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86:海賊討伐 3

 足を止めた偽装商船に対し海賊たちはここぞとばかりに接近し、河川哨戒艇を偽装商船の両舷に接舷させてきた。


「いいか、手筈通りにやれ。奴等はまだ俺達の正体に気が付いていない。今この一瞬の好機を逃すな」


 甲板上で今にでも乗り込んで来ようとする海賊を迎え撃つべく、春人は最後の指示を出していた。なるべく船の外に聞こえないよう適度な声の大きさで。


 その間海兵達は船の縁に外から見えないようになるべく姿勢を低くしながら攻撃の号令が掛かるのを今か今かと待ち構えていた。その手に矢がつがえられたクロスボウを構えながら――。


 既に撃つ準備は出来ている、後は号令が掛かるのを待つだけ。緊張感立ち込める甲板上はとても静かだった。それも海兵達の生唾を飲み込む音が聞こえてきそうな程に……。


 その静寂を切り裂くように河川哨戒艇から伸びてきた梯子が船の縁に勢いよく打ち付ける音が響いた。


 梯子が掛けられたと同時に海兵から「号令はまだですか?」という声が微かに聞こえてくる。


――仕掛けるならばこの一瞬が妥当だろう。


 春人は勝負を仕掛けるならこの一瞬だと感じ、身近に居たシャーロットに攻撃開始の指示を飛ばした。


「攻撃開始」


 その言葉はとても淡々としていた。


「総員攻撃開始! 海賊共に目にもの見せてやれ!」


 春人から指示を受け、シャーロットは全海兵達に向けて盛大に攻撃開始の号令を飛ばした。


 号令が出てから最初の攻撃が始まったのは一瞬だった。シャーロットの号令の直後、海兵達は一斉にその身を乗り出し眼下に接舷している海賊の河川哨戒艇の、特にM2重機関銃に付いている射手に向けて一斉に矢を放った。


 突如として頭上から降り注いできたクロスボウの矢に海賊は成す術もなくその身を貫かれた。M2の射手は元より、梯子を伝って登ろうとしてきた海賊、海賊が使用していた河川哨戒艇にも矢は降り注いだ。


 この一瞬で放たれた矢の数は総数数十にも及んだ。そしてその内の数本は河川哨戒艇の甲板に突き刺さっていた。


 海賊は予想だにしていなかった攻撃によって一瞬戦意を喪失した。今の今までただの商船だと思っていた船から無数の矢が飛んできたのだから当然と言えば当然だろう。


「どうした野郎ども! 動ける奴は撃て! 乗り込め! 矢をつがえている間に船を奪うんだ!」


 一番に戦意を回復したのは海賊の頭目だった。この男は船に近づく間に船から感じられる違和感にいち早く気付き、どんな事が起きてもいいように身構えていたからだ。


 その頭目の攻撃の指示から間髪入れて海賊たちは手にしていた自動小銃を目の前の偽装商船、その上部甲板目掛けて一斉に発砲してきた。


「連中とうとう撃ち始めやがったか。AK47あたりの発砲音だけでM2の音がしないな? 射手は死んだか?」


 春人が思った通り、最初の奇襲でもって接舷していた河川哨戒艇のM2に付いていた射手は皆クロスボウによって射殺されていた。これにより一応は最も驚異のある武器は一応封じることが出来た。


 そうこうしている間にも海賊から絶え間なく銃弾が撃ち込まれてきている。その弾は船体に取り付けた簡易装甲板によって遮られている。それでも装甲が施されていない場所は所々弾が貫通している箇所が見受けられた。


――所々床が薄い所が有るな? まあ所詮は元が商船なのだから仕方無いのか?


