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64:潜入! ベルカ帝国 2

 ベルカ帝国帝都に到着してから一晩明けた。昨夜は静まり返っていた市内では人々が活動を開始している。同じくして春人達も活動をそろそろ始めようとしていた。


 宿の主に言われたが、この街はやはり夜間外出禁止令が発令されていたようで、ここの主に日が沈んでから出歩くのは危ないと言われてしまった。なんでも巡回している兵士に捕まると問答無用で監獄に収監されてしまうとのことだ。それにあの時春人が訪れた時はもう店を閉める寸前のところだった。


 そして案の定、春人が殺害した兵士の死体が他の兵士に見つかって、大問題になっていた。まあ目撃者もいない事だから犯人が春人だというところまではたどり着かないだろう。


 準備を整えて春人なるべく目立たない格好をしてから宿を出発した。ルイズの方はというと、彼女の方でも何かやることが有るという事なので、暫しの間別行動だ。


「いいか、絶対に正体がバレるような事は避けるんだ。信頼している相手だろうと例外はないからな。今この国の中に味方は俺以外にいないと思うように」


 単独行動をするルイズに春人は別れる前にこのように念を押して注意していた。それでももし何かあれば春人は行動を起こすつもりでいた。


 そんな春人はいま市内の主に人が集まって賑わっている所に来ている。周りには市場が開かれ、人々が色々な物を売り買いしている。この辺はトリスタニア王国とそう変わりは無いように見えた。


 市場の中を過ぎていくとその先で大きな人だかりが出来ていた。春人はその人混みを押しのけて何とか前の方に行くと、その人だかりの正体が分かった。


「さあ、お集りの皆さん! 今日も活きのいい奴隷を仕入れてきました! 労働力として、または夜の相手として! 使い方は旦那様、御婦人様方の思うままに! さあ、どんどん商品を紹介していきますよ」


 人だかりの正体は奴隷市場だった。店主であろう中年のよく肥えた醜い男が周りから一段高い所で叫んでいた。その横では首に鉄製の首輪を嵌められ、そこから鎖で繋がれている奴隷として扱われている者たちが居る。それは主に獣人種であるが、その中に何人か普通人種の姿もある。そして偶然なのだろうが女性の比率が多いように見える。


 その光景に春人は非常に強い嫌悪感を感じ、ある事をしてからこの場を後にした。いつまでもこの場に居たら自分もここに居る連中と同じになってしまうと思ったからだ。そして同時に何故ルイズが奴隷解放を唱えたのかが何となくではあるが理解した春人だった。


 それから春人は本来の目的地であった皇帝の居城である帝都の城に近づいていた。流石に警備が厳重な為、必要以上に近づくことが出来ない。


 だが近づけなくとも春人は問題ない。遠くからでもある程度は観察することが出来るからだ。春人はなるべく人目につかないように路地裏に入った。だが入った路地裏がまずかった。


「あ? なんだテメー」


 そこに屯していたのは所謂ゴロツキと呼ばれる類の連中だった。


「悪いな道を間違えたようだ」


 春人はなるべく波風を立てないようにこの場を後にしようとした。だが彼等はそれをよしとしようとしなかった。


「まあ待てよ。オメー幾らか金を持ってるんだろ? だったら恵まれない俺達に金を分けてくれよ。そうすれば何もしねーからよ」


 春人の肩を掴んできたゴロツキは金を出せと春人に要求してきた。要するにただのカツアゲだ。こんな事をする連中は国を越えてもどこにでも居るみたいだ。だが彼等にとって絡んだ相手が非常に悪かった。


「悪いがお前等にやれる金は銅貨1枚たりとも無いんだ。代わりにこれをやろう」


 振り向きざまに春人はまず肩を掴んできた相手の腹部にナイフを突き刺し、そのまま刃を横に捻ってから引き抜いた。そして春人に刺されたその男は傷口から大量の血を流しながら、その場に崩れ落ちていく。


 春人の足元に倒れながらもまだ微かに息は有るようだが、その傷は確実に致命傷な為そう長くはもたないだろう。


「まったく……どこに行ってもお前等みたいなのは居るんだな。お前等がここで死んでも誰も気に留める者は居ないだろう。……では仕事の邪魔だ、ここで死んでもらおう」


 春人は未だ血の滴るナイフを振り払って付着していた血液を取り払ってからシースに戻すと、サプレッサーが付いたガバメントで淡々と彼等を射殺していった。


 そして最後の一人になるまで始末してから春人は一端手を止めて、残りの一人にゆっくりと近づきながら口を開いた。


「さてと、お前で最後だな。殺す前に聞きたいことがある。俺は人を探してこの国に来た。お前、死神部隊って連中を知ってるか?」


 だが帰ってくる答えは沈黙のみである。知っていれば命乞いの為にここでベラベラ喋るのだろうが、一行に喋る様子は見せてこない。つまりは春人の目の前でガタガタ震えて縮こまっているだけのこの男は何も知らないのだろう。


「……何も知らないようだな。ではサヨウナラ」


 最後に何か言いたそうに口をあわあわ動かしている彼を無視し、春人は最後の一人を始末するべく引き金を引いた。


 そして立っているのは春人だけになった。最初にナイフで刺された男もいつの間にか息絶えていたようだ。


「無駄に弾を使ったな。おまけに情報も無しときた。まあ街の連中は知らなくともこの国の皇帝を締め上げれば何か知っているだろうな」


 春人はひとり、自分で築き上げたゴロツキ共の死体に目をやりながら呟いていた。


 春人がベルカ帝国に来た本当の理由は死神部隊に関する情報を集める為だった。戦争終結に手を貸すというのはたまたま目的が近いからというだけだからだ。それでも言った以上はやるべきことはしっかりとやるつもりでいる。


