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第二百話 再会したのが間違いだった

 ウィズランド島の最高峰、ウィズ(ざん)の地下深くに存在する広大な地下空洞。

 そこに広がる灼熱の溶岩湖、その中央に浮かぶ小島の上で――。


「帰ろうぜ、ミレちゃん。みんな首を長くして待ってるだろうよ」


 と、なんだかカッコつけて言ったヤルーであるが、しばらくそのまま停止した後、間抜けな顔で言葉を続けた。


「……どうやって帰るんだ?」


「それなんだけどさ」


 俺はブータの姿をイメージして《瞬間転移(テレポート)》の魔術を借り、呪文を詠唱した。

 しかし発動しない。この山の外を転移先に選んだのだが。


「……やっぱり」


「やっぱりって、おいおいミレちゃん、まさか」


「いや、考えてみるとさ。行きにこの辺まで来るのに《瞬間転移(テレポート)》使わなかったんだよな。スゥもレイドもこの辺まできたことあるっつってたのに。だから、もしかしてと思ってたんだけど」


 辺りを見やる。

 見たところで何か分かるわけではないけど。


「転移系の魔術や魔法を無効化するフィールドが張られるみたいだ。ここを作ったのはさっきの大地精霊(ゲイア)だろうし、第一文明期の連中がそうしたのか……でなきゃスゥたちが、よそ者が入り込まないようにそうしたのかも」


「えー、じゃあ山出るまでは徒歩かよ。しかも二人で。ここめっちゃ高レベル危険種(モンスター)出るんだぞ」


「まー、精霊だったらどうとでもできるよ。今の俺ならね。ただ、ここ精霊以外にも強いの出るんだよね……」


 ここ半年、精霊とばかり戦ってきたのでそれについては自信がついていた。だが、それ以外が相手となると今の自分がどこまでやれるかまったく分からない。

 聖剣の力自体は使えるようなので、さすがにどうにかなると思うのだけど。


「ん? 《瞬間転移(テレポート)》無効? なんか前にもこんなシチュエーションあったような……」


 おぼろげな記憶をたどる。

 すると突如、脳内にマイペースな男の声が響いた。


『ふむ。てすてす。聞こえるか?』


「ん!?」


 この展開、初めてではない。

 そしてこんな展開で声を飛ばしてくる奴は一人しか思い当たらない。

 というか、声で分かるし。


「レイド! 久しぶりだなぁ!」


『うむ。どうやら聞こえているようだな。さすが円卓の未来予知。正確だな』


 こちらと会話のキャッチボールをする気がないこの感じ。実にレイドである。


 それで思い出せた。さきほど今の状況と似てると思ったのは、レイドたちと一緒に蚯蚓(ミミズ)型決戦級天聖機械(オートマタ)のオグと戦った時のことだ。

 オグの腹の中に飲み込まれた際、《瞬間転移(テレポート)》で外に出ようとしたのだが、アイツの魔術障壁に(はば)まれて上手くいかなかったのだ。


『では来てくれ』


 レイドがなんの説明もせずにそう言っても、俺は動揺しなかった。

 視界がぐにゃりと歪み、最後にはプツンと消える。


 オグの腹から助けてもらった時とまったく同じだ。


 聖剣の親密度能力の一つである“騎士の召喚”を逆利用して、レイドが俺を自分のところに()び出したのは、さすがに分かった。






    ☆






 視界が戻ったとき、俺は王城にある円卓の間の扉を入ってすぐのところにいた。


 この部屋自体がもはや懐かしい。

 だが、それ以上に懐かしい十一の顔が俺を出迎えてくれた。


「やぁ。ただいま」


 少し照れながら片手を上げる。


 周りの十一人全員が、ほぼ同時に俺のことを呼んだ。


「ミレウス陛下!」


「陛下ぁ!」


「久しぶりだな、王よ」


「ミレウスくん!」


「みーくん!」


「ミレウス!」


「みれうすー!」


「ミレウスさん」


「王サマ!」


「ミレくん!」


(あるじ)さま!」


 と、見事に全員違う呼び方だったけど。


 さきほどレイドが『円卓の未来予知』がどうのと口にしてたが、たぶんスゥの持つ管理者の卵に俺たちが精霊界から帰還するタイミングが表示されたのだろう。それでこうして全員集合して出迎えてくれたようだ。


