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第百九十九話 大地精霊を助けようとしたのが間違いだった

『世界首都ノ完成カラ数百年。絶頂ヲ過ギタ第一文明ハ、(ゆる)ヤカニソノ(ひず)ミヲ露呈(ろてい)シテイキマシタ』


 大地精霊(ゲイア)は語りだすと、再びその瞳を発光させて立体映像(ホログラフィー)を出現させる。


 今回映し出されたのは大陸の地表だった。しかし先ほど見たときとは大きくその姿を変えている。


 非の打ちどころがないほど美しかった都市は見る影もないほどに荒れ果て、外縁部には貧困街(スラム)までできている。

 生産施設は稼働しているが、そこで作られた物資は大多数の人には届かない。

 都市を歩く人々の表情にも(かげ)りがある。疲労、苦悩、不安……様々な負の感情を誰もかれもが抱えている。晴れやかな顔をした者は一人もいない。


『ソレハ資本主義ノ、行キツク果テデシタ。()メル者ハ、ヨリ()ミヲ得テ、(まず)シキ者ハ更ニ(ひん)シ――格差ハ広ガリ続ケ、ヤガテ世界ハフタツノ階級ニ分断サレマシタ。スナワチ、月ニ住マウ“天民(そらたみ)”ト呼バレル極少数ノ上流階級ト、地上ニ取リ残サレタ多数ノ“地ノ民”ノフタツニデス』


 視点が大きく動き、惑星を巡る十二の月の一つの月面を映しだす。

 そこには透明なドームで(おお)われた都市群があった。絶頂期の地上の都市と比べてさえ、次元の違う科学技術で築かれたものだと一目で分かる。


 月面都市では人間そっくりの自走人形(ゴーレム)が多数歩いており、黙したまま様々な仕事をこなしていた。

 本物の人間はごく僅かしか見受けられない。彼らはいずれも若々しく、寒気がするほど整った顔立ちをしていたが、それが自然なものでないことはなぜか直感的に分かった。


天民(そらたみ)ハ、科学技術ト資源ヲ独占シ、ヒタスラニ増長シテイキマシタ。地ノ民ヲ同ジ人間トモ思ワナクナリ、家畜ノヨウニ扱ウヨウニナリマシタ。倫理ニ反シタ人体実験ガ平然ト(おこな)ワレ、娯楽トシテ人ノ命ヲ奪ウヨウニスラナリマシタ。更ニ、天民(そらたみ)ガ際限ナク資源ヲ求メ続ケタ結果、地上デハ環境破壊ト汚染ガ不可逆的ナ段階マデ進ミ、地ノ民ハ過酷ナ生活ヲ余儀ナクサレマシタ。ソレデモ彼ラハ長イ間、耐エ忍ンダノデスガ――』


 再び視点は地上に移る。

 地上でかき集めた資源と生産された物資を月へと運ぶ、空を飛ぶ巨大な船。その発着場を囲うフェンスの前に、数えきれないほどの地の民が押し寄せていて、何かを口々に叫んでいる。第一文明語でメッセージを書いたボードを掲げている者も多い。


『怒リト不満ガ限界ニ達シタ地ノ民ハ、ツイニ世界各地デ行動ニ出マシタ。シカシ、ソレハマダ平和的ナ、デモンストーレーションデシタ。天民(そらたみ)側ガコレニ平和的ニ応ジテイレバ、アンナ事ニハナラナカッタ。――ソウ、ナラナカッタ、ハズナノデス。デスガ、天民(そらたみ)ハ最悪ノ手段デ持ッテ、地ノ民ノ行動ニ答エマシタ」


 大地精霊(ゲイア)の声は機械的であるにも関わらず、深い嘆きの色を帯びており、恐ろしい不吉を予感させた。


 その予感が正しかったことを、立体映像(ホログラフィー)はすぐに証明した。


 空から降り注ぐ熱光線が地の民を襲う。

 逃げ惑う人々を火球が追う。


 爆発。黒煙。悲鳴。

 血の海、ちぎれ飛んだ四肢、散らばる無数の死体――。


 辺りは一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 煙に、漆黒の肉体を持つヒト型の怪物と、機械の体をした動物型兵器のシルエットが映る。


『高々度科学ニヨッテ造ラレタ殺戮兵器、魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)ヲ投入シ、平和的ニ主張ヲ行ウ地ノ民ヲ虐殺シタノデス。コウナッテハ、地ノ民モ武力デ応ジルホカ、アリマセンデシタ。コレガ現在、終末戦争(メギド)ト呼バレテイル戦争ノ発端(ほったん)デス』


