺が口外したと思ったのか非難するような目で見てくるが、もちろん俺じゃない。隙の多い彼女のことだ。どこで漏れていても不思議じゃない。


 みんなが笑う。釣られてリクサも笑う。

 俺も無性に笑えてきた。


「そろそろ返してくれ」


 大笑いしながらラヴィから聖剣を奪い返す。


 好感度の表示はまだ続いていた。十二人の騎士全員の好感度が壊れたように上がっていく。三種類ののすべてが、どこまでも、際限なく。


「あー! まだ見てたのに!」


 取り返そうと手を伸ばしてくるラヴィ。

 それから逃がれようと、開かれた黄金の扉の向こうへいく。


 ――と、足がもつれて転びかけた。

 どうにか踏ん張るも勢い余って背中が壁面に当たる。


「ん?」


 背中の感触に違和感を覚える。

 金属の壁の一部が奥に押し込まれような、気のせいのような。


 まるで隠された機構の起動スイッチを押してしまったような。


 それを確かめるべく首を(めぐ)らせようとしたがその必要はなかった。

 その前に足元の床がパカリと二つに割れたからだ。


 ほんの一瞬、体が宙に浮いたかと思うと重力に引かれ、床下に隠れていた穴に落下を始める。

 最後に見たのは、みんなが驚いたような顔でこちらに手を伸ばしてくる光景だった。



 今まで階層移動の罠(シュート)に落ちた経験は三度。


 一度目は王都の北のカーナーヴォン遺跡で一人で落ちた。

 二度目は海賊女王エリザベスの根城でナガレと共に落ちた。

 三度目はキアン島の深淵の魔神宮でデスパーと共に落ちた。


 いや、三度目のアレは階層移動の罠(シュート)じゃない。ただの落とし穴だった。

深淵の魔神宮は第一文明期の危険種(モンスター)である魔神(デーモン)が創り出したものだ。第二文明期の罠である階層移動の罠(シュート)があるはずなかったのだ。


 同じことがここにも言える。俺がいたのは第一文明期に作られた通路だ。だからこれは階層移動の罠(シュート)じゃない。


 これが何なのかは分からない。

 なんでこんなところにこんな物があるかも分からない。


 だが、なぜそれに引っかかってしまったのかは、さすがにそろそろ察しがついていた。

 四度目なのだ。偶然ではあるまい。俺がそういう天運の元に生まれてきたからに違いない。


 そんな思考を一瞬で済ませたわけだが、頭上で二つに割れていた床はその頃には元に戻っていた。

 俺の視界は暗黒に閉ざされる。


 待ち受けるのは針の山か、酸のプールか。

 どちらでもいいがさっさとしてくれと思いながら待つが、一向に落下が終わる気配はない。


 下へ、下へ。

 ひたすら下へ。


 この穴は俺をどこへ連れて行こうとしているのか。


 決まっている。

 あの黄金の扉の、その下にあるのはただ一つ。

 黄金郷だ。


 そう気づいた時、右手で掴んでいた聖剣が(まばゆ)い光を放ち始めた。


 その光の中で十二に分かれた黒い刃が姿を変える。

 ごくありふれた剣のように――たった一つの刃を持つ、純白の剣に。




 『真の絆の剣(エクス・エンドッド)』。




 聖剣がその真の姿を現わした瞬間、俺は円卓と“完全に(つな)がった”のだと理解した。


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【第二席 リクサ】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

恋愛度:計測不能



【第三席 ブータ】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

恋愛度:計測不能



【第四席 レイド】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

恋愛度:計測不能



【第五席 アザレア】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

恋愛度:計測不能



【第六席 ヂャギー】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

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【第七席 ナガレ】

忠誠度:計測不能

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【第八席 イスカンダール】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

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【第九席 ヤルー】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

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【第十席 スゥ】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

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【第十一席 デスパー】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

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【第十二席 ラヴィ】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

恋愛度:計測不能



【第十三席 シエナ】

忠誠度:計測不能

親密度:計測不能

恋愛度:計測不能

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