 最初に俺の胸に飛び込んできたのは、最も俊敏なラヴィだった。

 がっしり両手で俺に抱き着きついて、胸に顔をすりつけてくる。


「会いたかったよ、ミレくんー!」


「俺もだよ。元気してた?」


 頬を撫でてやると、ラヴィは(うる)んだ瞳を俺に向け、キスをしようと顔を近づけてきた。

 素直にそれに応えてやろうとする――が、それはブータとイスカが左右から腰に飛びついてきたため、体勢を崩して失敗した。

 さらにシエナが背中に抱き着いてきたため、俺は完全にバランスを失い、四人と一緒に床に倒れこんだ。


 それだけならまだよかったのだが、今度はヂャギーがドスドスと音を立てながら走ってきて、丸太のような両手を広げて俺たちの上に飛び込んできた。


 一緒に倒れていた四人は機敏に反応してその場を離れた――薄情にも俺を残して。

 これにはさすがに少し焦った。


「みーくーん!」


「おお、待て待てヂャギー」


 上から降ってくるヂャギーの巨体に両手を添え、落下の方向(ベクトル)を斜めに変える。たぶん[達人(マーシャルマスター)]がやる、合気とかいうのに近い技術だ。


 ドシン! と音を立ててヂャギーが俺の隣に落下する。

 ヂャギーはすぐさまガバリと上半身を起こし、俺にがっしり抱き着いてきた。


「すごいね、みーくん! なんかたくましくなったね!」


「巨体の精霊とも散々戦ったからね。知らんうちにこういうこともできるようになった。ヂャギーは相変わらず元気そうだな」


 話しながら、彼の(かぶ)るバケツヘルムをポンポンと叩く。

 俺がここ半年どこにいて、何をやってたかは全員に周知されているようだ。


「す、すいません、(あるじ)さま……(あるじ)さまを置いて先に逃げて。……ひえっ!」


 申し訳なさそうに戻ってきたシエナの頭をわしわしと()で、頭頂部の耳を甘噛みする。

 当然シエナはこれ以上なく狼狽(うろた)えた。


「だ、だだ、ダメですよ(あるじ)さま! み、みんな見てますよ!」


「半年ぶりのシエナ成分補給なんだ、我慢してくれ」


 左右の耳を堪能し、ついでにピンと立った尻尾をたっぷり(モフ)り、ようやく俺は満足した。

 続いて同じく申し訳なさそうに戻ってきたブータの小さな頭を撫でまわし、顎の肉をたぷたぷと(さす)る。


「ブータ、さっきはよく反応できたね。成長したな」


「えへへ。魔術ばっかりやってたらいけないと思って、最近はヂャギーさんと一緒にジョギングしたり、スゥさんにコーチしてもらってトレーニングしたりしてるんですよぉ」


「偉いぞ! もう一人前の男だな!」


 ブータは嬉しそうに目を細めた。

 男子、三日会わざれば刮目(かつもく)して見よ、という言葉もあるが、この年頃の少年の成長は(いちじる)しい。コロポークルなので肉体的な成長はないが、ここ半年のこの島の激動で、精神的にずいぶん成長したようだ。


