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67:内偵調査報告会

 ベルカ帝国内の反政府勢力、ベルカ解放戦線との会談を済ませた春人はその翌日にルイズを連れて一度トリスタニア王国へと帰国した。帰りも勿論ブラックホークでの帰国である。


 当初予定していた1週間という期限にまだ二日ほど猶予があったが、情報も仲間も確保できたので早々に切り上げたのだ。内偵で攻略前の情報さえ手に入れば上々だと思っていた春人でも現地で手を組めるとは思っていなかった。これについては予想以上の収穫だった。


 そして帰国して早々、ルイズは状況報告を行うために国王や大臣たちの者へと訪ねて今後の方針について話し合いを行うそうだ。その間春人は王城内の一室にアレクセイ以下王国軍の将兵たちを呼集して早速自分が集めてきたベルカ帝国帝都の内情について報告していた。


「~~以上で帝都での内偵活動の報告を終えます。何か質問は?」


 春人は帝都での行動中に見聞きしてきたことを向こうで密かに撮影してきた写真を用いて説明した。MTマルチツールの画面を最大限表示させ、そこに帝都で撮影した写真を投影した時に一同からは「まるで風景の一部を切り取ってきたようだ」などと驚かれたが、写真という物が存在しないから彼等が驚くのも無理はないだろう。


 そこで説明した事はベルカ帝国の内政事情、市民の暮らし、奴隷市場、そして最後に広場で行われていた民衆に対する弾圧の象徴ともとれる行為の公開処刑まで全てだ。その公開処刑の場で自身の感情に任せて処刑寸前に介入して帝国の役人や執行人、それと護衛の兵士を何人も殺害したことも話した。これについては春人も話しておくかどうか迷ったが、後々面倒になっても困るので一応この件も話しておいた。そして自分が向こうで懸賞金付きのお尋ね者になった事も。


「情報収集が出来ても、内偵活動中に一時の感情で敵の前にその姿を現すとは随分余裕だな。それに敵に懸賞金を掛けられるとはお前は向こうでいったい何をしてきたのかね?」


 将校の一人が春人の軽率な行動を叱責してきた。確かに春人自身もその行為は軽率であった事は承知している。


「軽率な行いであったことは私自身十分理解しています。ですが、考え方を変えれば敵が私の首に大金を掛けたという事は私の存在を脅威と感じている、とも取れます」


 それは楽観的な考えではある。実際にはベルカ帝国が春人という存在をどう捉えているかはここに居る人間には分からない。そして続けざまに春人はこう続けた。


「ですがその行為によって救われた者が居るというのも事実です。これが帝国との戦争が終結し、向こうの国民にトリスタニア王国に雇われた人間がベルカ帝国の国民を助けたという事実が知れ渡れば以降の両国の関係が良好なものになるでしょう。それともう一つ良い知らせがあります。この件で現地の反政府勢力、ベルカ解放戦線を味方に引き入れることが出来ました。これにてこちらの部隊が侵攻する際の戦力の増強が図れます」


 戦後の事などは所詮今しがた考えた後付けの理由でしかない。それに戦後両国の関係がどうなろうとも春人には関係のない話だ。


 春人が話し終えると報告会に参加している将兵はみな一様に深く考え始めた。その内容は各々様々だろうが、中身はほぼみな一緒だった。彼等はいかに兵士の消耗を抑えて、戦後は自身の地位を向上させるかと考えていた。


 それと同時に彼等は春人の存在に僅かにではあるが危機感を感じていた。たった数日で帝都内及び帝城の様子を偵察し、同時に現地の反政府勢力を味方に引き込むその能力を危険視していた。だが実際にはベルカ解放戦線と共闘することになったのはルイズの尽力である事は彼等は知らない。


