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第百四十九話 八百長させたのが間違いだった

 グスタフとの試合中に負ったダメージは舞台(アリーナ)を降りて闘技場(コロシアム)内部に入るとすぐに戻ってきた。そうなることを見越してシエナが迎えに来てくれており、戻ってきた端から回復魔法で治してくれたが、いつも通り多大な苦痛を感じることになった。


 まず腹をぶん殴られたのが戻ってきて今日食べたものを全部戻してしまい、次にぶん投げられたのが戻ってきて背中と後頭部に激痛を覚えて立っていることもできなくなった。

 続いて俺自身が使った【自傷強化スーサイド・ストレンクス】の副作用が戻ってきて全身に裂傷ができて大量に血を失い、最後にグスタフの裸絞(バックチョーク)が戻ってきて頚動脈が圧迫されてあっさりと気絶した。

 まぁそうなるだろうと覚悟はしていたので、騒ぐほどのことでもない。


「あ、あの、(あるじ)さま。最近、大怪我するのに慣れすぎていませんか?」


 とは気絶から目覚めたときに、シエナに困り顔で言われた台詞である。


 スゥにも聖剣の鞘に頼りすぎだと指導されたが、確かにここのところその辺の感覚が麻痺しつつあるのは感じる。実際、滅亡級危険種(モンスター)との戦闘後に帰ってくるダメージはこの程度では済まないのに、『まぁしょうがないか』とそれも計算に入れて戦ってしまっているところがある。死ぬのにも抵抗がなくなってきてるし。


「いやぁ痛かったよ。死ぬかと思った。ありがとう、シエナ」


 と言ってはみたものの、どうしても軽くなってしまっている感は否めない。


 呆れた様子の彼女と共に国王用の観覧席に戻ると、みんなが立ち上がって出迎えてくれた。


「陛下ぁー。お見事でしたよぉ」


 左右にステップを踏んで小躍りしながら一番乗りでやってきたのはブータだった。背の低い彼の頭をぽんぽんしてその賛辞に応えると、続いて金の亡者二人、ラヴィとヤルーが現れて、ご満悦な様子で俺の両手をそれぞれ握る。


「ミレくんグッジョブだよ! この調子で優勝してね! あたしたちのために!」


「ナイスだぜぇミレちゃん! あとは準決で素人(トーシロ)ぶっ飛ばして決勝で八百長キメて優勝するだけだな!」


 個人的な欲求を隠す気もないその賛辞には答える気にもならず、俺は無言のまま席についた。そこにアザレアさんが国王つきの女中(メイド)らしく、絶妙なタイミングでドリンクを差し出してくれる。


「ありがとう。喉乾いてたんだ」


 胃袋が空になった上に血液まで失っていたので今は水分が欲しい気分だった。ついでに何か食べ物を買ってきてくれとアザレアさんに頼もうとしたところ、彼女が俺を見る目に困惑に近い複雑な感情が宿っていることに気が付いた。


「ミレウスくん、本当に強くなったねぇ」


「ま、それなりにね。なに、どうしたの、今更」


「いや、もう二年も経つし戦ってるところも何度か見てるけど、やっぱり実感湧かなくて。ごく普通の中等学校(ジュニアハイ)の生徒だった頃のイメージをどうしても忘れられないんだよね」


「気持ちは分かるよ。俺もアザレアさんが魔術師や冒険者になってるのって実感湧いてないし」


 だから彼女が後援者(パトロン)として滅亡級危険種(モンスター)との戦いに従事するのをいつも止めたくなってしまうのだ。実力(スペック)面ではもう彼女が後援者(パトロン)の上位層であることは疑いようがないというのに。


「怪我は、本当に平気なの?」


 眉根を寄せて俺の体をじろじろと見てくるアザレアさん。俺は心配をかけまいと、ことさら明るく振舞った。


「ヘーキヘーキ。知ってるでしょ? この鞘の絶対無敵の加護のこと」


「知ってるけど。でも結局一度はダメージが戻ってきてるんでしょ」


「うん。でもシエナが治してくれたから。この島一の癒し手にかかればあれくらい余裕余裕」


 アザレアさんはハァとこれ見よがしに一つため息をついて、口をつぐんだ。それから(あわれ)みとも呆れともつかぬ眼差しでジトっと見てくる。クラスメイトだった頃、定期テストに挑む前に強がりを言った俺に向けていたような目だ。


「まぁ、なんだ。国民の前で戦うのも初めてだったし、勝ててよかったよ。これで王の威厳とやらが保てたのならよかったけど」


 一回戦すべての日程が終わった剣覧武会は一時休憩に入っており、闘技場(コロシアム)の通路や階段はこの隙に用を足しに席を立つ観客たちでごった返していた。

 聖剣と鞘の力を知らない人々の目には俺の戦いぶりはどう映っただろうか。やたらとタフで剣術と格闘技が達者な王様――たぶんそんなところだろう。彼らが下からこの国王用の観覧席を見上げる眼差しにいい方向への変化があったような気がするのだが、それはさすがに都合よく考えすぎだろうか。


「しっかし凄い臭いだな」


 俺は鼻をつまんで、顔をしかめた。臭いの元はイスカの手元にある不気味な色をした煮凝(にこご)りだ。先ほど、俺とグスタフの試合中にも食べていたポポゼラとかいう伝統料理である。


「おとーさんもたべるー? おいしいぞー」


 と、イスカがスプーンで一口すくって差し出してくれたので、俺は恐る恐る口に入れてみた。ゼリーのような触感がしたかと思うと、ぢゃりぢゃりとした嫌な歯ごたえが口に残る。口腔内に充満する臭気。しかし同時に凝縮された旨味も舌に感じる。好みがはっきり分かれる味だ。シエナが凄い(・・)と評していたのも頷ける。