「しかしまぁ、こんなことしてたんじゃ俺もきっとロクな死に方をしないだろうな。まあいい、仕事に戻ろう」


 続けて更に独り言を呟てから春人は路地裏を更に奥へと進んでいった。


 そして通りから離れて、誰も近くに来ないような奥地まで来ると周りを確認して誰一人居ない事を確認してからMTマルチツールから小型偵察ドローンを選択して、それを城の方へと飛ばして内部の偵察を始めた。


「外の状況は分かっても、内部が分からないんじゃあなぁ。どこかで見取り図でも手に入れるか」


 流石に城の中までは偵察出来なかった。ドローンを城の内部に潜入させればある程度は分かっただろうが、それにはそこそこのリスクが伴うと思ったからそれはやらない事にした。


 そしてドローンでの空撮もそこそこに春人は城の偵察を終了し、ドローンを回収してから人気のない路地裏を後にした。


 城の偵察を終えてもまだ時間に余裕が有ったので、春人はまた街の方へと戻って市内をぶらつき、適当に時間を潰してから宿に帰った。


 その戻った宿には既にルイズが先に帰ってきていたようだ。


「あっ、ハルトさんお帰りなさい」


「ん? あぁ、今戻った。そっちはどうやら身バレせずに済んだみたいだな。そっちの用は終わったのかい?」


「ええ問題なく。そういえばハルトさんはこっちに1週間は滞在する予定ですよね?」


「予定が早まらない限りはそのつもりだが?」


「では後日少しだけ時間を貰えますか? 会ってもらいたい人達が居るので……」


「……いいだろう。だが俺と敵対するような奴等なら、分かっているな?」


「そっそんな人達じゃないですよ! 会ってもらえば分かります」


「相手の詳細は話せないのか?」


「ここじゃあ無理です。何処で誰が聞いているか分からないので……」


「それもそうだな。では、その話は後でにしよう」


 ルイズの要件も把握した春人は話をそこで切り上げた。彼女が相手の詳細を離せないという事は警戒しておくに越したことは無いだろう。


 やる事も特になくなった春人はその夜、今日集めた情報と市内で撮影した写真をMTマルチツールにて整理した。昼間の奴隷市場でしていたある事とは写真の撮影で合った。流石に堂々と構えて撮影していたら下手に目立ってしまうので、撮影時はさながら盗撮の様だった。


 この日はこれで仕事を終わり、その後数日も特にトラブルなく内偵活動をしていた。春人が内偵中に初日に見た奴隷市場のようなものが市内のあちこちで見かける度に、そして行った先々で奴隷にされた者達がまるで替えの効く道具のように扱われているのを見る度に春人はひどく気分を悪くしていた。


 その際に何度も銃を出して奴隷商の者を、奴隷の主を殺そうと思ったことも有ったが、今ここで行動を起こして後々に支障をきたしてはマズいと分かっていたからグッと我慢してきた。


 そんなことも有ったが、春人はあまり目立たないように帝都内の内偵作業をしていた。そんなある日のこと、春人は市街地の中心部にある広場で人だかりを目撃した。人が集まって何かしているのはここに来てから何度か目撃していたので特になんとも思わなかったが、今回だけは何かが違うと感じた。


 春人はその感じた違和感が気になったので、その人混みの中をかき分け、その正体を探りに行った。その先で見たものはあまりにも衝撃的だった。


「~~以上の罪状により、ここに居る物全てを国家反逆罪の罪により縛り首の刑を言い渡す!」


 春人の視線の先には絞首刑台が設置されており、その上で老若男女問わず沢山の人間が首に縄を掛けられていた。その中にはまだ年端もいかぬ子供の姿もあった。覚悟を決めている者や泣き叫んでいる者など、処刑台の上ではまるで阿鼻叫喚の地獄のようだ。


「子供でさえ処刑しようとするなんて、この国も変わっちまったな」


「それ以上は止めとけ。役人に聞かれたら次にあそこに吊るされるのはお前だぞ」


「神よ、どうか彼等をお救いください」


 事の次第を見ている観衆の中からそんな言葉が聞こえてくる。この国で民衆を弾圧して圧政を敷いていたのはどうやら本当だったようだ。


――予定変更だ。ここで見て見ぬふりをするほど俺は外道ではないからな。


 春人の中で何かのスイッチが入った。事を起こす前に現在残っている残弾を確認している。弾は十分残ってる、マガジンも必要な分はMTマルチツールより既に取り出してある。後は行動に起こすだけだ。そして最後の準備とばかりに、春人はガバメントからサプレッサーを外した。暴れるのにコレは不要だからだ。


「では刑を執行する前に何か言い残しておくことは有るか? 無ければこれより刑を執行する!」


 判事がお約束とばかりにそう言った。そして判事が執行官に合図を出すと、黒い覆面を被ったその死刑執行人が絞首刑台に設置されていたレバーに手を掛けた。そのレバーを引くと足場の床が開いて受刑者が宙に吊るされる仕組みなのだろう。


「やれ!」


 それが判事の最後の合図だった。本来ならこれで執行人がレバーを引くのだろうが、その執行人がレバーを引くことは無かった。突如観衆の中から響いた轟音と同時に執行人は頭部を吹き飛ばされながら殺されたからだ。


「何者だ! 帝国に反逆する愚か者は! 出てこい!」


 いきなり奇襲を受けたことで動転している判事が叫んでいる。それに対して春人は直ぐに答えた。


「そいつは俺がやった。次はお前だ」


 春人が名乗りを上げると周りにいた民衆が一斉に春人から離れて、そこだけ周りから目立つくらいに空間が開いた。そして周りが開いたことで春人は次の弾丸を判事に向けて放った。


「では死ね」


 間髪入れずに2発目の銃声が広場に轟いた。

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