91:ラストバトル 3
戦況はハミルトンが銃を持った近代化兵士の軍勢を召喚して春人が防戦一方となり、押されに押されて、終いには軍勢の止まらぬ攻撃に春人はやられそうになっていた。
が、そんな時に予想だにしなかった援軍が春人の元へ駆けつけた。この世界で知り合い、交流を深めた国々の軍隊からワイバーンに騎乗した竜騎兵隊が現れたのだ。
これで押されていた春人と押していた死神部隊の間の戦力は五分五分となった。
「これは流石に予想していなかっただろうハミルトン! これで戦力は五分だ。お前がどれだけの兵士を召喚しようとも彼らがそれをことごとく焼き尽くすだろう」
「だが所詮は有象無象の雑兵に過ぎない。近代兵器の前ではあんな前時代的な兵器もドラゴンも全てただの動く的でしかない。さあやれ! 空の雑魚どもを一匹残らず撃ち落とせ!」
その命令を実行するために彼が召喚した兵士たちは今度は空に向けて発砲を始めた。あの軍勢の標的は春人からトリスタニア王国、ベルカ帝国の連合軍へと切り替わったようだ。
そんな時、春人とハミルトンの間を遮るかのようにワイバーンからのブレスによって巨大な炎の壁が出来上がった。それから春人の横に一体のベルカ帝国側のワイバーンが降り立った。
そしてその背から誰かが下りてきた。その姿は兵士のそれではなかった。
「ハルトさーん」
春人の視線の先に居た相手。それは、その相手はもう会えないかもしれないと思った相手、最愛の彼女。アリシアだった。彼女の金髪の長い髪に同じ色の尻尾と獣耳を見間違えるはずはない。
「アリシア……? アリシアなのか? この大馬鹿者が! なんでこんな危険な場所に来た!」
「なんでって、ハルトさんは私を一人先に王都へ帰して自分は一人で帰れる保証もない戦場にでて……。そんなの私が許すと思ってるんですか?」
「許すも何も……これは俺がやらなきゃいけないことだ。アイツとケリをつけて世界を守る。それが俺がこの世界に呼ばれた理由だ。その戦いにこの世界の人間を巻き込みたくなかったんだ。決して少なくない損害が出るだろう。それはどうしても避けたかった。……アリシア、援軍を呼んだのは君だろう? それには感謝する。だがアリシア、君は、君だけは生きていてほしい。だから……帰ってくれ」
いつもならば春人はこの後に「俺も必ず帰る」と言っているところだがこの時はその台詞が出てこなかった。帰れないかもしれないということを覚悟していたからだ。そしてその声は微かに震えていた。
「あなたの最愛の彼女がこうして援軍を連れて死地へと赴いたのに帰れとは酷いんじゃないですか? ハルトさん」
そう言ってきたのはワイバーンに騎乗していたもう一人の相手だった。
兜を被って顔は見えないが女性のその声には春人も聞き覚えがあった。
そしてその彼女は被っていた兜を外してその顔をあらわにした。
「お久しぶりですね、ハルトさん」
「貴女は……ルイズ皇女殿下。何故この様な所に?」
その相手はベルカ帝国の現皇女であるルイズであった。
「何故って……彼女から貴方に手を貸してくれという言伝を貰ったから精鋭を引き連れて馳せ参じたという次第ですよ。ここの勢力を倒さないと世界が滅んでしまうってことも聞いてますよ」
「ならば話が早い。だが手を貸してくれなんて貴女方に頼んだ覚えは――」
「ここは私たちの世界ですよ? 自分たちの世界は自分たちで守る。外の者にどうこうされる筋合いなんてないですよ。それに、ハルトさんには借りがありますからね。この場でその借りを返させていただきます」
「……感謝する。それでは殿下、アリシアを頼みます」
「任せなさい。彼女には傷一つ付けさせません」
ルイズは自身の胸に手を当てアリシアを守るといった。以前は微塵も感じられなかった頼もしさも今では心強く感じられる。ここ数ヶ月で彼女はとても成長したようだ。
「そういうわけだアリシア。来てくれて早々で悪いけど、殿下と一緒に安全な場所へと非難してくれ」
「その前に約束してくれますか」
「約束?」
「ほら、いつもみたいに必ず帰ってくるって」
「……分かった。約束しよう」
「約束しましたからね。帰ってきてくれないと一生許しませんからね!」
そう言うとアリシアはいきなり春人の首に手を回し、頬にキスをした。
「今のはお守りです。必ず、必ず約束は守ってくださいね!」
最後にそう言って彼女はルイズが騎乗するワイバーンの方へと駆けていった。そして二人を乗せたワイバーンは空高く舞い上がっていった。
「そうだな、必ず帰らないとな。その為にはまずアイツを倒さないとな」
春人は炎の壁の向こうに居るであろうハミルトンの方へと視線を送った。そしてこのタイミングを好機と感じハミルトンを倒す事のできる武器をMTから取り出した。
強化外骨格を撃ちぬく銃は確かに有れど、装弾数が少ないシモノフ対戦車ライフルしか持っていない。リロードする際にやられてしまう。ならば選ぶ武器は一つしかない。
銃の世界のゲームの中で異質でこの世界観には場違いな武器。そして一度振るえば戦車でさえも切り裂く事が出来る最強の近接武器。
――その名も高周波ブレードである。
武器を手にした途端、まるで空気を読んでいたかのように目の前の炎の壁は消え去り、再度春人はハミルトンと対峙することとなった。
視界が開け、間に障害物が無くなったことで春人はハミルトンが立つ高台へと跳んだ。
「ようジーク。随分待たせてくれるな」
「あぁそうだな。待たせたな。これでケリを付けようじゃないか?」
春人は腰に差している高周波ブレードが収められている鞘に手を添えながら言った。この勝負ですべてが決まる。
「いいだろう。お前を切り刻むのもまた一興。相手にとって不足無しだ。さあ、殺し合おうぜ?」
ハミルトンも両腰に差している二本の巨大な高周波マチェットを抜いた。
「さあ来い! ジーク!」
両手に高周波マチェットを握るハミルトンは叫んだ。それに対し春人は中腰の姿勢を取り左足を一歩引き、左手で鞘を握り右手では柄に触れそうで触れない距離で構えた。所謂居合の構えを自分なりにアレンジしたものだ。
「……いざ、参る!」
ここに後世に伝説として残る剣戟が始まった。




