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85:海賊討伐 2

 ハーフェンの港を出航した偽装商船は数時間の航海の末、予定していた海域へと到達した。現在地から少し遠くに目を向けるとそこには大小様々な無人島が見えて来る。


 そう、本来このルートは正規の航海ルートではない。今までの海賊に襲われた経緯からこの海域周辺が海賊の活動拠点に近いであろうという考察によって考え出された航海ルートだ。


 この海域はいい漁場だったそうだがそれも少し前までの話。海賊がその勢いを増してからは漁師たちはこの海域には一切足を踏み入れなくなった。命あっての物種だという事は漁師たちの方が一番知っている様だ。


 海賊の手によって殺害された漁師や船乗り、ハーフェンの駐屯兵の数は数知れない。そして同じく海賊の台頭によって仕事が捗らない者も同様に計り知れない。今はまだハーフェン一帯にしかその影響は及んでいないが、いずれこのまま放置していれば最悪トリスタニア王国内の商業に影響が出るだろうという事は誰の頭の中にもあった。


 全てはこの船の、この船に乗る全ての海兵達の活躍にかかっていた。


 偽装商船は警戒を厳にしつつも自らを餌としながら海賊が現れるその瞬間を今か今かと伺っていた。


「この辺は浅瀬が多い。座礁しないよう操舵は慎重にな!」


「替えの矢の準備は出来ているんだろうな!?」


「周辺に異常なし! 海賊の影は見受けられません!」


 甲板上ではあちこちから海兵達の怒号が飛び交っている。彼等も戦いの直前のこの空気に緊張している事が雰囲気から察することが出来る。


 そんな海兵達に混じって春人も船の後部甲板で海賊の出現を警戒していた。その目下警戒中の春人の傍へシャーロットが近づいてきた。


「そっちの状況は?」


「今のところ影も形も感じられない。だが仕掛けて来るならばこの辺だろう」


「その根拠は?」


「この辺は浅瀬が多いんだろう? 下手に舵を切ればすぐに座礁する。もし俺が仕掛けるならばここしかない」


「しかし向こうも同じサイズの船で来たら状況は同じだろう?」


「向こうはこの海域をよく知っているだろう。そんな愚策はしてこない筈だ。浅瀬対策に喫水線の浅い、これよりも小さな船で仕掛けて来るだろう」


「陸の上だけでなく海上での戦いも熟知しているんだな君は。いったい幾つの戦場を渡り歩いてきたんだ?」


「幾つの……? さて? 数えたことが無いから分からないな」


 その一言でシャーロットは何かを察したのかこれ以上はその話を振ることは無かった。彼女は春人をとても計り知れない男であると感じていた。以前からそう感じる節は有ったが、いざ共に戦場に立つとそれは如実に感じられていた。


 そんな立ち話の最中ではあったが春人は突如として船の最後尾の縁によじ登ると何かに集中し始めた。


「おい……ハルト君そこは危ない。すぐにこっちへ――」


「うるさい。静かに」


 縁へ立っている春人にシャーロットが下りるように言うがそれをただ「うるさい」と断ち切って何かを聞き取るように耳を澄ませた。海風の音や波の音などの色々聞こえるその中から何かを感じたのだ。


 そして一瞬の間をおいて春人はこう呟いた。


「――来た!」


 そう呟いた直後に偽装商船の後方から何かの駆動音を響かせながら小型の船が何隻も高速で近づいてきた。






 自分達の縄張りに不幸にも入ってきたマヌケな商船目掛けて海賊たちが駆ける数隻の河川哨戒艇は目にも止まらぬ速さで迫ったきていた。


「お頭ぁー! 先に出てった見張りから連絡のあったマヌケな商船見つけましたぜー!」


「どこのアホだか知らねぇが、俺達にとっちゃぁいいカモだぜ。今日もたんまりと稼がせてもらうぜ?」


「それにしてもこいつぁいい舟だ。小さいくせしてとてつもなく速ぇ。それにオマケとばかりにでっかい銃まで乗っかってるしな。コイツがありゃ俺達ゃ無敵だ!」


 河川哨戒艇の船上では男たちがまるで新しい玩具を手に入れた子供のようにはしゃいでいた。


 河川哨戒艇とはかつて米軍がベトナム戦争の際に使用していた小型のボートである。その名の通り本来の用途は河川の警備が主任務である。その為武装は少なくM2重機関銃、M60軽機関銃ぐらいしか搭載していない。それだけでもこの世界では十分重装備である。