「悪霊がうらやましがって大変だったんデスよ。精霊界、オレ様も行きたかったーって」


 今度はデスパーが近寄ってきて手を差し伸べてきた。

 苦笑しながらその手を握る。


「アイツくらいだよ、あんなところ行きたがるのは」


「自分もちょっと、行ってみたかったデスよ」


 ぐいっと力強く引っ張られ、立ち上がる。

 デスパーとその中にいる悪霊に挨拶するつもりで、彼の肩を強く叩いた。


「んじゃ機会があったら、一緒に行くか」


「約束デスよ」


 にっこりと笑うデスパー。

 なんだかこいつには約束させられてばかりな気がする。まだ果たしてない約束もいくつかあった気がするが、その辺考えるのは全部終わってからにしよう。


「ご無事で何よりです。陛下」


 こちらが落ち着いたのを見てそう言ったリクサは、一言では言い表せない複雑な表情をしていた。

 泣きそうでもあり、恨めし気でもある。ただ口元には笑みを作っていた。


「まさか半年も御不在になるとは思いませんでした」


「俺もだよ。その辺の文句はスゥに言ってくれ。精霊界から見てたけど、よく頑張ってくれたね、リクサ」


 リクサに近づき、そっと抱きしめる。

 腕の中で彼女が、俺の胸元を両手で触れた。


「本当に、よくご無事で」


 俺にだけ聞こえるくらいの声量で、彼女が(ささや)く。

 それだけで、彼女がどれだけ心配してくれていたのかよくわかった。


 みんなに見られていることもお構いなしにしばらくそうしていたのだが、やがて後ろから肩をちょいちょいと指で突かれた。


「へいへい、ミレウスくん? 誰かのこと忘れてない? 仲良しの元クラスメイトのこととかさぁ」


「忘れてないない。ただいまアザレアさん」


 名残惜しそうなリクサから体を離し、アザレアさんの方に向き直る。


「アザレアさんにも苦労をかけたね」


「ホントだよ。もー、ホントめっちゃ苦労した! けどミレウスくんが帰ってきたときに国がめちゃくちゃじゃ笑われるから頑張ったよ。ということで私もご褒美欲しいな」


 両手を広げて素直に要求するアザレアさん。

 俺は苦笑いしながら、彼女とハグをした。


「ミレウス。なんかオメー、たらしっぷりに(みが)きがかかってねーか?」


 少し離れた位置から眺めていたナガレが、半眼でボヤく。


「半年間精霊にボコられまくったからな。度胸もつくさ。安心しろってナガレにもやってやるから」


「オレはいいって!」


「遠慮するなよ。ほれほれ」


「やめろ! 来んな、おい!」


 嫌がるナガレを追いかけまわし、円卓をぐるっと一周したところで捕まえて、ぎゅっと後ろから抱きしめる。

 ナガレは文句を言いながら暴れたが、その抵抗は言い訳程度のものでしかなかった。


「あー……感動の再会をしてるところ悪いが、ミレウス王」


 レイドがコホンと咳払いをする。


「ん? どした?」


(オレ)は王しか召喚できんのでな」


 レイドはそこで言葉を切った。

 何のことかと考えていると、スゥがぽつりと教えてくれた。


「ヤルーさんは?」


「あ! 忘れてた!」


 慌てて“騎士の召喚”を行う。


 円卓の間に現れたヤルーはすぐさま俺に詰め寄ると、激昂した様子で胸倉を掴んできた。


「おせえええええ!!! おせーよ、ミレちゃん! 何が起きたかはすぐに分かったけどよ!! なんですぐ俺っちも()ばねーんだよ!」


「すまんすまん。てっきり俺と一緒に()ばれたものと思っててさ。アハハ」


 それで納得したわけではなかろうが、ヤルーは矛先を変え、今度はスゥに詰め寄った。


「スゥちゃあああああん!!! テメー、俺っちにもレベリングさせるなんて一言も言ってなかっただろ!! しかも精霊界へ行くなんてまったく聞いてねーぞ!!」


「え? ……あ、そういや言わなかったっスね。言う必要あったっスか?」


「あったかと言われるとなかったけどよぉー! なかったけど、心の準備っつーもんがあるだろーが! つーか狙ってやったんじゃねーのかよ! 天然か!」


 言うだけ言って満足したのか、ヤルーは肩を上下させながら黙り込んだ。

 スゥの方は特に気にした様子はなく、ヤルーの持つ優良契約(アンペイド)を指さした。


「“鍵”は完成したっスか?」


「おうよ。くっそー、その辺のことも一切説明しなかったよなぁ。初代円卓の騎士っつーのはどいつもこいつも……」


 ヤルーは愚痴って舌打ちすると、スゥへと疑いの眼差しを向ける。


「なぁスゥちゃん、さすがにもう隠してることはないよな」


「え? はぁ……」


 曖昧な返事をして目を()らすスゥ。 


「……あんのかよ」


「いやー、ないと言えば嘘になるんスけど。その、たいしたことではないっス、たぶん。それにヤルーさんには関係ないことっスから」


