90:ラストバトル 2
「この世界のために、俺の怒りを鎮めるために今日ここで死ね!」
火災で周囲の景色がオレンジ色に染まる中、春人はビルの残骸の上に立ちはだかるハミルトンに向けて叫んだ。
「殺す? 俺を? ここまで来るのにどれだけの弾を消費した? もう弾が残ってないその銃で俺を殺せるのか?」
ハミルトンが言う通り春人の両手に持つM240はこの時点で既に残弾は数十発しか残っておらず、ハミルトンと戦うには心もとない。先ほどのサミュエルの時やミシェルの時のように不意を突いたり、既に大ダメージを与えていれば違ったかもしれないがそうではない。
五体満足で戦闘準備が万全なハミルトンが真正面にしかも高い位置から見下ろすように春人の前に立ちはだかっているこの状態では下手に動けばこちらがやられる。
春人は舌打ちをしながら両手に持っていたM240を投げ捨て、同時に背部から生えていた計4本のサブアームを基部からパージして身軽になり、MTから新たに武器を取り出そうとした。
「そうはさせるか!」
ハミルトンは春人に新たに武装させまいとM134ミニガンで掃射してきた。
モーター音と共に吐き出される大量の銃弾を前に春人は武器を出すことが出来ず、逃げて身を隠すことしかできなかった。やはり予想通りほんの少しの隙でさえハミルトンはそれを見逃さず、そこを突いてきた。
「クソッ! やはり思い通りにはさせてはくれないか。だがこの一瞬、隠れられたこの一瞬で再武装ができる」
逃げて瓦礫に身を隠した先で春人は再度武装をすることができた。この時でさえハミルトンからの掃射は止まる事無く続き、その連射速度は先ほどの春人のM240での掃射速度を大きく上回った。
「どうした? 俺を殺すんじゃなかったのか? 隠れていては何もできないぞ?」
ハミルトンは引き金を引いたまま春人を挑発する。
「知ってるさ。だから次は俺のターンだ!」
挑発に乗る事無く春人は瓦礫の物陰からハミルトンのいる方目掛けて2発のスタングレネードを投げて相手の視界を奪おうとした。
「甘い! 甘すぎるぞジーク!」
ハミルトンは投げられたスタングレネードを迎撃しようとミニガンの矛先をそちらに向け、撃ち落とそうとしたがスタングレネードが起爆する方が早かった。
「なに!?」
瞼を閉じて閃光から目を守ろうとしたがコンマ数秒ほど遅く、ハミルトンの視界は一瞬にしてホワイトアウトし、同時に強烈な炸裂音でわずかの間彼に耳は難聴に陥った。
「もらった!」
この隙に春人は物陰から飛び出し、それと同時に愛銃P90をハミルトンへと向けた。春人と同じく強化外骨格を纏ったハミルトンに5.7mm弾は効果がない。狙う先はM134ミニガンであった。狙われたミニガンは機関部や銃身に何発もの銃弾を受け、それは決して見過ごすことのできないダメージとなった。
ダメージを負ったミニガンは銃身基部から二つに折れるように壊れ、ハミルトンの手から離れた。そして銃としての役目を二度と果すことのできない鉄くずのガラクタへと変わり果てた。
手元で銃がダメージを追って壊れ、手中から離れていったとしても強化外骨格を纏ったハミルトンにはかすり傷一つ付くことはなかった。
「虎の子のミニガンはこれでご臨終だな」
物陰から身を乗り出し、P90を脇をしっかり締めながら構えている春人はハミルトンの眉間に照準を定めながらそう言った。
「どうやらそのようだな。まあこんなオモチャで遊んでもお前は殺せないからな。で、P90で俺を殺せるとでも思ってるのかお前は?」
「流石にP90の弾じゃ強化外骨格の装甲は貫けないのは誰でも知ってることだろう? だがそのむき出しの眉間はどうだ? そこを動かなきゃ1発で確実に仕留めてやる」
「ははは、確かにそうだ! 俺の眉間を見事撃ちぬければ確かに殺せるだろう。だがそう簡単にやらせると思うか?」
ハミルトンがそう簡単にはやらせないと言った途端彼のすぐ後ろの空間が歪み始め、次第に青白い光を放ち始めた。戦場でなければ摩訶不思議な光景としてずっと眺めていられただろうが、今はそんな悠長なことはしていられない。
春人は今これから起こる事象に最大限の警戒をした。
そしてすぐにそれは起こった。
