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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。

一緒に、いこう

作者: 花散風
掲載日:2016/06/27

登場人物

叶多(かなた)

(しゅう)


叶多視点の語りです。

「俺、死ぬんなら叶多から殺されたいなぁ」


今日どこ行く?って聞いた返事は予想もしない方向から帰ってきた。俺の恋人である柊は俺のベッドに座ったまま、にっこりと笑顔を向けて言葉を続ける。


「だって俺、叶多と死ぬまで、いや、死んでもずっと一緒がいいから。大好きな人に殺されるなら、人生を終えるのも怖くないなぁって」


「俺も死ぬんなら柊と一緒がいい」


ベッドに座る柊のとなりに腰かけて、手を握る。大好きな君と一生を終えるのもいいかもしれない。そしたらずっと一緒にいられる、そんな考えが頭を過る。




俺たちが出会ったのは大学の〈鉱石サークル〉。ただ、鉱石サークルとは名ばかりの変人がたむろする場所だった。

俺が大学2年の頃、この石拾いサークルと呼ばれるところに、新入生の柊が来た。


「あのー、鉱石サークルってここで合ってますか?」


そのとき、俺は目を開いた。まだ大学に入ったばかりで初々しい態度。このサークルには似合わなそうな、うすい体。不安そうに覗くその表情は、整った顔立ちをよりいっそう際立たせている。

かわいらしい人だな。第一印象はそんな感じだった。この人と仲良くなりたい。そう思った俺は先輩を差し置いて、返事をした。


「あってるよ。ようこそ鉱石サークルへ」



それから俺たちは、すぐに仲良くなった。

一緒に鉱山に登って石を採掘したり、博物館に行って展示されたものを見たり。休日にはサークルと関係なく、町へ遊びに行ったりもした。同じ趣味を持っているのは、このサークルで出会ったときからわかりきってはいたのだが、駅で見かけた誕生石を見つめて

「こういうのも好きなんですよー」

と言った柊に、俺は驚いた。だって俺も同じ趣味を持っていたのだから。

「俺もだよ」

そのときは何でもない風に返していたけれど、今思えば、もう柊に恋に落ちていたんだと思う。もちろん、あのときの驚いたように、嬉しそうに微笑んだ柊の顔は、今でも覚えている。



それから、数ヵ月後、自分の思いを自覚したときは、柊に引かれるかもしれないと不安になった。俺から離れていったらどうしよう、友達でもいいからずっと一緒にいたい。そんな思いとは裏腹にこの思いはどんどん大きくなっていって。

しばらくしたときには、俺はサークルを休みがちになっていた。

柊と顔を会わせた自分が、何を口走るかわからないのが怖い。



そんな俺のところに柊はやって来た。


「叶多先輩。どうして最近、サークルに来ないんですか?」


柊のことが好きだから。そんな風に言えるわけもなく、俺は無言で柊とすれ違った。


「俺のこと嫌いになったんですか」


「違っ...!」


後ろから聞こえたその言葉に、咄嗟に振り向いて否定しようとした。だがその言葉はすぐにかき消された。俺が振り向いたとき柊が涙目でこちらを見ていたから。


「俺は、叶多先輩が、好き、なのに...」


つまる声で発された言葉は、とても衝撃的で。まさか、本当に?思考もままならないまま固まる俺に、柊は語り続ける。


「気持ち悪い、ですよね。スミマセン。何度も、あきらめようと、したけど、でも、っ」


涙をポロポロと溢す柊に俺は近づいて、腕のなかに収める。


「ふぇ、せんぱっ....」


「俺もっ好き、だから。ずっと柊が好きだったんだ。柊も同じ気持ちだと思わなくて、怖くなって、逃げてた。今、すっげぇ嬉しい」


柊が驚いたように目を見開いて俺を見る。でも、涙で潤んだ瞳は不安を隠しきれていなかった。だが、俺も知らなかったんだ、両想いだって。こんなことならもっと早く伝えていればよかった。しかし、不思議なことに、後悔はやってこない。


「叶多先輩...」


「叶多って呼んでくれないか?あと敬語もやめてほしい」


「...わかった、叶多、好き」


俺たちは触れるだけの優しいキスをする。今までの分を取り返すくらい、柊を愛してやる。ここが大学のなかだということも忘れるくらい、俺は柊しか見えていなかった。柊を力強く抱き締める。そのまま俺たちは恋人という立場になった。



しかし、そのときの状況は噂となって、知らぬ間に大学内に広がっていた。噂はさらに噂を呼び、俺たちへの世間の風当たりは強くなっていった。

「男同士とか...」

「将来のことを考えろよ」

「お前ら、本気で言ってんの?」

何度も聞いたその言葉は、俺たちを社会の異物だと決めつけているようで。俺たちが互いさえいればいい、というように考えるようになるのにそう時間はかからなかった。そして、そんな世間から離れるように、二人だけで過ごす時間が増えていった。


