68:出撃! トリスタニア王国軍空挺部隊
お待たせいたしました。久しぶりの更新です。
ベルカ帝国内における内偵活動の報告会が開かれてた日から数日が経過した。春人が所望した通り、トリスタニア王国軍は王都に駐屯する全ての竜騎兵隊をベルカ帝国への遠征部隊へと組み込み、同時に王都内に数多いる兵士と魔術師の中から精鋭を選び、来たる決戦の日に備えていた。
王都内の一般人もそんな軍の動きを感知してまた戦争が始まるのではと危惧していたようだが、政府からベルカ帝国との戦争を終結させるための最後の戦をする、王都は戦場にならないという御触れが出たことで人々は安堵したようだ。
周りが最後の一戦に備えている中、春人は1週間ほど顔を合わせていなかったアリシアと一緒に居られなかった時間を補うかのように一緒に過ごしていた。
そんなある日、宿屋でのんびり過ごしていた二人はこんな会話をしていた。
「ハルトさんはこの前帰って来たばかりなのにまた戦場へ戻ってしまうんですよね?」
「あぁ、同行する兵士たちの準備が整ったらまた出撃する。アリシアにはまた心配をかけてしまうね。だけど次の戦いが終われば暫くは戦場に出ずに済むはずだ」
次の戦いが終われば春人も暫くは戦場に立つことは無いだろうと思っていた。この一戦さえ終われば春人も本来の目的である死神部隊の捜索に専念することが出来るだろう。
「早く戦争が終わるといいですね。そうすればもっとハルトさんと一緒に居られますもんね」
「ああそうだな。次の一戦で全てを終わらせよう。そうすればもっと一緒に居られるな。そうだ、この戦争を終わらせたら前に約束していた一緒に暮らす家を探そうか」
アリシアが春人の隣を離れたくないように、春人もアリシアと同じく平時の時は共に過ごしていたいと考えていた。そして思い出したかのように春人は内偵に出発する前にアリシアと約束した、共に暮らす家を探そうと提案した。
「忘れてなかったんですね! それじゃあいつもの様にちゃんと帰ってきてくださいね」
死亡フラグとさえ取れる言葉を言ってもそのフラグをへし折って無事に戦地から帰還するのが春人だ。この約束もきっと無事に果たされるだろう。
そんな話をしていると春人を訪ねて城から使いの使者がやって来た。春人は室内ではなく廊下で彼が訪ねてきた要件を聞いた。
「ハルト様、アレクセイ将軍より伝言です。兵の準備は万全、出撃準備は整った。出撃は明日……とのことです」
春人が日常生活を満喫してる間にも王国軍は帝都に進攻する準備を着々と用意を進めていた。そしてその準備が終わり、明日出撃するため春人を呼びにこの使者は訪ねてきたのだ。
「分かりました。俺も明日、用意が出来次第王城へ上がります。伝言感謝します」
そう返事を返すと春人を訪ねてきた使者の彼は一礼をしてそのまま城へと帰っていった。春人もその背中が見えなくなるまで扉の前で見送ってから部屋へと戻った。
「今のお城の人の要件は何だったんです?」
アリシアも今の彼が訪ねてきた理由が気になるのか春人に聞いてきた。
「あぁ今のか? 王国軍の方もベルカ帝国に進攻する用意が整ったから明日出撃するって伝えに来てくれたんだ。だから俺も明日は王城へ上がって、それからそのまま作戦に参加するよ。なに、心配するな。この前みたいに1週間も空けたりしないよ。やる事やったらすぐに帰って来るさ」
使者と話した内容は隠すような内容では無いので春人もアリシアにその内容を教え、自分も明日彼等と共に出撃すると言った。
「分かりました。それじゃあ今日はもう休みましょうか」
アリシアは春人の事を考えて、早めに体を休めようと提案してくれた。それからまもなく春人達は床に就き、部屋の明かりが消えた。
日が昇れば戦場へ出発する。その時間まであと数時間……。
日付は変わり、春人とトリスタニア王国軍が共同でベルカ帝国帝都に進攻する日の朝が来た。天候は快晴、雲一つない青空が空に広がっていた。
王城内の一画にある練兵場の広場に数多いる兵士の中から選抜された兵士達が整列し、出撃を今か今かと待機していた。その兵士達の前でアレクセイが周りより一段高いことろから出撃前に兵士達の士気を高めるために演説をしていた。
