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69:ベルカ帝都制圧作戦 1

 大型ヘリコプターMi-26とワイバーンに騎乗する竜騎兵の混成部隊はトリスタニア王国王都から飛び立つと以前春人が辿ったルートと同じ航路で飛行していった。ただブラックホーク単機で飛行した時よりも全体的に移動速度が遅い。これはMi-26の巡航速度が遅いことに由来している。竜騎兵のワイバーンのみであればもう少し早く飛べるらしいが、竜騎兵隊の方が足の遅いMi-26に合わせてくれている。


 ゆっくりではあるが確実に帝都まで距離を縮めていき、一行はベルカ帝国との国境を越え、数時間かけて帝都の一歩手前まで飛行してきた。ここに来て竜騎兵隊のワイバーンの疲労が溜まってきたようで一度休息をとるために一度人気ひとけのない場所に着陸した。


 いくらワイバーンであれ生き物である以上はどうしても疲労は溜まり、休憩を挟む必要が出て来る。ここで疲労が溜まったまま戦闘に突入して、竜騎兵隊が全力を出せないというのも困るので仕方がない。


 この休憩の間に全ての兵士は戦闘に突入する前の最後の準備を行い何時でも再出撃できるように装備を整えていた。勿論これは春人も同じでMi-26の機内でMTマルチツールを開いて今回使用する装備の確認と弾薬の補充を行っていた。


 それから間もなくしてワイバーンの体力も回復し、作戦に支障が出ない程度までになったので一行は出発した。目指すはベルカ帝国皇帝の根城だ。






 この日のベルカ帝国の帝都は何時ものと変わらぬ日常が流れていた。この日は公開処刑は行われていないがそれでも市場の方では奴隷の売り買いなどが今日も行われている。そんな日常の中に潜む反政府勢力のベルカ解放戦線のメンバーは春人達が侵攻してくる日を今か今かとずっと待っていた。


 未だ現れぬトリスタニア王国の進攻部隊に苛立ちを感じ始めた頃に市民の誰かが空を指さしながらこう言っていた。


「おい! 何だあれは!」


 その指さす方の先には沢山のワイバーンとそれに囲まれた見慣れぬ巨大な飛行物体が飛行していた。


 それを目撃したベルカ解放戦線の者はトリスタニア王国の部隊だと直感で感じて、それを仲間に報告するために市内を走っていった。






 帝都に無事侵入できたトリスタニア王国軍は事前に計画していた各自の任務を遂行するために各々いくつかの小隊に別れて行動を開始した。


「いいか! 最初の攻撃目標は敵の駐屯施設だ。俺達が先行して敵の航空戦力が上がって来る前に敵の兵舎と竜舎を空爆する!」


 その内の一つ、Mi-26より前に飛んでいた竜騎兵隊はその飛行速度を増して先制攻撃を仕掛ける為に別行動を開始した。そして攻撃目標を視認すると彼等は後ろに乗せた魔術師の魔法攻撃と所持している爆弾の投下で攻撃を始めた。


 奇襲同然に襲われたベルカ帝国の兵士達は抵抗する余地もなく一方的に大打撃を食らった。ベルカ帝国軍のワイバーンが待機する竜舎も真っ先に空爆されたので、帝国軍の竜騎兵は空に上がることなく大打撃を喰らった。これで帝都の制空権は完全に春人達侵攻軍が握った事になった。


 そしてこの攻撃が合図になったのか、ベルカ解放戦線の彼等も仲間を率いて帝城へと進攻を始めた。






 先行して攻撃を開始した竜騎兵隊より後方に位置するMi-26と直掩の竜騎兵隊は現在帝城目指して帝都上空を飛行していた。進行方向の先には帝城が見え始めてきた。


「着陸3分前! 各員戦闘用意!」


 Mi-26の機内に春人の号令が響き、同時に機体の後方ハッチが開き始めた。


「いいか野郎ども! これより敵地に殴り込む! 気合を入れていけ!」


 後方ハッチから聞こえる風切り音とエンジンの音にも負けないような大声でアレクセイが着陸前に兵士達に向けて活を入れている。そしてそれに答えるように兵士達も雄叫びを上げて答えた。


 着陸する直前で機内の士気は最高潮に達したようだ。


 そしてきっかり3分後にMi-26は帝城の城壁を飛び越え、城内の一画の開けた場所に着陸した。突如飛来してきた見知らぬ物体を帝国軍の兵士は取り囲むように展開していたが、Mi-26の直掩のワイバーンのブレスによって無力化された。


