第百三十七話 忘れていたのが間違いだった
物心ついたときに俺がいたのは、深い森に囲まれた小さな廃村のような場所だった。
いや事実、そこは廃村だったのかもしれない。元の住民は戦火を恐れて逃げ出したのか、組織によって追い出されたのか――あるいは商品にされたか、殺されたか。
いずれにしても当時の俺はそんなことを考えられはしなかった。まだ幼児だったのだから当然だけど。
その廃村のような場所は“工場”と呼ばれていた。
“工場”にいたのは取り仕切る組織の人間が少数と、それ以外の“商品”が大勢。大勢といっても五十もいなかっただろう。半分くらいは俺のような幼子で、半分くらいは幼子の世話をするために出荷されずに残されたティーンエイジャーだった。
そこでの生活は過酷だったが、“工場”の外での生活を知らないし、そもそも外の存在を知らなかったので不満を覚えることはなかった。
雑穀ばかりの貧しい食事や、幼子には適さない重労働、水汲みや近くの畑での農作業なんかにも不平を漏らしたりはしなかった。不平を漏らした子供が鞭打たれるのを何度も見ていたからだ。もっとも本当に些細なことでも組織の連中は怒ったから、俺も結局数えきれないくらい鞭を打たれたのだけれども。
時折脱走者も出ていたが、そのたび哀れな姿になって戻ってきて、“工場”の中心にある広場で朽ち果てるまで晒された。だから俺は逃げようとも思わなかった。彼らがどこへ逃げようとしてたかも知らなかったし。
“商品”は生まれてから季節が十回くらい巡ったら出荷されるのだと聞いていた。事実、それくらいの歳月を経た子はどこかへ連れていかれた。出荷された先ではここよりさらに酷い生活を送ることになると“商品”仲間たちはいつも噂していた。
それはきっと本当だろうと漠然と俺は考えていた。そしていつかは俺も当たり前のように出荷されていくのだろうとも。
変化が訪れたのは、俺が生まれてから季節を四回巡った頃――だったらしい。
周囲の森の木々が色を変える頃、秋口だったのは確かだ。
朝、いつものように“商品”たちが詰め込まれた家畜用の狭い小屋の中で目覚めると、外が騒然としていた。
怒号や悲鳴が繰り返し聞こえてきた。そのほとんどが組織の人間の上げるものだと俺たちは気づいていたが、だからといって何ができるわけでもなく、ただ小屋の中で震えていた。
しばらくすると外は急に静かになった。
そして小屋のドアが開き、朝日を背中に浴びながら、少女が一人中に入ってきた。
「……ああ、君っスね」
少女は小屋の中を見渡すと俺の方を向いてにっこりと笑い、それから他のみんなに語り掛けた。
「今日から皆さんは自由っス。組織はもうないっス。逃げるなら北がいいと思うっスよ。この工場にある食料とお金は皆さんで公平に分配してほしいっス」
幼子たちはもちろん、ティーンエイジャーたちも事態が飲み込めていなかった。恐る恐る外へ出て行ったティーンエイジャーたちが歓喜の声を上げながら戻ってきてはじめて、自分たちがもう出荷されることも過酷な生活を強いられることもないのだと知った。
“工場”を取り仕切っていた組織の人間は全員、外で意識を失い倒れていた。外傷はなかったが、目覚める気配はないように見えた。
「殺してはないっス。もう何も思い出せないから、死んだようなものっスけどね」
広場で他の元“商品”たちが集まって今後のことを話しているとき、少女は俺に耳打ちしてそう教えてくれた。
「君のお名前はなんて言うっスか?」
俺の返答を聞いた少女は思いきり顔をしかめた。
何故かはその時はよく分からなかったけど。
「『US-30』? いや、それ名前じゃないっスよ。識別番号っス。ああ、USから攫ってきた三十番目の子供ってことっスね。他に名前らしきものはないんスか? 酷いっスねぇ。まぁ女の子にガウィスなんて名前つける人らも五十歩百歩っスけどね」
少女は何やら愚痴った後、腕組みをして目を閉じ、考え込んだ。
