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62:黒き鷹、異世界の空に舞い上がる

 アリシアと熱い夜を過ごした春人は昼前まで寝ていた。予定ではもう数時間早く起きる予定だったので完全に寝坊だ。


 春人のその横には一糸まとわぬ姿でアリシアがまだ寝ている。


 春人は彼女を起こそうかどうか少し悩んだが、時間が押しているのでアリシアをそのままに急ぎ身支度を済ませて春人は書き置きと幾らかの白金貨を残して一度王城へと向かった。


 その書き置きにはこう書いてあった。


『じゃあアリシア、俺は行ってくる。帰りは遅くても1週間後、なるべく早く済ませて帰って来る。それまで暫し寂しい思いをさせてしまうが許してくれ』


 アリシアがその書き置きを見たのは春人が出発してから少ししてからだった。


――行ってらっしゃいハルトさん……どうかご武運を。


 春人のいない部屋でアリシアは一人春人が無事に帰って来ることを願っていた。






 王城に向かった春人は城の前の衛兵に止められたが、自身の身分を証明しアレクセイ将軍と面会したいと言うとすんなりと中へ通してくれた。アレクセイ辺りが春人が訪ねてきたら中に通すようにと衛兵たちに通達したのだろう。


 城内へ通された春人は中で案内人の付き添いの元、応接室に案内された。そこで暫く待っているとアレクセイがやって来た。


「おう、ハルトではないか! 余を訪ねて来るとは珍しいな。一体どうした?」


「アレクセイさん、お忙しいところ訪ねてきて申し訳ない。ちょっとここを出る前に一応挨拶をしておこうと思って……」


「出て行く? どうした? ウルブスに戻るのか?」


 春人が出て行くと言うとアレクセイは春人が活動拠点をウルブスにするのかと思ったようだ。だが実際はそうではない。だから春人は説明を続けた。


「いいえ違います。出て行くと言っても行き先は違います。俺はこれからベルカ帝国の内偵に行ってきます。期間はだいたい1週間を予定しています」


「なるほど……こちらから攻め込む前に敵の内情を知っておこうという事か。という事は行き先は帝国の首都だな?」


「はい。その予定です」


「で、貴様は地図も無しに道中の道順は分かるのか? 向こうとこっちでは使う貨幣が違うが持ち合わせは有るのか? それに1週間では行って少し見て帰って来るだけで終わってしまうぞ? 色々と急いでいるのは分かるが、ちと無理しておらんか?」


 アレクセイは春人の予定が色々と肝心なところが抜け落ちている事を指摘したが、春人はその辺は問題無いと返した。


「行程は確かに少々強行していますが問題ありません。帝国内で使用する金については向こうで工面します。それと向こうに着くまでの道順についてもこちらで何とかします」


 春人の考えではベルカ帝国内に入ってから必要なものは全て向こうで確保する予定だった。それでも向こうに着くまでの道順だけはどうにもならない。そこだけが問題だった。


「必要なものは全て向こうで工面するか……。だがそれでも水先案内人は必要なようだな? そうだ、ちょっとここで待っておれ」


 そう言うとアレクセイはいったん部屋を出て何処かへ行ってしまった。それから数十分経ってから戻って来た。


「待たせたな、いま丁度いい案内人を連れてきた。さあ、どうぞ中へ」


 アレクセイがそう言うと扉の向こうから誰かを中へ招き入れた。その彼が連れてきたその丁度いい案内人とは驚くべき相手だった。


「ルイズ殿下! 何で貴女がここに? ……あぁそうか、アレクセイさん、丁度いい案内人とは彼女のことですね?」


 まさか一時亡命してきた皇女殿下を案内人にしようとは流石に誰も思いつかないだろう。アレクセイのした行動に春人は驚きを隠せないでいる。今彼女を自国に戻せばその身に危険が及ぶかもしれないというのに、アレクセイはその辺の考えがいまいち足りないようだ。


