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70:ベルカ帝都制圧作戦 2

 春人達が城内の一画に降り立ち、ある程度部隊が展開した頃と同時刻、ベルカ帝国の現皇帝オネストの元に城を守る兵が慌てて駆け込んできた。


「陛下大変です! 空から、敵が降って来ました!」


「何寝言を言っている? バカも休み休み言え」


 その直後、外から盛大な爆発音が城内にまで響いてきた。この爆発は春人が初めに城門を破壊した際の音である。


「な!? なんだ今の音は? 誰か様子を見てこい!」


 オネストの周りでは外で一体何が起こっているのか分からないようで、これから状況把握のために兵を向かわせようとしていた。完全に対応が出遅れた感じある。


 そして彼等の元に状況報告が来たのは間もなくのことである。


「報告します! 先程降って来た敵はトリスタニアの連中です! 奴等城門を破壊して市内に隠れていた我等に楯突く反政府組織の連中を城内に引き入れてきました!」


「ええい、外の警備をしていた連中は一体何をしていた! すぐに増援を送って愚かにも俺の城に攻め込んで来たマヌケ共を一人残らず蹴散らしてこい!」


 オネストは城内に居る近衛を除く兵士を全てトリスタニア王国軍への迎撃に向かわせた。しかしこの行為が城内の警備を手薄にしてしまい、結果的にこの後城内に入り込んだ春人を簡単にオネストの元へと招いてしまう事になるとは誰一人思っていなかった。


「ったく、こんな時に死神の連中は何をしている……。おい! 俺の元に例の兵士を連れてこい!」


 突如いなくなった死神部隊を未だに当てにしているようなオネストだが、居ないものは仕方ないと見切りをつけ、死神部隊とは別の部隊を自身の護衛の為に呼び寄せた。






 それから時間は春人が城内に潜入した時まで戻る。オネストが外に増援を送り、城内の守りを手薄にしてしまうという失敗もあってか、春人は自身が予想ししていたよりも早く城内を移動している。


「やけに中の守りが手薄だな。内部の兵士を全部外の増援にでも行ったか? 内部の守りを疎かにするとは皇帝の奴も随分パニックを起こしている様だな。はてさて、その皇帝は何処に居るのやら?」


 城の中は何処も似たような光景で自分が先に進んでいるのかどうか分からなくなってしまう。


「……おかしい、ここはさっき通ったぞ? どうなっているんだ?」


 春人は自分がさっきから同じ所をずっとぐるぐる回っている事に気付いた。途中までは何事も無く進んでいたが、どこからかだろうか同じ所を回り始めていた。それはまるで誰かにこれ以上先に進むことを邪魔されているようだった。


 頭をフル稼働させどこからこうなったかと考えてはみるが、全然見当がつかない。だが一つだけ考えられることがある。


「まさかとは思うが、結界魔法とかか……? まあ魔法がある世界だし、こんな魔法が有ってもおかしくはないか。さて、実際そうだとしたらどう対処するかね?」


 春人が見出した結論は魔法による妨害ではないかということだ。生身の人間が直接干渉してきたのであればいくらでも対処のしようはあったが、間接的に干渉してくるような魔法が相手ではどうしようもない。正直なところここまで来て春人は八方塞がりになってしまった。


「こういう時は術者を倒せばいいっていうのがセオリーなんだろうけど、その術者が見当たらないんじゃなあぁ」


 どうしようもできないこの現状をため息を漏らしながどう対処するか考えている。思考を止めなければどうにか出来るだろうと言うのが春人の持論である。思考を止めることは全てを諦めることであると思っているからだ。


 その春人をずっと近くで見物している者がいた。その者はずっと近くにいたにも関わらず春人に気付かれていないようだ。そして不意を突くのに絶好の機会であるこの瞬間に手にしている杖を振るった。だが魔法を放つ際に僅かだが殺気を込めてしまったのがいけなかった。


 僅かに感じた殺気に反射的に反応した春人は身を屈めてどこから来るか分からない攻撃に対応しようとした。そして先程まで頭があった所に光る矢のようなものが何本も飛んでいったのをその目で目撃した。春人は完全に敵の奇襲に会ってしまった訳だ。


「中々やりますね。今の攻撃を見切るだけではなく、ここが他から隔離された空間であることにも気づくとは……」


「何者だ? 姿を現せ」


 いきなり誰も居ない空間から声が聞こえたので春人は姿を現せと答えた。今の話から察するに今のこの状況を作り出した者が、姿の見えない目の前の存在であることは明白である。


「姿を現せと言われて、はいそうですかとそう易々と姿を現してもらえるとでも思っているのですか? それはちょっと安易な考えですね。それに私は自ら真正面から敵と対峙して戦うと言うのは性に合わないのでね」


「そうかい。じゃあ嫌でも出てきたくなるようにしてやるよ」


 そう言うと春人は声のする方、先程攻撃が飛んできた方向へ向けてP90を発砲した。だが銃弾が人体に命中するようなことは無く、石壁に当たり跳弾するような音が響いただけであった。


「それが貴方の攻撃方法ですか……まるでつい先日まで此処に居た異国の傭兵団と似たような物を使うのですね。目で捕えられない程の高速で矢か何かを撃ち出しているようですが、当たらなければどうという事はありません」


 敵の魔術師はその鋭い洞察力で銃の事を今の攻撃でだいたい理解したようだ。それよりももっと春人にとって肝心なのはそんな事よりも、その前に言った先日まで此処に居た似たような武器を使う傭兵団の方である。その傭兵団とはつまり春人が追う死神部隊のことで間違いないだろう。


「アンタ、死神部隊を知っている様だな? 死ぬ前に知っている事、全て吐いてもらおうか?」


「死ぬ? 私が? 面白い冗談ですね。ここで死ぬのは私ではなく、貴方の方ですよ? さあ、長話もそこそこにそろそろ死んでください」


 敵の魔術師の攻撃は先程よりも更に激しくなり、四方八方から飛んでくる魔法の矢による攻撃を春人は反撃をする暇もなくただ避けるのに精一杯だった。そして魔術師の方は死神部隊についての情報を知っているにも関わらず、それについて話す気はさらさら無いようだ。


――クソッ! これだから魔法とか言う奴は嫌いだ。ただのチートじゃないか。何か対処法は……考えろ、何かある筈だ!