「叶多がいれば、他なんてどうでもいい」


そんな風に言う柊が、とても愛しく感じて。俺だけを見てくれるって、とても嬉しいよ。俺も、柊、君がいてくれれば、もうなにもいらない。




「叶多、叶多?」

ボーッとしていたようだ。柊は俺の顔を心配した表情で覗き込む。その仕草もまた愛らしい。「大丈夫だよ」そう言うと、柊は安心したように俺の手を握る。


「愛してるよ、叶多」


本当に、かわいいな。そう思いながら柊の唇に触れる。すると柊は答えるかのように舌を出した。小さな水音が聞こえてくる。

しばらくして、口元が離れると柊は、はぁっと熱い吐息をこぼした。


ゾクリ。艶っぽい柊の仕草に触発され、俺は柊の首もとに顔を埋める。


「んっ、叶多?」


柊は不思議そうに、俺の名前を呼ぶ。だが俺は気づかない振りをして、柊の首に強く吸い付いた。

口を離すと、そこには赤い痕が残っていた。


「キスマーク。俺のものだっていう証拠。他のとこ行くなよ」


そう言うと、柊は顔を赤らめて「じゃあ」といって俺に近づいてきた。柊も同様に俺の首もとに顔を埋める。その瞬間、痛みが走った。キスマークをつけたような軽いものじゃなく、そう、噛まれたような...。驚いて柊を見る。


「お返しっ。叶多のこと、本当は、誰にも見せたくない。ずっと俺のものでいて」


なんてやんちゃなことをするんだろう。舌を出して笑う柊は、とても愛くるしい。


「それはこっちの台詞だよ。もし他の奴のところへ行ってしまうなら....」


「殺してしまうかもしれない、だっけ?でも、叶多に殺されるなら本望だなぁ」


ふんわりとした声で遮られる。でも、本当に柊を殺したとしたら、多分すぐに、後を追いかけるだろう。きっと。


「早く、こんな世界とさよならしたい。叶多もそう思うよね?」


柊は袖をつかんで、じっと、俺の顔を見つめる。

ああ、そうだ。周りが俺たちの幸せを邪魔をするなら、俺たちがどこかへ行ってしまえばいいんだ。二人で、一緒に。


「じゃあ、」


愛する柊と共に、世界を去ろう。もちろん、君の最後の時間は、俺の手で。



「柊は俺たちの最後はどこがいいと思う?空がいいかな。それとも山?海?」


俺は柊を後ろから抱きかかえながら静かに聞いた。柊が行きたいところなら、何処だってつれていくよ。


「うーん。....海がいいな。叶多と初めてのデートで行った、海」


少し悩んで、柊は答えた。

俺たちの初めてのデートは海だった。予定では山に行くつもりだったのだが、電車を乗り過ごし、気づいたときには海へ到着していた。俺たち、なにしてんだろう、と笑いあって過ごしたひととき。そのとき買った、レジンでできた鉱石のような青い石は大切に、引き出しに保管してある。

柊はまた、ふわりと笑う。何度見ても飽きない。彼と一緒にいることは、俺にとって一番大切なことだと改めて実感する。


「いいな」


そして俺たちは二人で、この下らない世界から去ることを決めた。




「叶多、お願い」


俺は柊にナイフを突き刺した。どうしてだろう、俺の視界が滲む。なぜ俺は泣いているのだろうか。

柊は一瞬表情を歪めたが、すぐに笑顔になって俺を見つめる。だが、その表情はいつもより痛々しくて。痛いよな、ごめんな。何に謝っているのかもわからなくなる。この感情は、一体なんと表現すればいいのだろう。ただひとつわかるのは、今、目の前にいる柊が嬉しそうに笑っているということだけだ。


「叶多、愛してる。こんなこと任せてごめんね。叶多、ごめん」


謝らなくていい。俺は柊を愛しているんだ、君が望むことなら何だって。俺は柊を抱きしめる。徐々に脱力して、すべてを俺に預ける柊を抱えると、涙が止まらない。でも、弱くなる息と意識のなかでも、柊はいつもみたいに笑って俺に言うんだね。

「....ありがとう」

って。俺を写す瞳はゆっくりと閉ざされた。そして、柊の完全に尽きた命は穏やかな顔をしていて、とても幸せそうだった。


「ごめんな。先に行っててくれ、俺もすぐに追いかけるから」


そう呟いて、柊にキスをした。まだ暖かい。柔らかな唇はまた「叶多っ」と俺の名前を呼ぶような気さえした。

一瞬でも柊と離れるのは耐え難い。俺もすぐに行かなければ、早く、柊と、一緒に。俺はいつも使っていたリュックに柊との思い出を詰め込む。初めての一緒に行った山でとった鉱石。川原で発掘した化石。博物館で買った鉱石の数々。もちろん引き出しの青いレジンも。重くなったリュックはすべての思い出をよみがえらせる。抱きしめたときに赤く染まった手も。染めたのはすべて柊のものだと考えると嬉しくなって、笑みがこぼれた。


