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78:アレハンドロ・サンジェルミ 1

 アレハンドロ・サンジェルミというオカマの地方領主ととんでもないファーストコンタクトをしてしまった春人とアリシアは先程からずっとサンジェルミから視線を外せないでいた。


「なにアンタたちさっきからずっと人の顔をジロジロ見て。 ワタシの顔に何か愉快な物でも付いてるの?」


 いや、愉快な物どころかその顔が既に愉快な物になっている。と、そう口まで出かかっていたが春人はそれをグッと堪え言うのを我慢した。


「その化粧厚すぎじゃありません? それに貴方、男の人……ですよね? 何だか変ですよ?」


 だがアリシアは違ったようだ。彼女はつい思ったことを言ってしまった。


「おだまり! これは全部ワタシの趣味よ。アンタみたいな小娘に言われる筋合いはないわ! 何か文句ある?」


「ヒッ!? ゴメンナサイ!」


 サンジェルミの気迫に押されてアリシアはつい言ってしまった失言を謝罪した。


「まあいいわ。ワタシの事を変な目で見てくる奴なんて何処にでもいるし余り気にしていないわ。それよりもアンタたちはワタシに用が有ってわざわざ王都から来たんでしょ?」


 アリシアに指摘された事はあまり気にしていないと言いながら、サンジェルミは春人達の対面に設置されている二人が腰かけているソファよりも一段大きなソファへと腰掛けた。


「ああそうだ。王都のアレクセイ将軍よりアレハンドロ・サンジェルミ伯爵への親書を預かって来たのでお届けに上がりました」


 春人は懐よりアレクセイから預かってきた親書の入った封筒を取り出すとサンジェルミへと差し出した。一方アリシアは春人の横で彼の服の裾を掴みながら今も小さく震えている。彼女にとってサンジェルミとのファーストコンタクトはあまり良くなかったようだ。


「ふうん、王都のアレクちゃんからねぇ? 彼、元気にしてた?」


「ええ、元気にしていますよ。先日もベルカ帝国との戦いで彼も共に最前線で戦っていました」


「血の気が多いのは今も昔も変わらないわね。まあ生きているのならそれに越したことは無いわね」


 春人から受け取った封筒の封を開け、中の親書に目を通しながらサンジェルミは春人に王都に居るアレクセイの現状を聞き、彼は元気であると春人がそう言うと空返事と共にそう言った。


 そして一通り親書に目を通し終わるとサンジェルミは今まで読んでいた親書を目の前のテーブルに置くと、その視線を春人達へと向けてきた。


「親書を届けてくれてありがとう。感謝するわ。そう言えばまだアンタたちの名前を聞いていなかったわね?」


「俺は春人、ハルト・フナサカといいます。それでこっちは俺の連れのアリシアです」


 まだ名乗っていなかった事を思い出し、春人は自分の分を名乗ると続いてアリシアの事も紹介した。そのアリシアは春人の隣で「どうも」と言い、小さく会釈をしていた。


「ハルトちゃんにアリシアちゃん……ね。改めてよろしく頼むわね。それにしてもそっちのアリシアちゃん、何時までビクついてんのよ。別に私はアンタを取って喰おうだなんて思ってないわよ」


 人の敬称にちゃん付けをするのはどうやらサンジェルミの特徴のようだ。そしていつまでも苦手意識を向けているアリシアにサンジェルミは笑いながら別に怯える理由は無いと言っている。


 それでもアリシアが警戒を解くにはまだ足りない。厚化粧で特徴のあり過ぎるその顔で笑顔を浮かべられても普通なら余計に警戒されてしまうだけだ。


「それ以上彼女を怯えさせないでいただけますか?」


 春人はサンジェルミにこれ以上アリシアを驚かさないでくれと頼んだ。


「別に脅かすつもりはないわよ。そっちのアリシアちゃんが勝手に怯えてるだけじゃない。まあでも、さっきの怒鳴ってしまった事は謝るわ」


「怒って……ないですか?」


「怒るも何も別に何とも思ってないわよ。ただ初対面の人にあまり失礼な事を言っちゃダメよ。私は兎も角、他の人だったらもっと怒る人もいるかもしれないし。さあ、何時までも怯えてないの。綺麗な顔が台無しよ?」


 優しく諭すサンジェルミにアリシアはようやくその警戒を解き、ハルトの服の裾を掴んでいた手をようやく放した。


「でも失礼な事を言った事は改めて謝罪します。本当にゴメンナサイ」


 気にしていないというサンジェルミに対してアリシアは改めて失言したことを謝罪し、深く頭を下げた。これはきっと彼女なりのケジメなのだろう。そんな彼女の感情を指し示すように耳がしょぼんと垂れていた。


「アリシアちゃんは偉いわねぇ、ちゃんと相手に謝れるんだから。きっと将来イイ女になるわよ。それにしても……アンタたち二人は揃いも揃っていい顔してるわね。ちょっとお洒落すれば化けるわねきっと……」


 アリシアの事を褒めた直後に春人とアリシアを交互に見比べたサンジェルミは途端に不敵な笑みを浮かべた。その直後に春人とアリシアは背筋がゾクッと来るような感覚に襲われた。二人はこれから起こる事に悪い予感を感じた。


 そしてもれなくその予感は的中してしまう。


「良いこと思いついたわ……。アナタ達、ちょっと入って来なさい!」


 何かを思いついたサンジェルミは部屋の外に向けて誰かを呼んだ。それから直ぐに扉をノックする音がし、サンジェルミが中へ入るよう促すと見た目の凄くそっくりな二人の小さな女中が入ってきた。強いて違いを上げるならば髪型の違いと瞳の色の違いしかない。