「よし、全員速やかに降りよ! 先ずは各城門を開放し外の反政府組織の連中を中に入れて合流するぞ!」


 Mi-26の後方ハッチからぞろぞろとトリスタニア王国軍の兵士が降りてきた。それを指揮するのはトリスタニア王国の将軍、アレクセイである。彼等の任務は帝城の各城門を開放してベルカ解放戦線と共闘して城内の制圧をすることである。今は地上戦力は総勢数十人ほどの兵力しかいないが、ベルカ解放戦線と合流さえ出来ればその数は一気に増すだろう。


 そして次に降りてきたのがルイズとフィオナ以下帝国の騎士団のメンバーたちだ。


「いいか! 私達は皇帝の所に乗り込むぞ! そこまで雑兵どもを殿下に近づけさせるな! 行くぞ!」


 彼女達はこちらに刃を向けて来る敵対する元同胞の兵士達を躊躇うことなくどんどん切り捨てて、城内に居る皇帝の所へ向かって戦場の中を駆け抜けていった。ルイズを守りながら戦っているのも関わらず、彼女に恐怖を感じさせずにいるフィオナ達の練度の高さは見事なものだった。


「さて、全員の降下を確認……ではそろそろ俺も出るか」


 最後にMi-26の機内に誰も残っていない事を確認してから春人も機内から降りるべく、操縦席を立ち、MTマルチツールで装備を整えながらハッチの方へと歩いている。


――今回も強化外骨格といつもの装備で……。あとはアレとそうだな……コレも持っていこう。


 この戦いで何を使うか即座に考えながら春人の姿は野戦服装備から強化外骨格装備へと変わった。武装はいつものP90と高周波ブレード、それに今回は追加武装としていくつかの重火器をサブアームと共に装備している。さしずめ今の姿はフルアーマー装備と言ったところだろうか。


 そのような物々しい姿の春人が機内から現れると同時にMi-26は姿を消し、MTマルチツールへと戻っていった。


「俺達の攻撃目標はあくまでも交戦意思のある奴だけだ! それ以外の非戦闘員及び交戦意思のない者への攻撃は厳禁であることを心しておけ!」


 Mi-26より現れて早々に春人は仲間達へ注意を促している。さすがに無抵抗の相手を殺害するようような無能は居ないだろうが一応念のための忠告だ。だが春人が言わずとも周りの仲間達はその辺の約束事はしっかり理解している。


 そして周りでは敵味方入り乱れての切った張ったの斬り合いが行われている。同時に上空からは竜騎兵隊の近接航空支援もあり戦況は春人とトリスタニア王国の連合軍が優勢である。それでもまだ数の上ではこちらが不利ではあるが……。


「そろそろ俺も仕事を始めるかね」


 ここまで王国の兵士を運ぶだけが春人の仕事ではない。彼もここの皇帝に用が有るから城内に向かおうとした。


「だがその前に……と。後方の安全は……問題ないな」


 城内に侵入する前に春人は今いる広場から見える巨大な木製のように見えるゲートに向けて背部のサブアームに追加装備しているパンツァーファースト3を撃ち放った。撃ち終えた発射機本体はその役目を終え、光を放って消滅した。サブアームも同様にである。


 パンツァーファースト3の対戦車榴弾の直撃した城のゲートは大爆発と共に木端微塵に吹き飛んだ。


「入口の一つは作ってやった。あとはそっちでうまくやれよ」


 ゲートを吹き飛ばし、これから城内へと行こうとした矢先に春人に向かって敵の兵士がぞろぞろと束になって向かってきた。


「あいつは噂に聞くウルブスの死神と酷似している! 奴の首級を上げて俺達の手柄にするぞ!」


「ほう、俺を知っているのか。俺も随分と有名になったな。だがお前等はお呼びでない、失せろ」


 春人の首を取らんと迫ってくる帝国軍の兵士相手にただ失せろと冷たい声で言い、スリングで肩から掛けていたM240の銃口を向けて、薙ぎ払うように敵を掃討していく。その春人の足元には空薬莢と排出されたベルトリンクが落ちては消えている。


 あちこちで剣や鎧がぶつかる音、魔法が着弾する音やワイバーンが咆哮する中でも銃声ははっきりと響いている。異世界由来の武器が猛威を振るっているその光景はここでも異様なものに見える。ここにはウルブスで春人と共に戦った者も何人かいるが、彼等でさえ春人が戦っている光景には慣れていないようだ。彼等からすれば圧倒的な暴力で一方的に蹂躙しているだけの虐殺に見えているのだろう。


「防御陣形! 盾でアイツの攻撃を防げ!」


 最初の会敵で春人に突っ込んできた部隊は一瞬にして殲滅させられた。これを見て帝国兵は下手に攻撃したところでこちらが一方的にやられると感じ、集団で密集して盾を用いる防御陣形いわゆるファランクスを形成して銃の攻撃に備え始めた。その盾の隙間からは槍と魔術師が使う杖が伸びているのが見える。近づけば槍で攻撃し、離れれば魔法で攻撃しようという算段なのだろう。


