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66:レジスタンス

 館の中は明かりが灯っていなく無人……と言うよりももぬけの殻のようだった。外からはそれなりの大きさがあるように見えた館の内部は薄暗く、人気が無いことに少々不気味さを感じる。


「ここはある私の知り合いが有している空き家ですのでそんなに警戒しなくても大丈夫ですよ」


 そう言いながらルイズはまるで知った場所のようにどんどん奥へと進んでいった。それを春人はただ黙って付いて行っている。そして奥に進んだ先には地下へと延びる階段へと差し掛かり、ルイズは一度その前で立ち止まり春人の方へと振り向いてきた。


「この階段の下にハルトさんと会ってもらいたい人達が居ます」


「そうか。この下の連中が敵でないと保証できるんだよな?」


「それは大丈夫です。彼等もきっと貴方の事を見たら歓迎してくれますよ」


「……まあいいさ。さあ、案内してくれ」


 何が出るか分からないが、少なくとも敵ではないというルイズの言葉を信じて地下へと降りていった。そこは左右に酒瓶が貯蔵されている酒蔵だった。その中を通りすぎて、更にその奥に足を進めるとそこにはこっちでは珍しい金属製の扉が待ち構えていた。


 ルイズは扉に手を掛けると一度春人に目をやり、今からここを開けると無言で訴えてきた。春人もそれに頷いて答え、それを見たルイズは重そうに扉を開いた。


 その先には光が待っていた。


「皆さん! 彼を連れてきましたよ!」


 そこに向かってそう叫んだルイズに釣られて春人はその先へと視線を向けるとそこには老若男女、沢山の人が集まっていた。その光景を見て春人は夜間外出禁止令が出ているのによく集まれたものだと思っていた。


「おぉアンタが姫様が連れてきた助っ人か?」


「話はだいたい聞いている。よく来てくれた」


「まさか本当に来てくれるとはな。世の中捨てたものじゃないな」


 どうやらこの様子だと彼等は春人のことを歓迎してくれている様だ。だがそれでも春人には疑問がある。それは……


「どうやら俺を歓迎してくれているようだな。で、これは一体何の集まりなんだ?」


 春人の疑問はもっともである。ルイズは何も言わずにここに連れて来るは、彼等も彼等でルイズの正体を知っている様だし、春人には分からないことだらけである。それにこんな地下に潜伏するように集まっている事も何だか怪しく思えてくる。


「何だ、姫殿下はまだ何も彼に言っていないのか? では説明しよう。我等は帝国の現政権の打倒を目指す反政府組織『ベルカ解放戦線』である」


 ここに集まる彼等はそう名乗った通りに反政府勢力、レジスタンスの集まりだった。彼等の目的は現政権の打倒というルイズと同じ目的を持っていた。同じ目標を持っているからルイズは彼等に協力を申し出たのだと春人は考えた。と同時に彼等の組織名のネーミングセンスがあまりにも安直すぎるのではとも内心思っていたようだ。


「なあ殿下、彼等とはどういった関係だ?」


 皇族と一般人との間にどんな繋がりがあるのか不思議に思った春人はルイズに訊ねた。


「彼等は私がフィオナ達と共に国を脱出する際に手を貸してくれました。その時に彼等と約束をしたんです。きっと味方を連れてまた帰って来ると」


 彼等が尽力したから無事にルイズ達がトリスタニア王国に亡命できたのだろう。でなければ今ルイズがこの場に居ることは無かったのだろう。


「成程な。その味方がたまたま俺だったと」


 春人がルイズと彼等ベルカ解放戦線との関係に納得しているとその背後から更にもう一人入って来た。


「いやぁ遅れてすまない。昼間の広場での一件で遅れ……ってお前は!」


「ん? どこかで会ったか?」


 春人の後から来た彼等はその春人の姿を目にすると驚きを隠せないでいた。その彼の反応を不思議に思いつつ、春人は彼に何処かで会ったかと訊ねてみた。春人もその彼と会った記憶などどこにもなく、全くの初対面と言っても過言ではない。


「何処も何も昼間、あの広場で仲間達を処刑台から救ってくれて、その後兵隊相手に暴れまくっていただろう!? 俺はあそこで一部始終を見てたんだ! なあみんなも知っているだろ? 今日配布された手配書の男の事を。その手配書の男が彼なんだ!」


 彼は春人の事を指さして叫ぶようにそう答えた。そして他の仲間達に春人の正体を打ち明けた。それを聞いたベルカ解放戦線のメンバーの中からどよめきが聞こえてきた。彼等も昼間の一件については耳に入っていたようだ。


「あの処刑台から仲間達を救った英雄が彼なのか?」


「確かに手配書の特徴と一致しているな」


「判事と処刑人を殺してから兵隊相手に奮戦していたらしいぞ。そんな男が加わってくれるとは心強い」


 他にも色々と噂を耳にした彼等が春人の事を話している。そのどれもが春人を称賛するような声ばかりだ。これならばこの反政府勢力の中から春人を帝国に売り渡そうという者は出てこないだろう。