 が、しかし。


「確かに、慣れれば癖になるかも」


 試合中にグスタフが話していた通りではある。見ると、あの男も闘技場(コロシアム)の向かいにある領主一族用の観覧席に戻って食事をとっていた。何を食べているかまでは見えないが、もしかすると彼もこの料理を楽しんでいるのかもしれない。


 この品がお気に召したのはイスカだけではなかった。ヂャギーに負けた腹いせか、やけ食いをしているデスパー――というか悪霊もこの名物を、きつい臭いも気にせずにガツガツ食っている。しかしそれもすぐに胃袋に収まり、奴はサメのような鋭い歯をむき出しにして、俺に向かって要求してきた。


「オイ、王様! もっと! メシ! 買ってくれヨ!」


「それはいいけど……ヂャギーにぶん殴られた怪我は大丈夫か? お前もシエナに治してもらったのか?」


「アアン!? あんなんちょっと寝てたら治るっツーノ!」


「ああ、そう……」


 相変わらずエルフの再生力は凄まじい。鼻やらなにやら折れていたはずだが、今はもう完全に元通りになっていた。


「あのぉ、ところで陛下」


 と、タイミングを見計らい、おずおずと声をかけてきたのはリクサである。


「決勝では真剣勝負をすると約束しましたが、準決勝についてはいかがいたしましょうか。私とヂャギー、どちらに勝ち上がってもらいたいか、ご希望がございましたら(おっしゃ)っていただきたいのですが」


 彼女の視線は、俺の隣の席でひじ掛けを枕にして突っ伏しているナガレの方に向いていた。

 ナガレはぴったりと(まぶた)を閉じ、スースーと静かな寝息を立てている。


「まったく嘆かわしいことです。こんなだらしない姿を国民に見られては円卓の騎士の沽券(こけん)に関わります」


 自分の酒癖の悪さを棚に上げてリクサが嘆息する。と言っても怒っているわけではないらしい。リクサはアザレアさんから毛布を受け取ると、それをナガレの背中に優しくかけた。


「こうしていると可愛いものですね」


「ホントにね。擬似投影紙(フォトグラフ)でも撮ってやろうかな」


 ナガレの頬を指で(つつ)いてみる。しかしまるで反応がない。


「ぷにぷにして気持ちいいな、こいつの頬っぺた」


「……ええと、それで陛下、今の件は」


「ああ、そうだった。じゃあヂャギーに勝ち残ってもらおうかな」


「かしこまりました。やはりナガレがヂャギーに賭けているから、でしょうか?」


 俺は苦笑しながら首を横に振り、片目をつぶってみせた。


「リクサもさっさと出番を終えて、お酒呑みたいだろ?」


「あ……そ、そうですね! はい、ぜひそうしたいです。さすが陛下、そんなことまで考えてくださるなんて」


 感極まったようにキラキラと目を輝かせるリクサ。先ほどから酒を飲んでいるナガレを(うらや)まし気に見ていたのを俺は見逃していなかったのだ。

 ひさびさにリクサの好感度が上がった感触があった。


 明らかにテンションが高くなったリクサは、巨漢に手招きをして国王用の観覧席の端で声を潜めて打合せを始める。


「それではヂャギー。最初は強く打ちあって、あとは流れでお願いします」


「分かったんだよ! 演技は得意なんだよ! 孤児院のお遊戯会で劇とかやるからね!」


 ヂャギーの方の声はいつもどおりのデカさだったので、周囲の国民に聞かれなかったかとヒヤヒヤした。が、場内はまだ休憩時間で騒然としているため平気だったようだ。


 そう、孤児院。

 リクサではなくヂャギーを決勝の相手に選んだのは、彼を応援してる孤児院の子供たちがいるから、というのも理由の一つではあった。






    ☆






 二回戦第一試合――つまり準決勝の第一試合は打合せどおりの展開となった。


 ヂャギーとリクサは試合開始直後から激しく武器を打ち付けあい、一回戦に行われた円卓の騎士同士の試合にも遜色しない手に汗握る戦いを繰り広げた。観客たちはそれに大いに興奮し、闘技場(コロシアム)は十分に盛り上がったが、他の円卓の騎士たちに言わせればバレないか心配になるようなレベルの三文芝居らしい。


「殺気がゼロだからねー。グスタフくんあたりは気づいてるんじゃないかな」


 とはラヴィの談である。


 俺には芝居とまでは思えなかったが、先ほども話に出た俺が国王に即位した日に円卓の間で起きた一件――幻覚症状を起こしたヂャギーが暴れて、それから俺を護るためにリクサが戦ってくれたあの件と比べて、迫力がないとは思った。今はヂャギーが正気だし、遠くから見ているのだから当たり前だけど。


 結局、試合はリクサが天剣を取り落として体勢を崩したところに、ヂャギーの斧槍(ハルバード)の穂先が突きつけられて終わった。

 会場からは二人に向けて惜しみなく拍手が送られる。どうやらこの試合が八百長だったと気づいた者はほとんどいなかったようだ。


 それからやや時間を空けてから行われた準決勝第二試合は、特に見どころもなく普通に俺が勝った。対戦相手の地方予選の勝者はたぶんかなりの手練れだったのだろうが、グスタフに比べればたいしたことはなく、聖剣と鞘の力の前になすすべもなく散っていった。


 そして第五十回剣覧武会は、いよいよあの(・・)決勝戦を迎えることになったのである。


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【第二席 リクサ】

忠誠度:★★★★★★★★★★★[up!]

親密度:★★★★★

恋愛度:★★★★★★★★

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