「柊....」


俺は柊を抱き上げ、車へ運ぶ。俺のポケットで、瓶に入った薬がカランと音を立てた。



「あそこが前に行った店だよね」


シャッターの閉まった店を見つけては、助手席に座った柊に話しかける。


「ほら、こっちも」


今は愛してるとも、好きだとも言ってやらない。すねた柊はかわいいから。後でその顔が見たいんだ。俺はククっと笑った。


「それにしても、今日はサイレンの音がうるさいな。....あぁ、ごめんね。もう少しで海だよ」


街で光る赤いライトは後ろに遠のいていく。月の周りには星が見えてきた。


「今日は、月が綺麗だね」



車を止めると、誰一人としていない海岸で、波の音が響いていた。ドアを開けると海の匂いが鼻をくすぐる。太陽はもう沈みきっていて、月明かりだけが俺らの最後を見てくれていた。

俺はリュックを背負うと、柊と俺の手首を手錠で繋ぐ。遊びに行ったとき冗談で買った手錠がこんなところで役にたつとは。

そのまま柊を抱き抱えて、波へ向かう。柊は俺の腕になかで静かに眠っている。


「今、行くからな」


車のなかから空の瓶が地面に落ちて、ポスッと鈍い音を鳴らした。

靴を履いていない足は、柔らかい砂にのみ込まれそうになる。だが、あっちへ行くことを引き留めている感覚ではなかった。一歩、また一歩と進むたび、砂は水気を帯びる。静かに揺れる波が俺たちを、彼方遠くへ導いてくれるように感じた。

リュックいっぱいの石が足元をぐらつかせ、後ろに倒れそうになる。


「おっと、」


なんとか、不安な足取りになりながらも、倒れないように力を入れる。ジャラっと鎖が音をたて、俺たちを決して離さないと告げた。この重い石たちも、俺たち二人の大切なものだと考えるようにすると、不思議と軽く思えた。柊の体を再度、しっかりと抱える。


さあ、行こうか。


海へ足を踏み入れた。ヒヤリとした感覚が足の表面に触れる。戸惑う気持ちを押さえながら、そのままゆっくりと前へ進むと、膝まで波が襲ってきた。ズボンが濡れて肌に張りつく。驚いて、一瞬止まった足をまた前へ。一歩、一歩。徐々に見えなくなる足元と、水を吸って重くなる服。腰元まで入ると、もう膝も曲がって、体を支えるのがやっとの状態になっていた。だが、冷えていく体とは裏腹に、心は温かくなっていく。


はやく、柊のところへ。


あの、かわいい笑顔も、はしゃぐ仕草も、愛してるっていってくれる心も、体も声も。全部俺だけのものになる場所へ。柊、好きだよ、大好きだ、愛してる。やっと二人だけの世界に行けるんだ。

柊のからだが海に触れて。服から海に赤が少しだけ流れた。柊をしっかりと抱き締めて歩くと、足の感覚がなくなる。地に足がつかなくなった。

でも、もっと深く、奥へ。誰にも邪魔なんてさせない。


月が雲に隠れて辺りが暗くなる。それと同時に眠気がやって来た。重くなるまぶたに誘われて体の力を抜くと、柊のからだが重りとなって、俺たちはの海の中へと沈んでいく。

まだ続く意識のなか、重いまぶたを開けると、海水はカルカンサイトのように、辺りを眩しいくらいに青々と染めていた。いや、色の変わり方からアイオライトの方が正しいかも知れない。

別名、ウォーターサファイアとも呼ばれるアイオライトは、柊が好きな鉱石のひとつ。一途な思いを貫くという意味を持ったサファイアを度々見つめる柊に、俺も愛してるよって伝えるのが定番となっていた。

その色に包まれるなんて、なんて幸せなんだろう。

あとから沈みはじめた、俺の上にいる柊を抱き寄せる。柊の腹部からはまだ止まりきっていない血が海面へ延びていた。

いつの間にか、雲から顔を出した月が、ゆらゆらと揺れている。どちらが上へ、どちらが下かもわからなくなる、宙に浮くような感覚。そんな中でも、近くには柊がいる。それだけで他はもうどうでもよくなって。

俺の意識は薄れて、途切れかけていた。わずかに働く思考に促され、俺は柊に声をかける。


「ずっと、ずっと一緒だよ、柊。二人の世界に....」


音にならない言葉は、水に溶けて、海のなかに消えた。柊の体が重力に身を委ねて、俺を海の底へ誘う。

アイシテル。




太陽が姿を現すとき。

海の中心で小さな気泡がパチンとわれた。

誰かがそれに気づいたときには、海はいつもと変わらない表情を取り戻していた。










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