「オタクらの噂話の通り、俺があの広場で暴れていた。そのお陰で帝国からは追われる身になってしまったが、まあその程度問題ではない。それに、ここに俺を売るような奴は居ないだろう?」


 春人も自分がその噂話の本人だと打ち明け、同時にお尋ね者でもあるとも答えた。帝国に追われる身になっても何とも思っていない春人の態度に周りは少し引いていた。少しは緊張感を持て、と思われていた。


「さて、無駄話は後にして本題を進めよう。先ずは俺をここに呼んだ理由から教えてもらおうか?」


 周りの空気を読まずに春人は自分をここに呼んだ理由を訊ねた。雑談を飛ばすのはもはや春人の癖になってきている。そしてその質問は一番年老いているだろう男性が人混みの中をかき分けて出てきて答えてくれた。


「貴殿にご足労いただいた理由はもう既に貴殿も見当がついているのでしょう? 貴殿には我等が起こすクーデターに共に参加していただきたい。勿論無理にお願いすることは致しません」


 やはり春人を呼んだ理由は革命を起こす手助けの為だった。それは以前にルイズ達がウルブスに逃げて来た時に同じことを言われたので春人も予想していた。そしてその予想は見事的中したのだ。


 そこで春人は考えた。彼等を味方に付けて戦力として数に含めれば、近々トリスタニア王国軍と共に行う予定の帝都進攻、及び現ベルカ帝国皇帝の身柄の確保が多少は楽になるのではないか、と。だがそれにはいくつか問題がある事も理解していた。一つは指揮系統の違いによる現場の錯綜と、他に彼等が決起するための準備期間があまりないこと。後は王国軍の兵士とベルカ解放戦線のメンバーとの同士討ちも考えられる。


 だがそれは解決してしまえばいいだけの話だ。デメリットに目を向けるよりも戦力が増えるメリットの方が大きい。だから春人は決断した。


「……いいだろう。今回はたまたまお互いの目的が似ているようだ、協力し合おう」


 とは言うが春人は彼等を利用する気でいる。春人の持論では戦場に民間人は邪魔な存在だと思っているが、彼等は今は民間人ではない。元は非武装の民間人だったのだろうが、彼等は望んで反政府勢力を組織し、戦う事を選んだ。だから今は戦士として彼等を扱う。


 戦士として扱えば戦場での駒として使っても違和感がない。戦死しても同様に問題が起きない。


「ありがとう。貴殿の協力の申し出、心より感謝する。そう言えばまだ貴方の名前を聞いていませんでしたね。私の名はマルコと言います」


 この老人マルコは春人の内心を知らずに春人を歓迎してくれた。それは他のベルカ解放戦線のメンバーも同じであった。


「ハルト・フナサカだ。春人でいい。で、そっちの目的を聞きたのだが? 現政権を打倒したとして、その後はどうする気だ?」


「ご存知の通り我等は現皇帝オネストから政権を奪還し、その後こちらに居られるルイズ皇女殿下に即位していただき今後の帝国の政権を掌握していただきたいのです。現在この国は皇帝の独裁政権により民が苦しめられている状態です。少しでも意を唱えれば国家反逆の罪で捕えられ、見せしめとして広場で公開処刑されてしまうのです。それはハルトさんもご存知でしょう。私は昔のような平和な帝国に戻ってほしいのです。我等の目的はだいたいこんなところです。ハルトさんの目的も差し支えなければお聞きしても?」


 マルコが春人に目的を説明するとその後ろから彼の話に同意するように「昔はよかった」だの、「前の皇帝陛下がまだご存命ならどれだけよかったことやら」や「先代様をオネストが殺めてしまったところから全てが変わってしまったんだ」などの声があちらこちらから聞こえてくる。彼等の声で今の国家に相当苦しめられているというのが春人でも何となく理解できた。


「オタクらの事情はだいたい分かった。それと俺の目的が知りたいのだな? いいだろう、俺はある連中を探している。その手掛かりが今の皇帝……オネストとか言ったか? が持っているだろうと思ったからここに来ている。でなければ俺は殿下に手を貸すつもりは無かったし、トリスタニアにも協力したりはしないさ。あぁ言い忘れていた、俺はトリスタニア王国の部隊がここ帝都に進攻する前の内偵中だ。俺と協力関係になるという事はトリスタニア王国とも協力するということになるだろう。向こうも話をつければきっとオタクらを悪いようにはしないだろう」


 春人の目的はあくまでも死神部隊の捜索、そして抹殺である。その手掛かりがこの国に有るとふんでルイズやトリスタニア王国に手を貸しているだけに過ぎない。そうでなければ両国の戦争状態など関係なく一人で捜索に出ていただろう。春人にとってこの二つは利害が一致しているから協力しているだけだ。