「――であるからして諸君ら選ばれた精鋭はこれより敵国ベルカ帝国の首都に奇襲をかけ、帝国の皇帝の首を取りに行く! 空から侵攻を掛けるという前代未聞の作戦だが、諸君らなら確実に遂行できると信じている!」
アレクセイの演説の途中で春人もようやく城に登城してきて静かにその中に加わろうとした。だがそれを不幸にもアレクセイに目撃されてしまった。
「さあ、ちょうどいいところでこの作戦の立案者、ハルト・フナサカが登城してきた。彼からも出撃前に一言いただこうではないか」
一瞬こちらに視線が向いたように感じた春人は嫌な予感がしたと思っていた。そして案の定その予感は的中してしまった。
――まったく、面倒は嫌いなんだがな……。
そう思いながら春人は僅かに嫌そうな顔をしながらゆっくりとアレクセイの方へと歩いて行った。そして春人はアレクセイの耳元でこうささやいた。
「閣下……遅れて来たことには謝罪しますが、これは聞いてないですよ」
「英雄は遅れてやって来るとは正にこの事だな。遅れたのは気にしていない、それよりもあいつ等に出撃前に何か言ってやってくれないか? ウルブスの英雄として有名な貴様に気合を入れられれば兵士達の士気も上がるだろう」
「はぁ……分かりました」
仕方なく了承した春人は先程までアレクセイが立っていた場所に上がり、周りを見回した。この兵士達の中にはウルブスの防衛戦で見かけた顔も何人か見かけた。そして同じく、先日春人を訪ねてきたルーデルやガーデルマンの姿も確認できた。更にはルイズや彼女の護衛のフィオナ達騎士団もいる。
そして軽く息を吸い込んでから口を開いた。
「さて、今アレクセイ将軍より紹介いただいたハルト・フナサカだ。あまり時間を使いたくないので手短に話そう。この中の、いや、ほとんどの者が俺の事をウルブスの英雄、もしくは死神という二つ名で知っていることだろう。確かにこの破天荒で前代未聞の作戦を立案したのは確かに俺だ。
この作戦の目的はベルカが売って来た戦争の終結と皇帝の首を討ち取ることだ。この中にはウルブスの防衛戦で俺と共に戦った者もいるだろう。そしてその中には友を、仲間を失った者もいるだろう。
だが次のこの一戦で全ては終わる! 仲間を失った仇をここで取ろう! 連中が売って来た戦争だ、それを俺達が買って奴等を完膚なきまでに返り討ちにしてやろうではないか!
……では諸君、出撃だ。目的地は敵ベルカ帝国帝都、そこの帝城に直接殴り込む。さあ共に行こう、敵本拠地という名の地獄へ」
演説が終わると周りから一斉に歓声が上がった。アレクセイが目論んだ士気を上げるという当初の目的は成功に終わったようだ。
そして春人を筆頭にしてベルカ帝国帝都に進攻する部隊は王城を出て一度市内を凱旋してから王都を出た。市内を凱旋中、市内のあちこちから人々が出てきて今から出撃する春人達にに声援を送ってくれていたた。市民の彼等の耳には既に春人達が戦争を終わらせるために出撃するという事が届いていたみたいだ。
だからこうして街頭にわざわざ出てきて皆を見送ってくれているのだ。
その光景を見て春人は随分と暇な連中が集まって来たなと思いつつも、その彼等の期待にしっかりと答えてやろうとも思っていた。
なぜ市内を凱旋したかというと、市民に今から敵地に乗り込む勇敢な兵士の姿を披露したかったという事をこの作戦の終了後にアレクセイから直接聞いた。春人がなんともしょうもない理由だと思ってしまったのは言うまでもない。
それから凱旋を終えて王都を出るとその先では既に先に出ていた竜騎兵隊が待機していた。その数は先日のウルブスの戦闘に参加していた全てのワイバーンの数を足しても足りない程の大部隊だった。航空戦力だけでこれだけの数を揃えてきたのだから、トリスタニア王国がいか本気であるかが容易に想像できる。
「魔術師、弓兵の各員は各自割り当てられた竜騎兵と合流! 重装歩兵と残りの兵はハルトの元へ集まれ! ここからは空を飛んでの移動だ、速やかに準備しろ!」