その青白く光り歪んだ空間から銃を持ち完全武装した兵士が何十何百もの数で津波の如く押し寄せてきた。その中には先ほど倒したばかりのサミュエルや潜水艦を奪う前に倒したミシェルの姿も確認できた。
突如として何もない空間から現れた数多もの兵士に春人は絶句した。
「それが……お前の能力だとでも言うのか?」
「そうだ! これが俺の、俺だけが持つことを許された能力だ! この能力が有れば世界を統べることはおろか一瞬にして滅ぼすこともできる最強の能力だ!」
「それで世界征服でもしようってのか!?」
「俺が望むのは力こそ正義の完全実力主義の世界だ。それを築き上げるのにこの力は最も効果的だ!」
「この腐れチート野郎が」
春人は悪態を付きながらも続々と数を増やしつつある敵兵士の軍勢にP90で応戦している。それでも焼け石に水で春人が押されていることに変わりなかった。
「やあジーク。さっきはよくもやってくれたな。これは倍にして返してやる」
「ジーク! この野郎、不意打ちで背中を撃ちやがって! 絶対殺していやる」
軍勢の中からサミュエルとミシェルの春人を恨む声が聞こえてくる。どうやら死ぬ寸前までの記憶は引き継がれるようだ。経験が引き継がれるとはなんとも厄介な能力だ。
今現在も無尽蔵に何の制約もなさそうに生み出される無数の近代化兵士の軍勢から今度は春人目掛けて雨霰の如く銃弾が飛んでくる。それでもそれらの銃弾は5.56mm、たまに7.62mmクラスの銃弾がせいぜいで別に脅威とはならない。生身の部分である頭部さえ守れれば、であるが。
いくら脅威とはならないとはいえ、秒間辺り数百発以上もの銃弾が自分自身目掛けて飛んでくるのは相当なストレスとなることは明白である。
「ウザい……これはウザい。これはどう打開する……」
M240は既に投げ捨てて、回収する暇なんてない。そして手持ちの7.62mmも既に撃ち尽くして完全にゼロである。グレネードや他の武器を出す暇すら無い。
春人にはもう撃つ手すら残っていなく、もうこれは八方塞がりである。
「これは何とも言えない素晴らしい見物だ! かつての伝説的存在が今雑兵に押されて今散ろうとしている。さあジーク! その哀れな最期をこの俺に見せてくれ!」
ハミルトンの高笑いする声が幾多もの銃声の隙間から聞こえてくる。
俺はここまでなのか? ここで終わってしまうのか? 諦めが脳裏をよぎった。
アリシアを残して俺は死ぬのか?
そんな時だった。空からいくつもの火球が目の前の敵の軍勢へと降り注いだ。そして地面を敵兵士の軍勢を灼熱の炎で焼き払った。
「一体何事だ?」
春人は今起こった出来事を理解できなかった。それはハミルトンも同様であった。そして二人は同じタイミングで空を見上げた。
見上げた空に存在したのは無数のワイバーンだった。それも数十体などといった生半可な数ではなく少なく見積もっても数百体以上は飛んでいた。
「バカな!? この辺りの原生生物の生息地は粗方排除した筈だ!」
ハミルトンはこの状況に驚いているが、春人は違った。
「あの馬鹿野郎どもが。どうやってここを見つけたんだ……」
春人には頭上のワイバーンの群れの中に見慣れた二つの紋章があったことを見逃さなかった。
一つは言わずと知れたトリスタニア王国の紋章、そしてもう一つはかつて革命戦争に協力した相手、今はルイズ皇女が現政権を掌握しているベルカ帝国の紋章だ。
なんで彼らがここに居るのかは分からないが、春人にとって彼らは援軍であることには変わりはない。
「本当に……どいつもこいつも大馬鹿野郎だ……」
春人は呆れながら空からの援軍を眺めていた。
この時だけは春人も、死神部隊の軍勢もハミルトンも、地上にいた全てのものの動きが止まっていた。
一方その頃の上空では――。
「居たぞ。あそこだ! これより我々は我らの英雄の援護に入る。間違えても彼を撃つなよ?」
「「「了解!」」」
「王国の精鋭に後れを取るな! 私達も救国の英雄の助太刀するぞ! 皆、私に続け!」
「後れを取るな! 我らも皇女殿下に続け!」
「「「応!」」」
一時は敵対関係にあった両国も今では互いに手を取り合って協力関係を結び、春人の援軍へと駆けつけてきた。そしてその中にはこの援軍をここに送るように懇願した立役者の存在も混じっていた。