「うーん、US-30……US-30……。閃いたっス! 30USっていうのはどうっスか? 竜の王国の伝説の竜騎士の名前っス。きっと勇ましい男の子になるっスよ」
それまでと何が変わるのかよく分かっていなかったので、俺には特に異存はなかった。
少女は満足げに微笑むと、俺に手を差し出してきた。
俺はきょとんとしてその手をじっと見つめた。握手というものを知らなかったのだ。
それに気づいた少女は俺の手を取って握りしめた。幼子だった俺のものと比べてもそれほど大きくないけれど、とても暖かい優しい手だった。
「それじゃよろしくっス、ミレウスさん。あーしはスゥっス。ホントはガウィスって名前っスけど、そっちで呼んじゃダメっスよ」
その時点では、この奇妙な少女のことを俺は名前以外に何も知らなかった。
ただ、好きになりはじめていたことは確かである。
特に提示されなかったとはいえ、俺には他の“商品”たちと行動を共にするという選択肢もあっただろう。それを選ばなかったことがその証左だった。
それから俺と少女は二人で長い旅をした。その間、少女は俺にさまざまなことを教えてくれた。
“工場”の外の広い世界のこと。
俺自身がどういう境遇であったかということ。
話し方、読み書き、その他あらゆる生き抜く術。
大陸と呼ばれる広い陸塊の北東から西に向かって移動していることを、彼女は大きな地図を使って教えてくれた。
「ウィズランドっていう島にあるオークネルって村に行くんスよ。住んでる人はみんな善良で、危険種も入ってこれない楽園みたいなところっス。ちょっと田舎で遊ぶところが大自然以外にないっスけどね。……え? ああ、あーしの故郷と言えば故郷っスね。あーしが住んでた頃はオークネルなんて名前じゃなかったっスけど」
そこで一緒に暮らすのかと俺はたずねた。
彼女は困ったように笑い、否定も肯定もしなかった。
このやり取りは、その後の旅の間に、何度か繰り返された。
「釣りは覚えて損はないっスよ、ミレウスさん。なんてったって楽しいっスから。それに食料も手に入って一石二鳥。オークネルに着いてからも役に立つっス」
川や湖を通るたびに、彼女はそう言って俺に釣りを教えてくれた。
「オークネルにはザリーフィッシュっていう美味しい魚がいるんスよ。いや、魚なのか甲殻類なのかはっきりしないんスけど。あっち着いたら食べてもらいたいっスね」
並んで釣り糸を垂らしながら、そんなことを話してくれたのは印象深かった。
「卵サンドはゆで卵じゃなくてスクランブルエッグから作るのがミソっス。あと塩とマヨネーズの加減も大事っスね」
料理もたくさん教えてくれた。特に彼女が作ってくれる卵サンドは絶品で、すぐに俺のお気に入りの一つになった。
大陸横断の旅は決して楽なものではなかった。少女――少なくともそう見える外見の女性と幼児の二人旅なのだから当然だ。
紛争地帯や悪性魔王の領域、魔族の支配地域などは極力避けたが、それでも多くの賊や危険種と敵性遭遇した。そのたびに彼女はどこからともなく刀を取り出し、俺を護りながら敵を倒した。
そういう時、彼女には怖いものなど何もないように見えた。
どれだけの賊に囲まれようと、どんな化け物に襲われようと彼女は臆したところを見せなかった。
ただ野営をするとき、あるいはどこかの村や街で宿に泊まるとき、彼女は毎晩悪夢を見ているかのように酷くうなされていた。寝床を共にしていたので、俺はそれをずっと見ていた。
「すまないっス、ミレウスさん。眠りにくいっスよね」
彼女は浅い眠りから目覚めるたび、俺にそう詫びた。
眠れてないのはそちらじゃないかと俺がたずねると、彼女は苦笑してそれを認めた。
「そうッス。あーしはもう何年も、何十年も安眠できてないんス。この目の下の隈はそのせいっス。でも仕方ないんスよ。あんなものに一人で対処しろなんて言われたら眠れるはずがないんス」