 アレクセイがその辺の考えが足りないのはきっと脳みそまで筋肉で出来ているからだろう。


「ハルトさんの事情はこちらのアレクセイ将軍から聞きました。私でよろしければ案内しましょう」


 アレクセイから何をどう聞いたのかは分からないが、ルイズは春人をベルカ帝国の首都まで連れて行くと言った。


「殿下の気持ちは嬉しいのですが、今国へ戻ればまたその身が危険に晒されるのですよ?」


「それについては重々承知のうえです。私も向こうでやらなければいけない事が出来たので丁度良かったです。それにもし、私の身に何かあればハルトさんがどうにかしてくれるのでしょう?」


 危険を承知でルイズは行くと言っている。ここで何か言ったところで彼女の気持ちは変わることは無いだろう。そしてもしもの際には春人を頼るという事はフィオナ達騎士団を連れて行かないという事だろう。


 内偵に行くというのに大所帯になっては身動きが取りづらくなるからだろう。


「言ったところでその気が変わることは無いですよね……。分かりました、では殿下に案内人をお願いします」


 結局春人の方が折れ、ルイズが同行することを許可した。内偵と同時に彼女の護衛を勤めなければいけなくなったので春人の内心ではとても面倒だと思っていた。


「では早速出発か? 必要ならばこちらで馬を用意するが?」


 話もまとまり、春人がもう出発すると思ったアレクセイが馬を貸してくれると言ってくれた。だが春人は馬を操れはしないのでそれは丁重に断った。それに馬など必要としていない。


「必要ありません。もっと早い移動手段が俺には有るので。出来れば出発前に何処か広い場所を貸してください」


「馬より早いものか……それは見物だな。どれ、広い場所だな、それなら練兵場の一画を使うといい。案内しよう、着いてこい」


 それから春人はアレクセイに連れられて城内の中庭のような場所に連れてこられた。周りには特に障害物になるような物は無く、周囲は壁で囲われていた。春人の特殊性を考慮してアレクセイがあまり目立たない場所を選んでくれたのだろう。だがそれもこの後の春人の行動で全て徒労に終わってしまうが。


 ちなみにルイズは出発前に必要な物を準備するようにと言ってあるので今は別行動である。


「さてと、ここでいいだろう」


「ありがとうございます。これだけ広ければ問題ありません」


 春人がここで問題ないと言うと久しぶりにMTマルチツールを起動させた。そこからこちらに来てから今まで一度も選択していない項目を開いた。その項目にはこう書かれている。


 Vehicleビークルと……。


 その名の通りリストの中には車両、航空機の名前がズラリと表示されている。春人の考えが正しければ銃と同じようにこの中の物も出せるだろうということだ。そしてその中から一つの機体を選択した。


 結果春人の考えが正しかった。選択した機体を決定した瞬間、銃が召喚される時と同じように光を放ちながら春人の目の前にそれは現れた。


「おいハルト! これは一体なんだ!?」


「UH-60ブラックホーク……と言っても分からないでしょう。端的に説明すればそうですね……空を飛ぶ乗り物と言ったところでしょうか。あぁそれと、これについての口外は避けてください」


 UH-60ブラックホーク……現在でも米軍を中心に世界中で使用されている兵員輸送ヘリだ。なぜ春人がこれを出せると思ったかは先日ウルブスの戦闘で死神部隊が撤退する際にオスプレイを使用していたからだ。彼等に使えるのだから春人も使えるだろうという事だ。


 もともとCFコンバットフィールドでは銃以外にも車両などの乗り物もショップで取り扱っていた。かつてあのゲームで遊んでいた時に有り金を使いまくって色々と買い込んでいた物がここで役立つとはく、思いもしなかった。だが生憎現在の春人のショップのリストには乗り物が並んでいないので、今手持ちで所有している物しか使えない。


 それともう一つ懸念事項が有るとすれば燃料の問題だろうか。


「さてと、久しぶりの操縦だな。上手く飛ばせるかね」


 興味津々にブラックホークを見つめるアレクセイを横目に春人は操縦席に乗り込んで機体の発進前チェックを行っている。春人が今している機体チェックも実機のそれとは全然違い、ゲーム中と同じであればこのチェックも本来は必要ではない。それにゲーム内と同じであればヘリの操縦もそう難しいものではない。