 戦闘の最中だと言いうのに春人は流暢に今のこの船の状況を分析していた。その姿は呑気だとも気が抜けているようだともとれる姿だった。


「隊長、ハルトさん。この後はどうすれば!?」


「頭を上げるな、撃たれるぞ? 連中には好きなだけ撃たせておけ。いずれ弾が切れる、そこを狙え。それと連中は誰一人として船上に上げるな。誰かあの梯子を外せ」


 注意を促すとともに簡潔に指示を出した。


 春人は全ての決着をこの場で決める気だった。こちらの位置が上だという位置的有利を活用してなるべく人的損害を出さないようにして勝つ気でいた。


 だがそれでも銃撃によって身動きが取れない現状、海兵達は誰一人として梯子を外しに行くことはままならず、ついには海賊の船上への侵入を許してしまった。


「へへ……随分と手こずらせや……がっ……て……」


 甲板に上がってきた海賊が目にしたものはフル装備の海兵達の姿であった。この時になってようやく海賊は自分達が襲った相手が商船では無いと確証した瞬間だった。


「な、何なんだお前等は!?」


「お前を船に招いた覚えは無いんだがな? 速やかにご退場願おうか。……殺れ」


 淡々とした冷たい言葉が海賊を招いた。その直後クロスボウから放たれた矢によって胸を貫かれ、なす術もなくこの海賊は即死した。


「だから上げるなと言ったのに……。いや、もう遅いか?」


 気が付けば既に甲板上に数人の海賊が上がっており、その手に持つAK47の銃口が海兵達に向けられていた。


「こいつら商人共じゃねぇ! 王国の犬どもだ! 全員ぶっ殺せ!」


「死ぬのはお前達だ! 総員戦闘開始! 奴等に目にもの見せてやれ!」


 海賊の怒号とシャーロットの檄が同時に飛んだ。


 それからは船上を舞台に混戦が繰り広げられた。海兵のクロスボウの矢が海賊の躰を貫いたり船体に突き刺さったりしている。また同時に海賊のAK47から放たれる銃弾が海兵の躰を抉り、そのまま貫通した弾が船体に弾痕を残している。


 数では海兵が有利だが連射が効きかつクロスボウよりも高威力の銃を持つ海賊の前では防戦一方、不利な戦いを強いられていた。これは隠れられる場所が無いという事も原因の一つだろう。


 そしてお互い撃ち尽くしたクロスボウや銃を投げ捨てて剣での戦闘に入った。これはリロードなどしていたら相手にやられること必至であるからその隙を作らない為に選んだ結果なのだろう。


「これは完全に予想外だ……。迂闊だった」


 更には河川哨戒艇がこちらに向けてM2重機関銃を撃ち放ってきた。


 こうなるとは流石に予想外であった。緒戦から終盤までこちらが一方的に相手を討ち倒す算段でいた春人であったが、こう混戦になってはどうしようもない。


 はじめから後先考えずに河川哨戒艇を沈めてしまえばよかったとさえ今となっては思っているくらいだった。


「ハルト君どうする? 数では勝っているが、いずれこのままでは……」


 銃の脅威を目の当たりにしてシャーロットが春人に意見を求めている。


 このままではこちらが押され、最後にはこの船が沈められる可能性すらある。


「シャーロットさんは船上の雑兵共を蹴散らしてくれ。俺は下の銃座に付いている喧しい奴等と頭目を相手してくる」


 今の今まで戦闘に参加していなかった春人はようやく自身も戦闘へ介入する気になった。だが状況が切迫している今、そうはいっていられない。


「よろしく頼んだぞ」


「――おい待て!」


 春人はシャーロットの制止を聞かずに甲板上を駆け、目の前の海賊を殴り飛ばしながら排除して梯子の掛けられている縁の所まで行くとそこから眼下の河川哨戒艇に躊躇なく飛び降りた。


「なんて無茶な事をっ――。仕方ない、こっちは我々で対処しよう……。よく聞け海兵ども! 一人ずつ確実に対処していけ。この戦、勝つのは我々だ」


 その様子を見ていたシャーロットは呆れていた。それから頭を切り替えて部下に檄を飛ばすと自身も剣を抜いて船上での戦いに身を投じた。

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