彼女の言っていることの意味はよく分からなかったが子供心に不憫に思い、俺は彼女の頭を掻き抱いてやった。彼女は困ったように笑って、逆に俺をその胸に抱いてきた。
それからは毎晩そういう風に、彼女の胸に抱かれて眠るようになった。彼女はほんの少しだけ安らかに眠れるようになったようにも見えたが、さすがにそれは錯覚だったかもしれない。
そして秋が終わり、冬を越え、春が過ぎて、夏が来た。
その頃、俺たちは大陸の西端にたどり着き、商業都市同盟と呼ばれる都市群に入っていた。そこから小さな帆船に乗り、十日と少しの航海を経て、俺たちはウィズランド島の港町に降り立った。
「南港湾都市っス。楽しい街っスよ。いつかミレウスさんが再訪することもあるかもしれないっスね」
俺の手を引いて潮の香りがする港を歩きながら、どこか懐かしそうに彼女は目を細めた。
そこからの旅は長くはなかった。
黄金色に染まった小麦畑が続く一帯――大穀物地帯を抜けて島の西部地方へ行き、十字宿場という名の小さな宿場町から緩やかな山道を登った。普通なら一刻ほどの道のりだが、子供の足なので優にその倍はかかった。彼女は俺に歩調を合わせてくれた。
およそ一年の旅を経て到着した目的地は、山間の僅かに開けた土地にへばりつくように作られた村だった。その村、オークネルは聞いていた夢のような話とは違い、ごくありふれた田舎の村に見えた。ただオークの森に囲まれている点は気に入った。“工場”を思い出すからだろうか。酷い生活をしていたとはいえ、あそこは俺の故郷だったから。
田舎の村のそのまた外れ。
『ブランズ・イン』と書かれた木の看板が軒先にぶら下がっている小さな平屋建ての宿屋がそこにはあった。どこか物憂げな二十歳くらいの若い女性が一人で切り盛りしているその宿に、俺たちはその日、宿泊することになった。
彼女は宿帳にエリザベスと記帳した。いくつもある彼女の偽名のうちの一つだ。どこかに泊まるときはいつもそうして本名を隠していた。エリザベス、マーリア、オフィーリア、レティシア、アルマ――偽名はすべて古い友人の名だという。
そしてその日の晩、客室で彼女は唐突に別れを告げた。
「ミレウスさんは、これからこの村で暮らしていくっス。あーしは一緒にいられないっすけど……大丈夫。ミレウスさんはもうあーしの助けがなくても立派に生きていけるっス。一年かけてそう仕込んだんスから。きっとこの村の人たちも――例えばこの宿の女将さんとかも、助けてくれると思うっス。みんな善良だから安心して甘えてほしいっス」
俺は泣きじゃくった。
旅の間に薄々と予感はしていた。一緒に暮らすのかという俺の問いに、彼女が答えなかったから。
彼女は最後に俺を抱きしめて、こう言い聞かせてきた。
「ミレウスさんが王様になったらまた会えるっス。あーしはその時を楽しみにしてるっスよ。それまで少しの間のさよならっス。……優しい王様になってほしいっス、ミレウスさん」
記憶はそこで途切れる。
頬を伝う涙を誤魔化すように笑いながら、彼女がその手の平から刀を取り出すところが見えたような気がしたけれど――。
☆
「うわあああああああああ!!!!」
気が付いた時、俺は喉が痛くなるほどに絶叫して、誰かを止めるように両手を虚空に向けて突き出していた。
スゥが隣で屈んで、横たわっている俺のことを心配そうに見ている。
俺は地面から上半身を起こして、乱れた呼吸を整えながら彼女をまじまじと見た。その優しい顔は今蘇った記憶の中のあの女性と寸分も違わない。
「……か、母さん?」
「よかった。ちゃんと思い出してくれたみたいッスね」
スゥは安堵のため息をつき、あの頃と同じように微笑んでみせた。
俺は額に浮かんだ汗をぬぐって辺りを見渡した。どうやら気絶していたのはほんの一瞬だったらしい。しかしその一瞬で俺は失っていた五歳までの人生を再体験していた。
そうだ。俺は一年間の旅の中で、彼女のことを『母さん』と呼んでいた。
スゥが例の魔神の力で出しているという刀を見せてくる。