 その直ぐにやってきた二人の女中に対し春人は一体何処で待機していたのだろうと思った。


「「お呼びでしょうかアレハンドロ様」」


 入ってきた二人の女中はその見た目もさることながら、喋っても見事にハモっている。この時に二人は双子なのだろうと春人は思った。


「二人ともよく来てくれたわね。こっちのお嬢さんにワタシのコレクションを使っても構わないからうんとお洒落をさせてあげて」


「「かしこまりました。ではお客様、御案内しますのでどうぞこちらへ」」


 そう言うと二人の女中はアリシアの手を引いて部屋から退席させようとした。


「ちょっと待ってください。ハルトさん、伯爵!」


「大丈夫よ。痛い事はさせないから安心して」


 アリシアは叫び声を上げながら二人を止めてくれと言おうとしたが、サンジェルミが悪いようにはしないから安心してと言ってアリシアの手を引く二人の女中を見送った。そしてアリシアは応接室から何処か別の部屋へと連れて行かれた。


「男ばかりだと思っていましが、女中も仕えていたのですねこの屋敷は」


「確かに外でアナタが見た男連中はワタシの趣味で集めた使用人よ。でもそれだけじゃ女性の来賓客に対応できないからね。まあ力仕事だけはどうしても男連中に任せてしまうけどね」


 性別で差別しない男? だから、彼は種族が違う相手でも差別するような事はしないだろうと春人は内心サンジェルミの事を評価していた。


「さてと、邪魔者には一度席を外してもらったし、ここからは真面目な話をしましょうか」


 今までのどこかふざけた雰囲気は何処へ行ったのやら。サンジェルミは急に真面目な顔つきになり春人を真っ直ぐ見つめてきた。


「だがその前に彼女をどうする気だ? もし傷一つでも付けようものなら分かっているだろうな?」


 サンジェルミの言う真面目な話というものを始める前に春人はアリシアの身を案じた。ここでもしアリシアに危害を加えようとするのならば目の前のサンジェルミというオカマを敵として即処分するつもりでいた。


 銃はいつでもホルスターから抜ける。薬室にも初弾は既に装填されている。後は安全装置を外し、銃口を相手に向けて引き金を引くだけで全ての事は終わらせられる。


 春人は鋭い視線でサンジェルミを睨みつけた。


「傷を付けたらどうするの? ワタシを殺す?」


「分かっているようなら説明をする必要は無いようだな」


 これは誰が聞いても分かりやすい挑発だった。そんな挑発をしてくるサンジェルミに春人は挑発だと分かっていながら敢えてそれに乗った。


「なら試してみる?」


 そう言った直後、サンジェルミは目の前のテーブルを踏み越えて春人の目の前に迫って来た。その動きに前動作など全く無く、隙を感じさせない動きだった。


 そして更には何処から出したのか分からないが、サンジェルミの両手には銃剣のように刀身が長い短剣が2本握られていた。その手に握った短剣の刀身をクロスさせて春人の首に這わせてきている。


 サンジェルミが圧倒的有利な状況で、今すぐにでも春人の首を飛ばすことが出来る状況でも当の本人である春人はその事に全く動じている様子はなく、その場から全く動いていないように見えた。


「どうしたの? 怖くて動けなくなっちゃったの?」


「寝言は寝てから言うんだな。アンタが俺の首を刎ね飛ばすよりも先にアンタを殺す事はいつでも出来た」


 軽口を言っていくるサンジェルミに春人は寝言は寝てから言えと同じように軽口をたたいて反論して見せた。そしてそれと同時にサンジェルミの腹部にガバメントの銃口を押し付けていた。


 春人がサンジェルミを殺すことが出来ると言った理由はこれだった。春人はサンジェルミが飛び込んできたと同時にホルスターから銃を抜き、彼の視界に入らないよう注意しながら腰だめの位置のまま銃口を向けていた。もし殺すつもりでいたら春人はこうなる前に既に決着をつける事は出来ていた。


「どうやら引き分けの様ね」


「いいや、俺に飛び込んできた時点でコレを撃つことは何時でも出来ていた。だからこれは俺の勝ちだな。それとこの戯事もそろそろ終わりにしないか? アンタは俺を殺す気なんて無かったんだろ?」


 サンジェルミが殺す気が無いことを春人は薄々感づいていた。だから春人はいつでも撃つことが出来たのに一発も撃たなかったのだ。


「なんだ、気付いていたの。知っててその反応はちょっと酷いわね。それよりも……早くコレを下げてくれないかしら? それを向けられてると生きた心地がしないんだけど……」


 春人が知ってて動じなかったことにサンジェルミは少し悲しそうな声を上げながら、短剣を片付けている。そして短剣を片付けながら春人に今も向けられている銃を下げてくれないかと懇願もしてきた。どうやらサンジェルミはこの武器がどれだけ危険な物なのか直感で感じたようだ。


 春人もサンジェルミが短剣を下げたことを確認すると黙って銃をホルスターへとしまった。


「さてとお戯れもここまでにして今度こそ本題に入りましょ。アナタ、何処から来たの?」


「何処から? 何処からって俺達は王都から来たってさっきも言ったはずだが?」


 聞くだけ聞けば何の変哲もない質問だった。サンジェルミに何処から来たかと訊ねられたから春人は王都から来たと答えた。これについてはここに来て直ぐに話した事なので、何で改めてサンジェルミはそんな事を聞いて来たのかと春人は疑問に思っていた。


「ちょっと質問が違ったようね。じゃあこう聞きましょう。アナタ……、この世界の人間じゃないでしょ?」


 サンジェルミは突拍子もなく、春人でさえ予想することが出来なかった質問を投げかけてきた。

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