 その河川哨戒艇を数隻所有しているのだからこの海賊は春人達にとって十分脅威であると言えよう。


「お前等騒ぐな! この船の初めての操縦だからってうかれるな! いつも通りに仕事をこなせ!」


 海賊の頭目は無線機を巧みに使い仲間達に指示を飛ばしていた。普通であれば無線機の使い方など誰も知らないだろう。これは誰かが使い方を教えたことは明白である。


「それにしても何で通常航路でないこの場所に商船が居るんだ? 少し警戒した方が得策か……」


 頭目は本来いる筈の無いこの場所に商船が居る事を怪しんだ。


 頭目の目論見通り、その商船は商船に非ず、商船の皮を被った武装した軍艦であった。その事を海賊たちは誰も知らない……。






「奴等が現れたぞー! 総員配置につけー!」


 海賊の駆ける河川哨戒艇の姿を確認すると偽装商船の甲板上ではシャーロットの号令と共に海兵達が慌ただしく武器を手に取り、船体のあちこちに取り付けた防弾板の後ろに隠れた。


 総員配置につき始めている間、春人は後部甲板上から迫りくる海賊の姿を目視したまま考え事をしていた。


――河川哨戒艇とはまた厄介な物を……。連中、アイツ等から買ったな? あれに積んでるM2だとこっちが突貫作業で取り付けた防弾板は簡単に抜かれるな。それにこの海域は漁場らしい。下手にあれを沈めるとここが油で汚染される危険性が有るな。にしても……これは完全に想定外だ。さて、どう対処するか?


 思考を巡らせていると海賊が拡声器の様な物を使って何かを言い始めた。


「聞こえているかこの商船。今すぐに停船しろ! ケガしたくなかったらさっさと船を止めるんだ!」


 河川哨戒艇は前方の2隻が偽装商船を追い越すように前方へ出ると旋回してまた進行方向上から迫ってきた。


「数は全部で8隻か」


 それを見ていた春人はそうポツリと呟いた。グレネードなどで沈めてしまえば早い話だが、後々の事を考えるとそうもいかない。


「ハルトさん! 奴等早すぎて狙いが定まりません。どうすればいいですか!?」


 海兵達の腕では河川哨戒艇は動きが早すぎて狙いが定まらないようだ。その為彼等は春人にどうすればいいか指示を乞うていた。


「少し待て、今考えている」


 どうするか春人は必死に思考を巡らせて考えていた。後先考えなければ自分一人でどうとでもなるが、今回は後の事を考えなければいけない。それに今下手に撃ち合いを始めれば河川哨戒艇に搭載していある二連装のM2重機関銃の12.7mmの銃弾でこの偽装商船は一方的に蜂の巣にされてしまう事は必至だ。


 ほんの一瞬の間に幾つもの方法を考えた結果春人はある一つの方法を思いついた。


「よし、船を止めろ! 奴等が乗り込もうとしてきたところを狙え。射撃の優先順位は奴等の船に乗っている機銃手だ。あれを使われるとこっちは蜂の巣にされるから絶対に使わせるな!」


 春人が選んだ戦法は船を止めて海賊の命令に従うフリをして一度足を止めて、そこに乗り込もうとしてきた海賊を返り討ちにしようとする戦法だ。


「でも船を止めたら……」


「奴等はまだこの船が普通の商船だと思い込んでる筈だ。それを逆手にとるんだ。こっちに乗り込んで来ようとする時は奴等も船を止めなければならない。そこを狙え!」


 春人の指示通りに偽装商船は海賊の指示に従うフリをして足を止めた。

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