「それでハルト、貴様には何か作戦は有るのか? 1ヶ月で終戦に導くと言ったんだ。もう既に1週間経過しているぞ?」


 それぞれが戦後の事を考えている中、アレクセイだけは違った。彼は今この戦争にだけ注目しているようだ。


「策を練るのは将である皆様の仕事では? まあそれでも今回は時間が無いので私が考えた作戦でいきましょう。すみませんが部屋を少し暗くしてもらえますか?」


 今から何が始まるのかと不思議に思いながらも部屋の窓際に座っていた者がカーテンを閉めて部屋を暗くしてくれた。


 そしてMTマルチツールで宙に投影されている画面を帝都と帝城の航空写真へと切り替えた。同時に春人の手には銃に取り付けるアタッチメントであるレーザーポインターが握られていた。


「それでは作戦を説明します。我々トリスタニア王国軍は私の指揮下に入り、空路にて直接侵攻します。目標はここ、ベルカ帝国中枢である帝都です。では詳細をお話ししましょう」


 航空写真にレーザーポインターで光を当てながら流れを説明していく。今作戦の目標は二つ、帝城に進攻し皇帝オネストの身柄の確保とルイズのオーダーによる奴隷商人の館の破壊である。


「待て、皇帝を狙うのは分かるが何で一介の奴隷商が攻撃目標なんだ?」


「この奴隷商人への攻撃はルイズ殿下からの要望です。彼女は奴隷の解放を訴えていて、現政権を転覆させ自身が即位するこの機会に奴隷という制度を廃止したいようです。ここで彼女の要望を聞いておけば戦後交渉でこちらの有利に進められると思いますが? とりあえず続けます」


 参加者の一人がしてきた質問にも淡々と答え、これを行った際の彼等のメリットも話しておいた。


 その後も春人は作戦概要の説明を続けた。作戦の第一段階は竜騎兵隊による帝城及び奴隷商人の館の空爆。第二段階で地上部隊を帝城内に展開、城門を破壊し現地反政府勢力の侵入口を確保、その後互いに共闘し帝城を制圧。奴隷商の方にも同様に制圧し奴隷を解放するというものだ。


 トリスタニア王国軍とベルカ解放戦線が共闘し敵の注意を引き付けているその間に春人は単身城の内部に殴り込み、皇帝オネストの身柄を確保しに行く。


「城内の制圧が完了し次第、王国軍の部隊は撤退を開始します。撤退が完了し次第、作戦を終了とします。質問等があれば聞きますが?」


 作戦概要を説明し終えた春人は再度、質問は有るかと彼等に尋ねた。


「出撃する日にちと出兵する兵の人数はどうするのかね?」


「日にちについては部隊の準備が整い次第すぐに出撃します。兵の数はそうですね……では竜騎兵隊を王都に待機している全ての部隊と、それと同じ数の一般兵と魔術師を。内訳は半々でお願いします。こちらの部隊は竜騎兵と共にワイバーンに騎乗してもらい現地まで飛行してもらいます。それとは別に兵を50人用意してください。こちらは私の用意した移動手段で運びます」


 春人は城の制圧するにしてはあまりにも少ない人員を要望した。


「それでは戦力が少ないのでは……あぁそうか、反政府勢力を利用しようというのか」


「理解が早くて助かります。こちらはあくまでもあの国がこちらに攻め込んで来たからその報復、それと戦争の終結が最終目標です。それに対して彼方の国民は反政府勢力を築き上げるほど現政権に不満を持ち、自国の変革を願っています。その気持ちをこちらが上手いこと利用して何か悪いことなどあるでしょうか?」


 春人は悪人のような顔をしながらベルカ帝国の国民を堂々と利用すると宣言した。所詮春人の中ではベルカ解放戦線は都合のいい使い捨ての駒でしかないようだ。そして口には出してはいないが、トリスタニア王国の兵士も同様だ。


 最後に春人はこの報告会を締めくくる一言としてこう言い放った。


「さあ戦場は私が用意した。友軍も、戦場までの移動手段も同様にだ。後はそちらが兵を集め、武器を整えて戦の準備をするだけだ。全てが揃えばあとは敵を滅ぼすために進軍するだけだ。この一戦で全てを終わらせよう。さあ、それでは諸君……戦争の時間だ」

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