 回避に専念しつつも、この魔術師を倒す方法を精一杯考える。結界で周囲から隔離されて、更には結界を展開している魔術師の姿も視認できない完全に春人が不利な状況でも彼はまだ諦めてはいない。そしてある方法を思いつき、イチかバチか僅かでもある可能性を信じて左手を軽く動かしてMTマルチツールを起動した。


「物は試しだ。コイツでどうだ」


 MTマルチツールで選んだ項目は生体反応センサーである。ここしばらく使っていなかったのでその存在自体を忘れていた春人だったが、ここに来て運よく思い出したので物は試しにと起動してみた。そしてそれが偶然かもしれないが功を奏し、MTマルチツールのホログラフィックディスプレイに表示されている生体反応センサーの画面には春人を中心として他にもう一つ、傍に誰かいることを示している。


「見つけたぞ! そこだ!」


 そう言って春人は後ろに勢いよく振り向くと誰も居ない空間に向けてP90から銃弾を1発撃ち放った。放たれた銃弾が何かに当たったと同時に周囲の空間に亀裂が入り、それから間もなくまるでガラスが砕け散るかのように周りの空間が崩れていった。空間が割れ、崩れ落ちていくその光景はなんとも不思議な光景であった。


 そして割れた空間のその先に現れたのは本来の城内の廊下である。今の一撃で結界が解除されたようだ。


 春人が今でも銃を向けるその先には銃弾で破壊されたであろう杖を持ったまま唖然とした顔で立ち尽くしている敵の魔術師が居た。


「よう、やっとご対面できたな。クソ魔術師さんよ」


「おっ、お前! 今いったい何をした! 私の結界魔法はカンペキな魔法の筈だ! お前のような魔法の才能が無い奴に破られるはずなど絶対あり得ない筈だ!」


 春人に声を掛けられたことでハッと我に返った魔術師は驚きと怒りの混ざったような表情をしながらさっきまでとは打って変わって声を荒げている。


「おいおい、さっきまでの丁寧な話し方は何処へ行った? それともそれがアンタの本性って訳か? まあどっちにしろ、杖が破壊されて術が解けるようじゃ完璧とは程遠いな。笑い話にもなりやしない」


「私が未熟だと!? では私に足りないところをご教授いただこうか?」


 この魔術師は驚いたことに敵である筈の春人に自分の魔法のどこが不完全であるのかと聞いてきた。流石にこれには春人も予想外の展開に驚いたが流れに乗せられてつい答えてしまった。


「そもそも術の対象者が外に攻撃できている時点でアンタの結界魔法とやらが未完成であることに気が付くんだったな。それにあれは結界というよりもただの幻覚だな。俺もまんまと騙されたよ。周囲から隔離される結界であれば内側から外側に攻撃など出来る筈が無いだろうからな」


 魔術師は廊下を左右にウロウロ歩きながら、春人の言葉を何処からか出した紙とペンでどんどんメモを取っていっている。


「成程……根本的に私の結界魔法の研究は間違っていたという事か。研究だけで実際に使ったことが無いからこうなってしまったのか。これは研究を改める必要があるな。で、この魔法を打ち破ったそれはいったい?」


「これか? これは科学の結晶だ。アンタの魔法がどれだけ凄いのかは知らんが、人は騙せても科学の産物までは騙せなかったようだな」


 春人は結界魔法もとい幻術を打ち破ったその方法を打ち明けると魔術師の手元にあるメモ用紙に向けて銃弾を1発発砲した。すると穴の開いたメモ用紙は宙に散らばり、飛散しているそれを魔術師は必死になってかき集めている。その姿は実に滑稽であった。


 そして全てのメモ用紙を手もとに集めた魔術師はそのメモ用紙の穴の開いた部分から春人の事を覗いた。そこから見える光景はこちらに向けて銃を構えている春人の姿が見えた。


「研究熱心なのは感心だが、後はあの世でやりな。俺からの宿題だ」


 その言葉が魔術師が死ぬ直前に聞いた最後の言葉になった。春人がそう言ってから引き金を引くと、P90から撃ち出された5.7mm弾は先程と同じ穴を潜り抜けて魔術師の眼孔を撃ち抜いて、その命を刈り取った。


「まったく、結界かと思った魔法がただの幻覚だし、閉所で四方から飛んでくる攻撃魔法は避けるだけで精一杯だし、本当にまともに魔法と対峙するのは面倒だな」


 それから春人はついさっきまで魔術師だったモノの脇を通り抜け、赤い水溜りを踏み越えて先を急いだ。後からになってある事を聞く前に相手を殺してしまったのを春人は悔やんだ。


「あ、しまった。あの野郎に死神部隊のことを聞く前に殺しちまった。まあいい、あんな雑兵じゃ大した情報を持っていないだろうしな」


 最後に皇帝を締め上げて情報を吐かせればいいと考えている春人はやってしまった事は仕方ないと割り切って、皇帝の居所へと向かって行った。


 皇帝オネストのいる謁見の間まではあと少し……。

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