 立体映像(ホログラフィー)の中で戦いが始まる。

 だがそれは戦いと呼ぶのがためらわれるほど、一方的なものだった。


『戦争開始当初、地ノ民ハ圧倒的ニ数デ勝リナガラ、(ひど)イ劣勢ヲ()イラレマシタ。魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)ヘノ対抗手段ガ、ホトンドナカッタタメデス。地ノ民ノ中ニハ、現代デ“魔術”ヤ“魔法”ト呼バレテイル技術ヲ行使デキル者モイマシタガ、魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)ハソレラヘノ対策トシテ、対魔力性能ヲ十分ニ(そな)エテイマシタ』


 立体映像(ホログラフィー)の中で地の民は、魔術や魔法、もしくはナガレが持つ“拳銃”を発展させたような武器で応戦していた。

 しかしあまりにも無力だった。


『同胞ヲドレダケ殺サレテモ、地ノ民ハ(あきら)メマセンデシタ。降伏シテモ、コレマデ以上ニ過酷ナ日々ガ待ッテイルダケト分カッテイタ事モアリマスガ、何ヨリ天民(そらたみ)ヘノ怒リハ、死ノ恐怖スラ忘レサセルホドダッタカラデス。――ソシテ、(オビタダ)シイ数ノ地ノ民ガ、毎日毎日殺サレ続ケ、ツイニ転機ガ訪レマシタ。地ノ民ニ同情シタ天民(そらたみ)側ノ一部ノ科学者ガ造反シ、自分達ノ持ツ科学技術ヲ地ノ民ニ提供シタノデス。コレニヨリ地ノ民側ニモ魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)ガ登場シ、形勢ハ逆転シマシタ。現代マデ、魔神コソガ救世主デアルトイウ魔神信仰ガ世界各地ニ残ッテイルノハコノタメデス』


 立体映像(ホログラフィー)の中の戦いは様相を変える。


 魔神(デーモン)魔神(デーモン)が。天聖機械(オートマタ)天聖機械(オートマタ)が。あるいは魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)が戦っている。


 それらの性能は拮抗していたが、徐々に戦局は地の民側に傾いていった。

 地の民たちは微力ではあったが、決して戦いを兵器任せにせず、命がけで援護をし続けたからだ。


『自陣ノ魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)ト共ニ進撃ヲ続ケタ地ノ民ハ、ウィズランド島ノ世界首都ヲ制圧シ、イヨイヨ天民(そらたみ)ノ本拠地デアル月ヘト侵攻シヨウト、シマシタ。――ソノ兵器ガ投入サレタノハ、マサニ、ソノ時デシタ』


 ウィズランド島にある、星の海へと向かう船の発着場。

 そこに(つど)った地の民たちの上に、影が落ちる。


 雲にも届きそうな巨大な存在が彼らを見下ろしていた。


『滅ビノ女神ウィズ。天民(そらたみ)ハ、カツテコノ島ヲ創造シタ、アノ女神ヲ作リ変エ、創生ノ(ちから)ヲ破壊ノ(ちから)ヘト反転サセ、戦争ヲ終結サセル最終兵器トシタノデス。形勢ハ再ビ逆転シ、地ノ民ハ組織的ナ抵抗ガ不可能ナホドニ壊滅サセラレマシタ。滅ビノ女神トナッタ、ウィズハ、魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)ヲ無尽蔵ニ産ミ出ス、恐ロシイ兵器デアリ、自身モ絶大ナ火力ヲ備エテイマシタ』


 ウィズが指を伸ばせば大地が崩れ、目を見開けば炎の嵐が吹き荒れた。

 先ほど見た大地創生をそのまま逆転させたかのように、世界そのものをウィズは破壊していく。

 徹底的に。容赦なく。ただひたすら、機械的に。


天民(そらたみ)ハ地ノ民ヲ一人残ラズ殺スツモリデシタ。モハヤ彼ラハ労働力トシテスラ、地ノ民ヲ必要トシナクナッテイタノデス。ソシテ実際ニ、地ノ民ハアト少シデ全滅スルトコロマデ追イ込マレマシタ。大陸、周囲ノ島々、地ノ底(アビス)……ホボスベテノ大地ハ破壊サレ焦土ト化シマシタ。ソノ窮地デ、地ノ民側ノ決戦兵器ガ完成シマシタ』