 そしてそのついでとばかりに今はトリスタニア王国の進攻前の内偵作業中だと言った。


「まさか貴方は人探しの為にここまで来たのですか。その人達の特徴は? 私達で知っている事であればお教えしましょう」


「死神部隊……と言っても聞き覚えが無い相手だろう。それにこいつ等と関わると確実に皆殺しにされるから関わらない方がいい」


「そんな物騒な相手を追っているとは……。流石に私達もその相手の事は知りませんね。手掛かりが無くて申し訳ないです」


「かまわない、むしろ知らないのが当然かもしれないからな」


 死神部隊の情報は彼等も知ることは無いようだ。ここに潜り込むときにも一般の兵士のも同じように聞いたが、知らないと答えられたのだから仕方が無いことなのだろう。だが帝国に一時雇われいた死神部隊だから皇帝以下国家の重鎮たちを締め上げれば何かしらの情報は得られるかもしれないと春人は考えた。


「それで王国の部隊はいつ帝都に攻めて来るのですか?」


「いつ攻めるかはまだ未定だ。だがそう遠くはない。その際は必ず合図を出そう。それまではそちらで戦いの準備をしておいてもらおう。だが帝国の役人や兵士共にはバレるなよ?」


「分かりました。密かに戦の準備をしておきましょう。そして、その合図とは?」


 合図はと聞かれて春人は口角を上げながらこう答えた。


「俺達は直接城に攻め込む。その時城がドンパチ賑やかになる。それが合図だ」


 それからも暫く春人とベルカ解放戦線との間で戦の前段階の話し合いが続いた。ルイズが考える奴隷制度の廃止と現在の奴隷にされている人達の解放も話し合いに上がって来た。この中の彼等の一部にはこの制度は残しておきたいという考えもあったが、それはルイズが説得して理解してもらった。それでもここに居ない一般の市民の考えまでは分からないが。


 これでトリスタニア王国が攻める際の攻撃目標があらかた決まった。目標は皇帝の根城及び帝都内に駐屯している部隊の兵舎、後はルイズの要請によりここに奴隷商人の屋敷が加えられた。奴隷商人に慈悲のないこの要請に春人は数日前のルイズとは大違いだなと思っていた。


 後は春人が一度トリスタニア王国に戻り、状況を報告し、部隊を整えて進攻するだけになった。それまで彼等の存在がバレずに、かつ春人達が侵攻してくるまで大人しく待っていられるかだけが心配ではあるが……。






 一方春人がベルカ解放戦線と会談している時と同時刻、ベルカ帝国の帝城でも動きがあった。


「皇帝陛下、今日帝都広場で行う予定だった公開処刑での乱入者の件、お耳に入っていらっしゃいますか?」


 城内謁見の間では皇帝オネストと大臣のような者が話し合っていた。


「ああ既に聞いている。判事と処刑人がその乱入者に殺されたそうだな。その辺は警備に不備のあったお前たちの失態だ。分かっているな?」


「はい、その件については重々承知しております。それよりもその乱入者の事でお話しておきたいことが」


「なんだ?」


 皇帝オネストは家臣たちの失態に機嫌を悪くしながらも話を聞くべく続けさせた。


「その乱入者ですが、陛下の直属で雇われていた例の部隊で使用していた武器に酷似する物を使っていたという報告が上がって来たので一応陛下にもお話しておこうかと……」


「と言うとジュウとかいう武器か?」


「私には分かりかねますが、たぶん同じものかと」


 オネストはそこで考えた。先日忽然と姿を消した自身で雇った死神部隊の人間が戻って来たのではとも考えた。だが彼には死神部隊が姿を消した理由が分からない。


「とりえずは特徴のある男でしたので、判事と処刑人の殺害の容疑で手配書を生死無用の懸賞金付きで出してはありますが……」


「殺してはならん! その者は生きたまま捕えて俺の元へ連れてこい! 色々とそいつに聞きたい事があるからな。早急に捜索隊を出せ!」


「はっ! 直ぐに!」


 要件を伝え、オネストから新たな命令を受けた彼は駆け足で謁見の間を出て行った。そして残ったオネストはひとりこう呟いていた。


「何の前触れもなく姿を消した死神部隊がまた戻って来るとはな。契約期間はまだ残っているんだ、居なくなった理由を聞かせてもらわないとな」


 死神部隊が戻って来たと思っている彼は知らない。その相手が死神部隊でも元メンバーで以前隊長を勤めていた男だとは……。


「さあ早く戻ってこい。その力をまた存分に俺の為に振るってくれ! 全ては我が野望のために!」


 そう言っているオネストの纏うマントの下には、この世界の人間には使える筈もない黄金色をした銃が刺されていた。

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