「これは斬心刀と言って、生物の魂を斬ることができるっス。斬り方によってはその人の人生の一部――記憶を斬ることもできるっス。もっとも記憶が消えてなくなるわけじゃなくて、思い出せない、認識できないっていう状態になるんスよ。それを治すにはあーしの粘膜を相手の粘膜に強く接触させる必要があるっス。……実際にやったのは初めてだったんスけど、上手くいってよかったっス」
「魂を斬る……ああ、あの魔神将に頭掴まれたときのあの感覚か」
俺は今朝見た夢――スゥが魔神月で単眼の魔神に頭を掴まれて自我が崩壊しかけたときのことを思い出した。
「そうか、ミレウスさんはあれを追体験したんスね。辛かったっスよね」
「ああ。本当に死ぬかと思ったよ」
俺は素直に頷いた。
頭の中を整理する。これで色んなことに説明がついた。何から確かめるべきだろうか。
「君が話した偽の経歴は、ほとんど俺の経歴だったんだな。奴隷工場に助けに来たのは拳法の達人じゃなくて、剣豪だったけど」
「そうっス。嘘を吐くコツは自分じゃない誰かになりきることっス。これ、オフィーリアさんに習ったッス」
ろくでもないことを教えるなよ、と俺は心の中であの精霊姫に毒づいた。
まぁそれはいい。
幼児の頃に聞いても答えてくれなかったことをたずねる。
「分からないのは、どうしてあの工場に君が迎えに来たか――迎えに来ることができたか、だ。今は推測がないわけじゃないけどね」
その問いを想定していたかのようにスゥは詰まることなく答える。
「システム管理者であるあーしには円卓からある方法で指示が届くんスよ。主に円卓に有害な人物を排除しろって指示なんスけど、ウィズランド島外にいる円卓の騎士となる素質のある人や、王になる素質のある子をここに連れてくるようにっていう指示もあるっス。さっき話に出た先代王のフランさんとかもそうっスね。あの子は混沌都市の生まれだったっスから。普通はその人が十分成長してから誘導するんスけど、ミレウスさんの場合、放っておくと王様になれる歳まで生きられなかったみたいなんで早いうちに保護するように指示が出たっス。そんなこと今まで一度もなかったんスけどね。ああ、最後に記憶を封印したのも円卓からの指示によるものっス」
「……やっぱり、そうか」
俺はその言葉の意味するところを受け止めた。
ある強い感情が胸の内から芽生えてくる。
しかしそれを伝える前にまだまだ確認しなければならないことがあった。
例えば今回、スゥが帰還したときのこととか。
「君が剣豪ガウィスだっていうなら同じ初代円卓の騎士であるイスカが反応しないはずないもんな。今回、君が大陸から戻ってきた――ふりをして、カーウォンダリバーで釣りをしてる俺たちの前に現れた時、先にイスカと接触したな。あの時、あの子の記憶を封印したんだな?」
「そうっス。あの子は嘘とかつけないっスから、黙っていてもらうためにはそうするしかなかったっス。ホントに心苦しかったっス」
あの時のことを正確に思い出す。
何かが聞こえると言ってイスカが近くの森に入っていき、何かを見つけたように大声を上げ、そしてスゥと共に帰ってきた。あれはつまり、そういうことだったのか。
俺は矢継ぎ早に問う。
「聖剣が見せる夢の中で、俺が知覚できない人物が一人いた。その場にいるのは分かるのに声は聞こえないし、姿も確認できない人物が。あれは君――剣豪ガウィスだったんだな。ああいうことが起きたのは記憶を消した副作用なのか?」
「たぶんそうっスね。あの宿屋で別れた時、“今この時点より前のあーしに関するすべてのこと”を思い出せない、認識できないようにするように斬ったっスから、そういう現象が起きたんだと思うっス」
「……魔神将のゲアフィリが俺たちに幻覚の魔術をかけた話はしたよな。俺は何か人影のようなものを見た気がしたけど、それ以上思い出せなかった。あれも同じ現象だったんだ。今思い出したよ。あの時見たのは、『ブランズ・イン』で別れたときの君の姿だ」