 いずこかにある地下研究所。

 そこでガラスの棺のようなものに入れられて、十数人の全裸の少女たちが眠っている。

 白衣の一団がその様子を見守っていた。


 少女たちの中に、俺がよく知る顔がある――。


『人型決戦級天聖機械(オートマタ)、セラフィム・シリーズ。ソレマデニ運用サレタ生物型天聖機械(オートマタ)ノ戦闘データヲ用イテ開発サレタ兵器デス。ソノ素体ニハ人間ノ少女ガ使用サレマシタ』


「いや、待て待て待て。おい、大地精霊(ゲイア)。今、少女を素体にしたって言ったか?」


『YES』


 ヤルーはあんぐりと口を開けると、こちらを向いた。

 俺もたぶん似たような顔をしてるだろう。


 あまりにも人間らしいとは思っていたが、イスカは本当に元人間だったのか。


『セラフィムシリーズハ、滅ビノ女神ノ産ミ出シタ魔神(デーモン)天聖機械(オートマタ)ヲ倒シナガラ進撃シ、再ビ女神ヲ、世界ノ端ニアル、コノ島ヘト追イヤリマシタ。シカシ、滅ビノ女神ノ討伐ハ困難ヲ極メマシタ。コノ島デ幾度モ幾度モ戦ウウチニ、セラフィムシリーズハ傷ツキ、数ヲ減ラシテイキマシタ。最後ニ、コノ島ノ地下、世界首都デ行ワレタ決戦デ、ヨウヤク彼女タチハ、滅ビノ女神ニ深手ヲ与エ、封印スルコトニ成功シマシタガ、彼女タチモマタ、ホボスベテガ破壊サレ、稼働デキルモノハ残リマセンデシタ』


 その決戦とやらの模様は立体映像(ホログラフィー)では再現されない。

 なぜだろう。大地精霊(ゲイア)ですら知り得ないことなのか、あるいは特A級を超える情報なのか。


 代わりに立体映像(ホログラフィー)は、すべてが終わり、文字通り一度滅びた(・・・)世界を映しだす。


『地上ノ世界ハ荒廃シ尽クシ、モハヤ人間ノ生存ガ困難ナホドデシタ。地ノ民ノ極僅カナ生キ残リハ、ソンナ環境デモドウニカ子孫ヲ残シマシタガ、残念ナガラ第一文明ノ残滓(ざんし)ト呼ベル物スラ継承デキマセンデシタ。資源ノホトンドヲ地上ニ依存シテイタ天民(そらたみ)モマタ、月カラ降リルスベヲ失イ、滅ビタヨウデス。コウシテ終末戦争(メギド)ハ勝者ノイナイママ終焉シマシタ。貴方ガタハ、ソノ時ノ地ノ民ノ生キ残リノ末裔ナノデス』


 立体映像(ホログラフィー)が消失し、大地精霊(ゲイア)が口を閉ざす。


 数千年前に起きた大破局(カタストロフ)

 そのすべてを知り、俺の体は知らずのうちに震えていた。


「やっぱな。オフィーリアめ。あのクソペテン師が」


 苦い顔をしてヤルーが吐き捨てた。

 こいつも今の情報に相当衝撃を受けたのは間違いない。だが、何か別のことを気にしている。


「ペテン師って?」


「大嘘ついてやがった。いや、この半年、地獄の修業をしてる間に、その可能性は大いに考慮してたがな。あー、クッソ……」


 ヤルーは悔しそうではあったが、同時にあきれ果てているようでもあり、口元には笑みを浮かべていた。

 かつてコイツを仲間にしたとき、だいぶ無茶な手を使ったが、その時に浮かべた表情に似ている。

 先ほどヤルーに丸め込まれたときのオフィーリアの表情にも。


 してやられた、という顔だった。


「実はよ。あの不死鳥(フェネクス)、俺っちが探し出したもんじゃねーんだよ」


「え?」


「変なジジイ――つーか姿欺き(マスカレイド)したスゥちゃんだが――優良契約(アンペイド)()()を教えてもらった時にな。コイツを渡されたんだよ」


 ヤルーがいつも左目につけてる眼帯を外して俺に見せてくる。

 その裏側には扉を模した紋章が刻まれていた。

 前に聞いた覚えがある。コイツやオフィーリアの生家である王家の紋章のはずだ。


「実はこいつもサイアム王家の家宝の一つなんだよ。海精霊(テーチス)との契約に使われてた(くし)と同じで、上位精霊との契約媒介に使える貴重品だ。オフィーリア姫の失踪と同時に失われたんだがな」