「そんな物で防げるとでも思っているのか。マヌケ共が」


 先程突っ込んできた帝国兵と同様に春人はファランクスを形成している敵集団に狙いを定められたM240は炸裂音を轟かせながら銃弾を吐き出し始めた。所詮彼等の使う盾は木と薄い鉄を組み合わせただけの物なので、現代兵器であるM240から放たれる7.62mm弾を防ぐには力不足であった。


 盾を貫通した銃弾はそのまま内側に引きこもる帝国兵を撃ち抜き、ひとしきり撃ち終えた頃にはファランクスを形成していた兵士達は誰一人動かぬ屍に変わり果て、その場に崩れ落ちていた。


「敵の無力化を確認。……チッ、M240コイツも弾切れか。俺も盛大に撃ち過ぎたな。お前ら! ここを任せたぞ! 俺は先に城内へ進攻する」


 そう言うと弾も無く、持っていても無用の長物でしかないM240を放り投げて身軽になった春人は仲間達に声を掛けてから一足先に城内へと続く通路を駆け抜けていった。その道中で接敵した敵兵士はP90と逆手に持った高周波ブレードを駆使して足を止めずに敵陣を駆け抜け次々と葬り去っていく。別に足を止めて戦ってもよかったのだが、これがスピードを殺さずに戦う最善の方法だったからだ。


 そしてとうとう城内へと続くであろう扉の前へとやって来た。


「ここからは屋内戦闘って訳か。だがそれよりもコイツは中々……」


 春人の行く手を遮るように目の前の扉は固く閉ざされていた。しかも城門とは違い、ここだけは何故か鋼鉄製の扉が採用されている。春人は軽くノックをしてその扉の厚さを確認してみると、軽く戦車や装甲車と同等位の厚さが有るのではないかと感じた。


「まったく、ここだけやけに厳重だな。迂回しても時間を無駄に食うだけだしな。さて、切り開かせてもらおう」


 左手に持っているP90を背部の専用ホルスターに戻し、右手の高周波ブレードは一端鞘に納めた。そして春人は扉と対峙したままの状態で居合いの構えをし始めた。


 だがそれ以上春人の進攻を許すほどベルカ帝国の兵士もマヌケではない。


「居たぞあそこだ! 奴は外の奴等より手練れだ。十分に注意しろ!」


「はぁ、次から次へと邪魔者ばかり増えやがって。お前等の相手をしてやる時間は無いんだ。悪いな」


 ため息交じりに追手の敵兵の方へと振り向きながら背部に残る最後の追加装備であるもう一つのパ

ンツァーファースト3を撃ち放った。


 放たれたその弾頭は兵士達の足元に着弾し、即座に兵士達を全員巻き込んで起爆した。なぜ足元に向けて撃ったかというと、直接兵士に照準を合わせるよりもこっちの方が効果的であると思ったためだ。はじめは兵士に照準を合わせてはいたが、対装甲目標用のこの弾頭が人間の体を貫くのではと脳裏をよぎったため照準を足元にずらしたのだ。


 追手を飲み込んだ爆発も収まり、爆風も晴れるとそこに存在していた筈の兵士は完全に居なくなり、代わりに有るのは爆発で出来たクレーターと辺りに散らばった人間の一部と臓腑だと思われるモノだけだった。そして辺りには焦げたような臭いと微かに血生臭い臭いが立ち込めている。


「これでもう邪魔者は居ないな。さて、他の奴等に追いつかれる前に先を急ごう」


 撃ち切ったパンツァーファースト3を外の時と同様にパージをして更に身軽になった。これで春人が追加で装備してきた武装も全て使い果たし通常の強化外骨格装備に戻った。室内で重火器を使おうとしても使い合ってが悪いのでここまでの間に使い切ったのはある意味正解だったのだろう。


 そして再度扉の前に立ち、左手で腰の高周波ブレードの鞘に手を添え、右手はいつでも刃を抜けるように柄を握れるようにしている。


「それじゃあ始めるか」


 そう言った直後に春人は目にも止まらぬ速さで抜刀し、高周波の刀身でもって鋼鉄製の扉を二度三度と切り刻んだ。何度か刃を振ってから鞘に納め、鍔と鞘がぶつかる際にカチンと音がすると同時にその扉は音を立てながら崩壊し、本来の役目を果たせなくなった。


 扉の残骸を踏み越えて春人は城内へと進んだ。彼は他の誰よりも早く皇帝の居場所へと目指した。

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