「ああ、いきなりあーしの姿なんて見たらそりゃもう動揺したはずっスもんね。それは結果的に見ないで済んでよかったと思うっス。怪我の功名っス」
それからスゥは少し伝えるのを迷うようなそぶりを見せた。
しかし結局話すことにしたようだ。
「この斬心刀で斬ると、封印した記憶とは別にその前後の記憶が曖昧になることがあるっス。ミレウスさん、そういう症状は起きてないっスか?」
「あー……うん。ないわけじゃない」
彼女が心苦しくなるだろうとは思ったが、嘘をつくわけにはいかなかった。
案の定、スゥの表情がまた曇る。
「やっぱりそうだったんスね。申し訳ないっス。もしかして、シエナさんに関することっスかね?」
「え! そ、そうだけど」
確かに俺が想像したのは『ブランズ・イン』に引き取られた次の季節にオークネルの近くの森で会った狼形態のシエナに関する記憶のことだ。
あの記憶は即位した年の夏休みに帰郷するまで奇妙なほど不自然に忘れていた。あれも斬心刀とやらの副作用によるものだと考えると合点がいく。
「円卓の指示でしたことなんだろ? だったらそれは君の責任じゃないだろう。でも、なんで分かった?」
「あーし、ミレウスさんのことずっと見てたっスから」
はにかみ笑顔を見せるスゥ。
「ミレウスさんがちゃんと育ってくれてるか、ちょくちょくオークネルへ行って陰から見守ってたんスよ。怪我してないかな、病気してないかな、みんなと上手くやれてるかなっていう風に。シエナさんと出会ったときも見てたし、初等学校に入学したときも中等学校に入学したときも見てたっス。ミレウスさんはあーしといたのは一年だけだと思ってるでしょうけど、あーしは十三年間、ずっと一緒にいたような気分っスよ。だからこそ、責務から逃げ出してしまって、たくさん騙してしまって、申し訳ない気持ちなんスけど……」
結局スゥは今日だけで何度謝ったのだろう。
俺は彼女の肩に手を置いた。昔、初めて会ったときに彼女が握手をしてきたときのように、優しく。
「謝らなくていい。いや、他のみんなには謝った方がいいかもしれないけど、少なくとも俺には謝らなくたっていい。……さっき君からバックれてたって打ち明けられたとき、全然怒る気になれなくて、なぜだろうって不思議に思ったんだ。でも、当たり前だ。俺は君のことだけは怒れない。だって一番の恩人なんだから」
先ほど、どうして幼子の自分を迎えに来たのかという問いに彼女が答えるのを聞いたとき、胸の内に沸き上がってきた感情を彼女に伝える。
思わず、声が震えた。
「スゥ。いや、母さん。……ありがとう。母さんがもしあのとき助けにきてくれなかったら、俺は今頃生きてなかったんだろ? オークネルで暮らすことになったのも王になったのも、全部仕組まれたことだったのかもしれないけど、おかげでこれまですごく幸せな人生を送れたよ。もし生まれ変わっても、また同じ人生を歩みたいと思うくらいに。だから、母さんがしてくれたすべてのことに感謝してる。俺を助けてくれて、たくさんのことを教えてくれて、この島に連れてきてくれて、王様にしてくれて――本当にありがとう」
スゥは呆気にとられたような顔をして、しばし固まった。
それから俺を見つめたまま、瞬き一つせずに、ぽろぽろ泣きはじめる。
「本当に大きくなったっスね、ミレウスさん。あんなに小さかったのに……」
小さな嗚咽を漏らしながら、スゥはその胸に俺の頭を抱きしめた。
彼女の小さな手が俺の髪を優しく撫でる。
俺の目頭からも、熱いものがとめどなくあふれ出してきた。
そこは懐かしき母の腕の中だった。
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【第十席 スゥ】
忠誠度:★
親密度:★
恋愛度:★★★★★★★★★★★★★[up!]
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