「家宝持ち出しすぎだろ、あの人」


「ああ、まぁそれは置いといてだ。当たり前だが謎のジジイに『失われた家宝がある場所を知っている』なんて言われて鵜呑みにするほど俺っちは馬鹿じゃねえ。だが、同じく失われた家宝であるコイツを渡されたとあっちゃ話は別だ。それもこいつに超貴重な上位精霊――不死鳥(フェネクス)が封じられてたとあっちゃよ」


 ヤルーは眼帯を俺にさらに近づけてきた。

 よく見ると、一度切断して、縫い直したような(あと)がある。


「元の契約者――オフィーリアから不死鳥(フェネクス)を解放するために俺っちが切ったんだ。おかげでこいつは契約媒介に使えなくなっちまったがな。ま、そんで外に出てきた不死鳥(フェネクス)と、どうにか契約しようとしてみたんだが――これがあっさり俺っちと契約してくれたんだよ。それでなんでなんだとずっと疑問に思ってたんだがな」


 ヤルーは大地精霊(ゲイア)の肩にとまる不死鳥(フェネクス)を見やる。

 不死鳥(フェネクス)もヤルーのことを見ていた。


 あの精霊は言葉を発しない。だが他の上位精霊と比べて知性が低いということはないだろう。

 人間と同じか、それ以上に賢いはずだ。


「なぁ、ミレちゃん。精霊界に行く前、俺っちが大地精霊(ゲイア)にシリアル番号言わせたの覚えてるか?」


「ああ……えーと、ファーストロットがどうのとか言ってたな」


「そう。シリアル番号ってのは同種の精霊の間で製造された順番に割り振られる識別ナンバーだ。ファーストロットってこたアイツは最初に生み出された大地精霊(ゲイア)の内の一体ってことだな。恐らくあの不死鳥(フェネクス)もファーストロットなんだろ」


「それが?」


「精霊にゃ二種類いる。第一文明人が自分たちに都合のいい“環境”を作りださせる目的で製造した精霊と、その“環境”を保守させるために製造した精霊の二種類だ。当然、早めに製造されたものほど、前者の役割を担った可能性が高くなる。まず作らなきゃ、保守もできねえからな」


「……あ!」


 そこまで言われて、ようやく俺も気が付いた。

 先ほどのヤルーの第一の問いへの大地精霊(ゲイア)の返答。その一節を思い出す。


 『ウィズは協力者(・・・)達と共に海底を隆起(りゅうき)させ、環境を整え、一つの島を作りだした』


 あの精霊はそう言っていたではないか。


「協力者! そうか、あの大地精霊(ゲイア)はウィズと一緒にこの島を作ったのか!」


「そういうこった。そもそもコイツがここにいること自体、ヒントだったんだ。大地創生の後の保守点検も任されたんだろうよ。たぶんあの不死鳥(フェネクス)もそうだ。大地精霊(ゲイア)と親しくしてるし、それに」


「あっさりと契約してくれた理由、か」


 ヤルーがこくりと(うなづ)く。


 こいつが考えてることが俺にも分かってきた。

 協力者。ウィズ。ペテン師。不死鳥(フェネクス)の契約の理由――。


「ミレちゃんには前に話したな。この手の人型の上位精霊は性格も人間みたいに様々だってよ。あの海精霊(テーチス)みたいに素直に人間に頼ってくる奴もいれば、困ってるのに自分からは何も言ってこねえ奴もいる」


 ヤルーは一歩踏み出し、薄っぺらい作り笑顔を浮かべた。


「おい、大地精霊(ゲイア)。お困りなんじゃねーか? お前はウィズを止めたい(・・・・・・・・)んだろ。この島の保守の役割を与えられてるからってだけが理由じゃねえ。一緒にこの島(つく)った仲間が作り変えられて、この島ごと世界を滅ぼそうとしてるのを見てらんねーんだ。そこの不死鳥(フェネクス)みてえによ」