アレクセイの号令で兵士達は一斉に動き始め、前もって決められていた配置に別れていった。何故アレクセイがここに居るのかというと、彼も共に戦場へと赴くからだ。春人も当初アレクセイが同行するとは聞いていなく、それを聞いたのはつい少し前のことだった。流石に将軍が最前線に出向くのはどうなのかと言ったが、アレクセイに
「兵をまとめる将軍が後方で引き籠っていては他の者に示しがつかん。人の上に立つものは常に誰よりも前に立つべきだというのが余の持論だ」
と言われてしまい、春人が何か言ったところでアレクセイが王都で待っているとも思えないので結局は春人の方が折れてアレクセイが共に戦場に行くことを許してしまった。
それともう一つ春人には気になっていることがある。弓兵の殆どが普通に洋弓を装備しているが、その中に一部に以前ハロルドに見せられたクロスボウと同じものを装備している者達のことだ。
「アレクセイさん、あの弓兵の一部が持っているあの装備は?」
「ん? ああ、クロスボウのことか? この間貴様がベルカの帝都に内偵に行っている間にハロルドとかいいう男が新兵器としてあれを持って訪ねてきた。今日は実戦での試験運用として持ってきた。これで優秀な兵器だと分かれば正式に王国軍で採用する予定だ」
春人が内偵に出て留守にしている間にウルブスの商人ハロルドが新兵器クロスボウの売り込みに来ていたようだ。そこでクロスボウを気に入って少数導入し、今回試験的に運用する運びになったようだ。
春人が先日ウルブスで試し撃ちをした際に上々の性能を出したので、このクロスボウはいずれトリスタニア王国で正式に採用される事だろう。
「それよりも貴様の移動手段とやらが何処にもないようだが? 一体どうするんだ?」
「それは今から用意します。まあ見ていてください」
アレクセイに移動手段がまだどこにもないと言われたがそれは直ぐに用意すると答えた。そう言って春人はMTを開いてその移動手段を用意した。
そして現れた物は大国ロシアで製造された超大型ヘリコプター、Mi-26ヘイローだった。この機体は先日使ったブラックホークよりも巨体で、その最大積載量は並の輸送機と大差ないものである。本来はこの機体の操縦にパイロットを含めて5名の人員を必要とするが、CFのゲームを基準にされている為、一人でも操縦できるようになっている。強いてこの機体の欠点を上げるとすればブラックホークや他の機体よりも足が遅いことだろうか。だがそれも大した問題ではないだろう。
「さあ、足は用意した! 速やかに乗り込め! 全員の搭乗を確認したらすぐに飛び立つぞ!」
いきなり現れた巨大な物体に驚きを隠せないでいる兵士達をよそに春人はMi-26の後部ハッチを開いて直ぐに乗り込むよう誘導を始めた。兵士の彼等はふと我に返り、春人の誘導に従って列を作りながら次々と後部ハッチから乗り込んでいく。その時に彼等は奇妙なその乗り物を不思議そうに眺めていたそうだ。
それから最後の一人が乗り込み、アレクセイとルイズ、それとフィオナ達も乗り込んだことを確認するとMi-26はその開いていた後部ハッチを閉じた。重装歩兵や騎士、一般歩兵が多数乗り込んでも巨大なその機体の内部はまだ人が数十人は乗り込めるだけのスペースが残っていた。
出撃準備も全て整い、後は飛び立つだけとなった。ヘリの外の竜騎兵隊の方も魔術師と弓兵を乗せて準備は終わっている。
それらを確認し終えると春人はMi-26の操縦席に座り、エンジンに火を入れた。唸り始めるエンジンと徐々に回転が速くなるローターがこの世界の乗り物でない事を示している。
「さあ、出撃するぞ!」
その号令と共にMi-26は更にエンジンの出力を増し、そして地面から脚を離した。
「おぉ! 飛んでる、飛んでるぞ!」
そんな声が後ろから聞こえてきた。竜騎兵以外の者が空を飛ぶことなどそう滅多にないこの世界で一度にこれだけの人が空を飛ぶのだからこんな感想が出てきてもおかしくは無いだろう。
Mi-26の離陸と同時に外の竜騎兵隊も順次飛び立ち始め、ヘリコプターとワイバーンという異色の混成部隊はベルカ帝国帝都へと飛び立っていった。