 そして機体チェックもそこそこに終わらせてエンジンに火を入れた。ローターが回り始めアイドリングをし始めた頃にルイズがようやく表れた。彼女は今までのどこから見ても皇族のそれだと分かるような派手な恰好ではなく、どこにでもいるような市民と同じ格好をしている。あれもきっと自身の身を守る為の策なのだろう。そしてそのルイズの後ろには話を聞きつけたフィオナ達までもが何故か付いてきている。彼女達はルイズを見送りに来たのだろう。


 そのルイズを出迎える為に一度操縦席から降りて彼女の元へと向かって行った。


「殿下! ようやく来ましたね。さあ乗ってください! 準備は出来ています。直ぐに出発しますよ!」


 春人はエンジン音にかき消されないように大声で話してルイズにブラックホークへの速やかな搭乗を促した。


「ハルトさん! あれで行くのですか!?」


「ええそうです! さあ早く!」


 春人がルイズの背中を押して機内へ乗り込ませ、ルイズが機内の簡易席に座ったのを確認すると機体側面のドアを閉めた。そして春人も操縦席に外側から乗り込もうとしたときにフィオナに話しかけられた。


「殿下から事情は聞いた。私達が同行できない分、殿下の事をしっかりと守ってくれ。だがもし殿下の身に何かあればお前の命が無いものだと思え」


「大丈夫だ、任せておけ」


 それだけを言うと春人は機体から離れる様にジェスチャーをしてフィオナを離れさせた。そして安全を確認してから春人は操縦席に乗り込んだ。


「ご搭乗の皆さん、私はハルト・フナサカ。本日の機長を勤めます。規則によりこのブラックホークヘリコプターは禁煙となっております。トリスタニアマイレージプログラムでは本日100ポイントプレゼントいたします。また万一、ご気分の悪い場合はシートの前に紙袋がございます」


「ん? なんですそれは?」


「……いや、何でもない。出発する」


 春人はここである映画の台詞を言ってみたが、案の定通じなかった。少しだけ凹みはしたが、気持ちを切り替えて操縦に専念することにし、エンジンのスロットルを上げていった。


 そしてブラックホークはエンジン音を更に強く周りに響かせ、砂埃をまき散らしながらゆっくりと地面から足を離し始めた。それをアレクセイやフィオナ達は手で顔を覆うようにしながら轟音と共に飛び立っていくそれを見送った。王城からある程度上昇してから機首を一度ウルブスの方角へと向けてブラックホークは異世界の空を飛んでいった。


 異世界での初フライトは一切問題が発生することなく、順調に空路を進んでいく。馬の脚で移動するのにほぼ一日を要した王都~ウルブス間を小一時間ほどで走破している。ここに来るまでの間、ルイズは空からの眺めが珍しいのか、ずっと窓越しに外の景色を眺めている。


「殿下、下を見てください。ウルブスの上空を通過します」


「もうここまで来たのですか!? これはワイバーン並みに早いのですね」


 ルイズもこれに興味が有るのかは知らないが、ただ移動速度が速いことに心底驚いていた。彼女が言うワイバーン並みに早いといわれても、春人はワイバーンの巡航速度が分からないのでいまいちピンとこなかった。


「それで、針路はどうすれば?」


 ウルブスまでは来れても、そこから先、ベルカ帝国までの道なりを知らない春人はルイズに訊ねた。


「それなら地図が有るのでこれを使ってください」


 そう言うとルイズは席から身を乗り出して操縦席にいる春人にこの辺一帯の国家及び主要都市が記載された地図を差し出してきた。


――アレクセイさん……これが有るなら最初から地図だけを渡してくれればいいものを……。


 そう思っても後の祭りでしかない。


「ええと……ここがウルブスだから帝国の首都の方角は……と」


 どうやらまともに地図を見れないルイズにしびれを切らした春人は彼女から地図を取り上げて、自分で針路を調べることにした。


「どれ貸してみろ。地図だとこっちが北だから……目的地はだいたいこの方角だな」


 地図に記載されている情報を基に針路をベルカ帝国首都に向けて真っ直ぐ飛んでいった。

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