 大地精霊(ゲイア)は表情を変えなかった。首肯もしない。


 だがヤルーの推測が正しかったのだと、俺はすでに確信していた。


 そう、契約するのに、策を(ろう)する必要などなかったのだ。この大地精霊(ゲイア)の方が、契約を求めているのだから。


 ヤルーは優良契約(アンペイド)のあるページにペンでなにやら書き足して、そこを開いて大地精霊(ゲイア)に突きつける。


「契約条件はシンプル。召喚回数は一回だけ。使用可能期間も女神ウィズを止めるまでだ。……どうだ? 困ってんだろ? 力になるぜ」


 かつてこいつが土精霊(ノーム)と契約した時、今のとそっくりな台詞を言ってた。

 自身の領域に水が流れ込んできて困っている土精霊(ノーム)を、詐欺じみたやり方で契約させた時のことだ。


 あの時、こいつは土精霊(ノーム)を助ける気なんてまったくなかった。

 しかし今は違う。利害が一致しているからではあるが、精霊の力になろうとしているのも事実だ。


 大地精霊(ゲイア)は値踏みするようにヤルーを見つめた後、ふっと表情を(ゆる)めて微笑んだ。


『オフィーリアハ、正シイ後継者ヲ選ンダヨウデスネ。ヤルデンスタン・サイアムシア。アナタヲ、新タナ主人(マスター)ニ認定シマス。一緒ニ彼女ヲ止メテクダサイ』


 大地精霊(ゲイア)が人差し指をひょいと動かすと、ヤルーの持っていたペンが一人でに動き出し、開かれていた優良契約(アンペイド)のページに署名を行った。


 大地精霊(ゲイア)の姿が(かす)んで消える。その肩に乗っていた不死鳥(フェネクス)は飛んできて、ヤルーの体に吸い込まれる。

 大地精霊(ゲイア)は非実体化し、不死鳥(フェネクス)はいつもの憑依状態に戻ったのだ。


 残されたのは、人間が二人。


 俺は腕組みをして、オフィーリアのことを考えた。


「なるほど、ペテン師か。さすがヤルーの親戚なだけあるな。なーにが『あの大地精霊(ゲイア)は特に気難しい』だ。なにが『契約する難度が最高峰』だ。嘘ばっかりじゃないか」


「ま、適当に理由つけて、俺っちに修業させたかったんだろうよ。あっちにしても、俺っちが自分の親戚だってことくらい知ってただろうしな。それがあまりに不甲斐(ふがい)ねーから見てらんなかったってところだろ」


「……そうかな?」


 この後に待ち受ける滅びの女神との決戦。そこでヤルーが死なないようにするのがオフィーリアの修業の目的だったのではないかと俺は思ったが、確証はないので口には出さなかった。

 コイツ自身、口では別のことを言いつつも同じように思っているようであったし。


 ヤルーは満足気に優良契約(アンペイド)をパラパラとめくる。そのすべてのページに、精霊との契約が記されていた。

 滅びの女神の眠る黄金郷への扉を開く、精霊使いの鍵が完成したのだ。


「ようやくだぜ。ようやく夢が叶う。国を出てから今まで、マジで長かった。……なぁ、ミレちゃん。こんなときでも自分の夢のことを考えてる俺っちは、やっぱダメ人間か?」


「別にいいだろ。オフィーリアもそうだったけど、それが結局、人のためになる状況なんだから」


 素直に答える。

 そもそも円卓の騎士という存在自体がそういうものだ。


 どんなダメ人間でも構わない。

 利己的でも金のためでも夢のためでも、それがこの島のためになるのなら、それでいいのだ。


「ヤルーはさ。ずっと王族の責務を果たしてこなかったことに負い目を感じてきたんだろ? でも円卓の騎士の責務は果たしてきた。ずっと誰かのために戦ってきたんだ。命がけで。……それは王族らしい行動と言えるんじゃないかな」


 俺の言葉を聞いて、ヤルーはきょとんとした顔をした。

 そんな風に考えたことはなかったとでも言う風に。


 照れくさそうに視線を泳がせたのち、ヤルーは苦笑した。


「帰ろうぜ、ミレちゃん。みんな首を長くして待ってるだろうよ」


 その表情は『そんな考え方もアリかな』と、言っているかのようだった。


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【第九席 ヤルー】

忠誠度:★★★★★★★★★[up!]

親密度:★★★★★★★★[up!]

恋愛度:★★★★★★★[up!]

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お疲れさマッコオオオオオオオオオオオイ!!!





この第百九十九話を持ちましては第七部の幕間は完結になります。


次回、二百話から『最終部 解放王と滅びの女神』に入ります。


いよいよ最終部です。あと少しで完結です。

もう三年以上これ書いてるんですが、ここまで続けられたのは読んでくださる皆様のおかげです。


皆様、ぜひ最後まで応援よろしくお願いいたします。




 作者:ティエル

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