「じゃあ誰に関係あるってんだよ」


 スゥはちらりと横目で俺を見てきた。

 そんなことだろうとは思っていたので、俺は動揺しない。


「母さん、いったいなにを隠してるのかな?」


「すぐ分かるから気にしないで欲しいっス。そういやミレウスさん、精霊界はどうだったっスか?」


「あー、オフィーリアが、スゥとイスカのこと頼むって言ってたよ」


 それを聞いて、イスカがすっとんできた。


「おふぃーりあにあったのか!」


「会った会った。なんか精霊たちに囲まれて楽しそうにしてたよ」


「そっかー! なつかしいなー! イスカもまたあいたいぞー」


 興奮した様子で、ぴょんぴょんと飛び跳ねるイスカ。


 俺とヤルーは視線を交差させた。

 考えていることはきっと同じだ。終末戦争(メギド)においてこの少女が果たした役割と、この少女がいかにして兵器となったのかを考えているのだろう。


 自身が元人間である、という記憶はイスカにはないはずだ。

 その記憶が失われたのが、兵器となったときなのか、それとも終末戦争(メギド)の後、この島で眠りについた時なのかは分からないが。


「イスちゃんも苦労してきたんだな」


 小さな角の生えたイスカの額を、ヤルーが撫でる。


「精霊界への扉開くのってすっげー大変だから約束はできねぇけどよ。ま、もしできるようになったら連れてってやんよ」


「ホントかー! ありがとな、ヤルー!」


 イスカは両手を挙げて歓喜の舞を踊る。


 彼女の保護者たるスゥはそれを微笑(ほほえ)ましそう眺めていたが、ふと思い出したように俺の方を向いた。


「そうだ、ミレウスさん。時を告げる卵を見て欲しいっス」


 言われるがまま懐からあの魔力付与の品(マジックアイテム)を取り出す。


 時を告げる卵はこの島に危機が迫っていることを示す赤い光を放っていた。卵の中にはドス黒いもやが渦巻いており、その危機の出現場所は映っていない。だがウィズのことを予告しているのだから、この王都の地下にある黄金郷――第一文明期の世界首都で間違いないだろう。


 赤い光の強さはすでにかなりのものだ。

 しかし最高潮に達するまでは、まだ少し猶予(ゆうよ)がありそうだった。


「あと三日ってところかな」


「そうっスね。ギリギリ間に合ってよかったっス」


 スゥが手を叩いてみんなの視線を集める。


「それじゃ聖杯を現出させる最後の手順を伝えるっス。皆さん全員に働いてもらうっスよ」


 さすがに異議を唱える者はいなかった。

 それも当然だろう。世界の滅びが三日後に迫っているのだ。


 俺たち、六代目円卓騎士団の最後の戦い――滅びの女神との決戦もまた、三日後である。


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【第二席 リクサ】

忠誠度:★★★★★★★★★★★

親密度:★★★★★

恋愛度:★★★★★★★★



【第三席 ブータ】

忠誠度:★★★★★★★★★★

親密度:★★★★

恋愛度:★★★★★★★★★★



【第四席 レイド】

忠誠度:★★★★★★★★★★

親密度:★★★★★★★

恋愛度:★★★★★★★



【第五席 アザレア】

忠誠度:

親密度:★★★★★★★★★★★

恋愛度:★★★★★★★★★★★★★



【第六席 ヂャギー】

忠誠度:★★★★★★★★★

親密度:★★★★★★★★★★★

恋愛度:★★★★



【第七席 ナガレ】

忠誠度:★

親密度:★★★★★★★★★★

恋愛度:★★★★★★★★★★★★★



【第八席 イスカンダール】

忠誠度:★★★★★★

親密度:★★★★★★★★★

恋愛度:★★★★★★★★★



【第九席 ヤルー】

忠誠度:★★★★★★★★★

親密度:★★★★★★★★

恋愛度:★★★★★★★



【第十席 スゥ】

忠誠度:★★★★★

親密度:★

恋愛度:★★★★★★★★★★★★★★★



【第十一席 デスパー】

忠誠度:★★★★★★★★★

親密度:★★★★

恋愛度:★★★★★



【第十二席 ラヴィ】

忠誠度:★★★★

親密度:★★★★★★★★

恋愛度:★★★★★★★★★★★★



【第十三席 シエナ】

忠誠度:★★★★★★★★

親密度:★★★★★★★★

恋愛度:★★★★★★★★

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[気になる点] 最終決戦直前に語りあって好感度が上がる…ヤルーは真ヒロインだった…? しかし3日前ってほんとギリギリですね。 [一言] 最終部も楽しみにしています!
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